俺が映画サークルで女の子を盗撮してMVを撮影していた話/第1話『軍旗はためく下に(1972)』

 大学生になって最初のゴールデンウィーク。
 俺が所属する映画サークルでは新入生向けの撮影講習が行われた。最初の連休で撮影や編集といったことを覚えて、夏休みに本格的に映画製作を始めようという流れだ。
 もちろん監督をやりたい俺は、講習会のために自分でワンシーンだけの脚本を書いた。自主映画における監督とは脚本を書いて道具を用意して撮影をして編集をする人、つまり裏方を全部やる人である。
 俺ならできる、そう思っていた。
 だって俺は、今日まで映画やアニメばかり見てきた。今日まで、積み重ねてきた。すごいものをたくさん知っているんだから、俺にもすごいものが撮れて当たり前である。この講習でやり方さえ覚えれば、映画祭で賞を取ることだって夢ではないはずだ。
 そうして挑んだ最初の撮影で、俺は打ちのめされた。
 まず自分の書いた台本を役者に読ませることが苦痛だった。夜中にハイテンションで書いていた時はあんなに面白い会話だったのに、読み上げさせるとただの怪文書でしかない。
 会話が成立していないというのが自分でもわかる。同期の役者陣たちも釈然としないものを感じている様子ではあるが、それを口に出すようなことはしない。この場でセリフを全部直すというわけにもいかないので、ぶっ壊れた台本でも撮影を続行するしかない。
 ダメなものをダメとわかっていても、みんなで口を噤んでいればいいじゃないかという雰囲気に死にたくなる。俺の台本が人並みのものだったならこんなことにはならなかった。映画的な会話にしてやろうと意気込んだ結果、国語の義務教育を終えていない怪文書になってしまっていた。
 次に撮影が思うようにいかない。なんとなくカメラを向けても、俺が今まで見てきた映画のカットのようにならない。何をやってもホームビデオのような映像しか撮れない。
 自分の撮ったものに何かが足りないのはわかるが、それがなんなのかはわからない。いくらカメラを色んな場所に向けても映画になってくれない。役者の立ち位置を変えたり、カメラを三脚に固定してみたりするが、それでも足りない。
 しかし撮影は無限にできるわけではない。日が落ちる前にはワンシーンを撮りきらなければいけない。撮影が進まないと現場の雰囲気はどんどん悪くなる。納得していないカットを撮りながらも次へいくしかない。頭の中のコンテではこんなはずではなかったのに。ワンカットを重ねるごとに俺の無能だけが証明されていく。
 そもそも、これまでの人生で多人数との共同作業をまともにしてこなかった。そんな人間が監督として撮影の現場を回せるわけがない。今回は先輩の助けがあったから良かったが、いずれこれを一人で回さなければいけないと思うと目の前が真っ暗になる。
 地獄はまだ終わらない。撮影の後には編集がある。パソコンに撮った映像を取り込んで繋げてみるが、明らかにおかしい部分が散見された。
 役者の立ち位置は逆になっていた。
 ワンカット前に手に持っていたものがなくなっていた。
 セリフが風の音で掠れて収録できていない部分があった。
 シーンの後半は日が落ち始めていたせいで色味が変わってしまっていた。
 構図がダサいだけならまだいい。俺の撮った映像はそれ以下だった。そもそも映画として繋がらない。こんなもの編集したくない。カットを繋いだぶんだけ自分は映画が撮れなかったということを思い知らされる。
 結局、俺は完成するまで編集を続けられなかった。適当に忙しい理由をでっち上げて作業は全て先輩たちに放り投げた。
 サークル内でいちばんの監督になれれば、今までの人生にない全てが手に入るはずだった。地位、名誉、尊敬、友達、彼女。
 映像は先輩たちが完成させてくれたようだが、俺はいまだに見ていない。

2/4

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