来る10月23日、三池崇史監督の最新作『バッド・ルーテナント:トウキョウ』が公開される。今作はなんと日本とハリウッドの共同企画となり、小栗旬と『シンデレラ』『ベイビー・ドライバー』のリリー・ジェームズが共演を果たし、夜の東京を駆け巡る壮大なサスペンス・アクションが展開されるという。
ところで、『バッド・ルーテナント』といえばニコラス・ケイジが主演する同じタイトルの映画があったなと思いきや、本作の原案はさらに時代を遡り、1992年の映画『バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト』がルーツらしい。
ところがこの映画、国内の配信とは縁がなく、(執筆時点で)どのサブスクでも観られないレア作品と化していた。幸い、映像ソフトは比較的容易に入手できたので早速取り寄せてみたものの、ジャケットアートはまさかの全裸中年男性。一筋縄ではいかないぞと気を引き締めましたが、中身は想像以上の劇薬でした。


『バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト』
※注意※
今回ご紹介する作品には、性暴力に関する描写が含まれます。
ニューヨークに一人の警部補(ルーテナント)がいる。その男は絵に書いたような悪徳警官で、酒とドラッグに溺れ、女を買い、捜査の証拠品をくすね、同僚との野球賭博も負け続きという警察官にあるまじき行いを積み重ねてきた。
そんなある日、教会のシスターが若い二人の男に襲われるという痛ましい事件が起こる。世間の注目を浴びるこの事件を担当することになった警部補だが、シスターは自身を犯した犯人を赦すという。彼女のその態度に触れて動揺した警部補は、自らの行いと正義との中で葛藤するが、同時に賭博の負け額の支払いが迫っており、大金を用意しないと自分の命が脅かされる瀬戸際に立たされていた。


まだこの映画をご覧になっていない方が、上記のあらすじを読んで想像した主人公像を頭に思い浮かべながら実際の本編を観たとしたら、きっと腰を抜かすだろう。ハーヴェイ・カイテル演じるこの警部補、極悪度で言えばそんじゃそこらの「悪徳」と名のつく悪い奴らとは比べ物にならないくらい卑劣な男であり、映画の冒頭はこの男の荒れた私生活と労働態度に観客も付き合わされる。
朝、学校に遅刻寸前の子どもたちを車で送り届ける。そんなのどかな日常のワンシーンでさえも、この男が画角に収まればそこは不穏な緊張感が走る。無邪気に騒ぎ立てる子どもたちに対し「父さんを運転手と間違えてるのか」と言い、叱るというよりはただ怒りを叩きつけているかのよう。そして車を降りた子どもたちが学校に走り去っていくと、もう我慢ならんと言わんばかりにコカインを吸う。


それだけでも懲戒は免れないが、この男はまだ止まらない。事件現場にようやくやってきたかと思えば仕事そっちのけで次の野球賭博について同僚と語り合い、売人と接触してドラッグを調達し、売春婦との情事に耽ける。職業倫理など微塵も覚えちゃいないようなこの男の一日は、欲望そのままに生きる獣と呼ぶに相応しい。
ところが興味深いことに、ジャケットアートで印象的な全裸シーンは、まさにこの一日の終わり、女を抱いた直後に挟み込まれる。一糸まとわぬ姿となり、両手を横に広げ慟哭する。キリストの磔さながらのポーズを取るこの男は、欲に溺れる自分を罰してくれる何かを求めているのかもしれない。しかしそんな暗示のすぐ後、父親の車でドライブをしていた若い女性に対して、ここでは書けないような下劣な行為を強要する。彼を裁く神は、現世には存在しないのだ。


そんな男が対峙するのは、まさしく彼が抱くような欲望によって身体と心を傷つけられたにもかかわらず、神の教えによる慈悲を全うするシスターだ。彼女は神を信じ、自身に暴力を働いた男たちでさえも赦そうとする。そのことが、警部補にとっては不可解なのだ。自分を愛し、あるいは罰してくれる神などいないのに、目の前の尼僧はその存在を疑いもしない。同じ世界に産まれ落ちながら、見えている世界がまるで違う。
神をも恐れぬ悪事を働いてきた男は、シスターの気高さに動揺し、ますます錯乱していく。報復を望まないシスターに対し、男はそれ以外の世界との向き合い方を知らないからだ。やがて彼はついに「神」を幻視して、ある行動に出るのだが……その顛末はぜひ皆様ご自身でお確かめいただきたい。


どうなる現代版リメイク!?
冒頭で言及した通り、本作をベースとした2026年版の公開が間近に迫っている。が、オリジナル版を忠実に再現する、という方向のリメイクは、まず行われないだろう。性描写を含む過激なシーンは言うまでもないが、神と信仰に対するテーマを現代日本の宗教観と結びつけることは、素人目にも容易ではないだろうと想像できる。
であるのなら、小栗旬演じる主人公は悪徳警官でありながら贖罪を求める男を、リリー・ジェームズ演じるFBI捜査官が慈悲を知る女を、それぞれ担うのではないだろうか。正義と悪、神聖さと俗悪が入り混じったカオスの東京を、脛に傷持つ男と信仰深き女が駆け抜ける。その先でさらなる悪と対峙し、男は自らの罪の意識に苛まれながらも、最後の決断を下す。その銃弾は救い無き世界への怒りか、それとも彼に残された最後の良心か。
とは言ってみたものの、三池崇史がメガホンを取ったのであれば、過激で荒々しい、想像以上にバイオレンスな作品に仕上がっている可能性だって十分にある。答え合わせは公開日までお預けだが、その期待を高めるためにも92年のオリジナル版により道してみるのはいかがだろうか。
ちなみに、オリジナル版が国内で再上映された際の「映倫」による判定はR15+。「刺激の強い性愛描写、並びに刺激の強い薬物使用の描写が多数みられ」との指定理由に違わぬ作品のため、覚悟してご視聴いただきたい。
映画『バッド・ルーテナント:トウキョウ』は10月23日より全国劇場にて公開予定。







