『ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒』
2019年春に公開された、スタジオライカ制作5作目の長編映画となる本作がようやく国内でも公開が開始された。
前作KUBOにて、日本をベースにしたファンタジー作品を作り出したライカスタジオが今回描くのはヴィクトリア朝時代のロンドンとそこに生きる探検家。
前作とは対照的なロンドンの街並みの他、地球を半周する冒険の中で描かれる世界の様々な姿が圧巻のライカクオリティで描かれ、常に刺激的な映像で満ち溢れている。
アニメーション作品ならではのデフォルメ表現と、光や影、水の流れと反射、キャラクターの動きなどの実物としての存在感の共存が美しく、ライカの唯一無二の映像表現にさらに磨きをかけており、どのシーンを切り取っても息を飲む美しさがある。
KUBOでは、荒れ狂う海でストップモーションアニメとは思えない程の迫力を見せる冒頭で観客の度肝を抜いたが、本作では冒頭、湖の中に生息する未知の怪獣との邂逅を描き、KUBOのがしゃどくろを思わせる巨大な怪獣の迫力、主人公ライオネルの飄々とした魅力的なキャラクター像、前作以上のアクション、と開始数分で本作の世界観・魅力にグイグイ引き込まれる。
毎度圧巻のライカクオリティの映像体験もさることながら、人間同様会話が可能なもののジョークが通じず額面通り受け取ってしまうためトラブルを起こしてしまう、サスクワッチのMr.リンクのキャラクターがユニークで、主人公ライオネルとのドタバタしながらもテンポの良い掛け合いは思わず笑ってしまう。
KUBOでは脚本、ライカ2作目のパラノーマンでは監督を務めたクリス・バトラーが本作の脚本・監督を務め、これまでのライカ作品と比べるとダークファンタジーな要素が少なく、カラッとしたバディものロードムービーとなった本作『ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒』。
ユニークなキャラクターの掛け合いと美しい映像は必見。
進化の重要性を描く物語
物語の舞台となる、ヴィクトリア朝時代のロンドン。
産業革命期、人々の間に新たな価値観が生まれ、優れた芸術や文学作品が生まれた時期に、従来の権威を保持するためにそうした変容を拒絶する階層の人間が、本作ではわかりやすいヴィランとして描かれている。
主人公ライオネルは探検家として名を揚げるべく、サスクワッチ探索に乗り出す。そこに、進化論を裏付ける証拠になり得る存在に危惧する旧態依然の貴族が敵対するという流れで物語が進行するが、ライオネルはそうした貴族に反発しつつも「認められたい」という思いで探検を行う。
そうした古い価値観に縛られ、自己本位で物事を考えるライオネルの成長物語であると同時に、ライオネルと旅を共にするサスクワッチの「Mr.リンク」と未亡人の「アデリーナ」は、それぞれの思惑と利害の一致で旅に同行するが、この3人も旅の中で変容を迫られ、成長に向かう。
ロードムービーとして、物語の落とし所やキャラクターの成長の様子は予想を超えることはないが、悪役として描かれるキャラクターを通して「旧態依然の価値観」「変わらない者」に対しての痛烈な批判が描かれる。
舞台は産業革命期だが、現代でも「変化」は常に求められる。
1年前では考えられないような変化が身の回りに起き、科学技術や生活様式がガラッと変わる現代、昨今の時勢では特に顕著だ。
変容を受け入れ「進化」することの重要性をメッセージとして強く感じる本作、シンプルなストーリーながら心に残るものがあった。
また、現在バルト9にてライカ15周年企画として、これまでの作品で使用された人形が展示されているので、ぜひ本編と共に精緻な造形の人形を実際に鑑賞し、ライカ作品が持つ独特な魅力の一端に触れてみてはいかがだろうか。
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ヴィクトリア朝時代のロンドン。孤独な探検家のライオネル卿は、伝説の生物の存在を探し求めて、アメリカ北西部へと旅立つ。そこで発見したのは、巨体で全身毛むくじゃら、人間の言葉を話す少しおっちょこちょいの生きた化石だった!ひとりぼっちで仲間に会いたいと願う—その名も“Mr.リンク”と野心家のライオネルは地球の裏側にある伝説の谷シャングリラを目指す。超ユニークな凸凹バディが、壮大な旅路の果てに発見する、世界の常識を覆す“驚くべき真実”とは—?