僕ヤバを知っていますか?/桜井のりお最新作『僕の心のヤバイやつ』解説

大河内

なんとなくどんな話しかわかりましたが、僕ヤバって他に何か特徴的なことってありますか?

えのき

僕ヤバの特色なのですが「文脈で殺す」ってところがあると思うんですよ。
日々僕ヤバが更新されると絶叫がタイムラインに響き渡り、笑い、泣き、発狂する人がいっぱい出るんですよね。僕はもう無理です。最近は作者のアイコンが見えるだけで脳からなんか出るようになってきました。この質問に答えよる前に読み返そうと僕ヤバのコミックスの表紙見たら涙が勝手に出てくる体になってしまいました。もうおしまいだ……俺は……何もかも……

大河内

(大丈夫かなこの人)更新の度に阿鼻叫喚や長文感想がTLに流れまくるので、国民の8割くらいの人が強い意志を持って読んでるんじゃないかって感じちゃいますね。

えのき

僕ヤバで「殺してくれ……」って読者が呻く要素って色気だったりシチュエーションだったり、だけではないと思うんですよね。
市川と山田の相互の理解/不理解があって、それを読者が見てしまう、二人のいじらしいほどの感情を垣間見てしまうからこそ頭がおかしくなるんですよね。
わかりやすい例があります。
Twitterで作者の人が不定期で投稿している通称「ツイヤバ」というTwitter版の僕ヤバがあります。これはマンガクロスで連載されている本編と時系列がずれているのか、それともパラレルな話なのかわからないのですが、本編よりも少し市川と山田の関係性が深く描写されていて、Twitterで流し読みをしても死にます。うっかり目に入ったら死ぬ。勘弁してください。
それでその互いの相互の理解/不理解の例としては「明日世界が終わるなら」というタイトルで投稿された話があります

えのき

読みましたか?読みましたよね

大河内

あっはい。読みました。

いや……いや……現代文の設問かよ……
いや、おかしいだろ……現代の月が綺麗ですねがこんなにポンポン出ていいのかよ……
山田は「明日死ぬってなったら最後に何食べたい?」と聞いてカツカレーというわけです。これはたわいもない雑談の切り口だし、せいぜい「市川から好きな食べ物を聞く」ぐらいの意図だと思うんですよね。でも市川は山田のそういう楽しみへの情緒みたいのが薄いわけで明日死ぬ理由とかを聞くわけです。ディティールを凝るんですよね。いや……わかる……わかるけど昔アニメとかみてる時に「ええ、この描写おかしくない?だってこういうのは普通〜」「いやどう考えても脱出間に合わなくない?リアリティーがさ〜」と誰も聞いていないのに家で一人テレビの前で言っていたこととか思い出して辛くなるから……
それでそのディティールを凝る内に
「自分たちしかそれを知らない中で世界の終わりの直前、最後の晩餐は何にするか」
という問いに変わるんですよ。
そこで市川はいうんですよ。「カツカレーを…食べるん…じゃないかな」
「カツカレーを…食べるん…じゃないかな」

https://twitter.com/lovely_pig328/status/1146730270927671298より引用
えのき

「カツカレーを…食べるん…じゃないかな」

はぁ!?!?!?!!?!?!!?!?!!?!?俺は慢心総意だが!?!?!?!?!!?!?

「カツカレーを…食べるん…じゃないかな」、世界の終わりを自分たちしか知らない中での最後の晩餐を同じものを食べるということ、それは「山田をその絶望の状況の中で決して一人にしない、必ずそばにいる」という宣言なんですよ!?なんだそれ!?愛の告白と何が違うんだ?!!?!?!何がラブ未満コメディだよこれが愛だろ!?!?!?!!?!?

大河内

(テンション高っ!)いやでもこれ婉曲しつつもかなりストレートじゃないですか。こういうやりとり憧れます。どうしたらいいんですか?僕は一生童貞ですか?

えのき

すみません……取り乱しました……
僕ヤバ、Twitter版は特に瞬間最大風速の強い描写でコンパクトに出してくるのですが本編もまたそういった心のつながりを丁寧に描くわけです。
恋愛って、ラベルを貼られてだされるコンテンツにおいて、かなり大雑把に捕らえられているな、と感じるところがあって、恋のABCとか死語でありますけど、かなり自動車のギアを切り替えるような「これをこなしたら関係進展」みたいなざっくりとした認識があると思うんですよ。3回デートしたら家に連れ込んでOKみたいな認識がざらにある。
でも実際のところ同じような人間はいなくて、そういったテンプレートに当てはめて測れる関係って本来ないはずなんですよ、一人一人ツボが違うんだから。
僕ヤバはその恋愛のステップだとうっすらと認識されている「デートする」「手をつなぐ」「キスをする」みたいな段階の間にも「いや互いが理解しあうステージってまだまだ無数にあるから」って具合に徹底してその関係が描かれるんですよ。だからそれを読んでいる自分とかはこう……狂う……殺してほしい……
丁寧に市川と山田という人間が描かれて、そこの会話の文脈によって日常の、本来ドラマチックではない出来事が、当人たちにとっては世界の大事件であるということが読者に「理解させられてしまう」んですよ。
文脈で殺す漫画、僕ヤバです。

大河内

たしかに!ものの感じ方や琴線に触れる事柄、人との距離感なんて人それぞれなのに、『恋愛テンプレート』みたいなものが蔓延し過ぎというか…『斯くあるべし』みたいなのってクソだなって思ってます。そういう思いも踏まえてまた次の質問をさせてください…

やたらとテンションの高いえのき氏のおかげで「僕ヤバ」のことがだんだん分かってきたぞ!
最後の質問をしよう…

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