皆さんは、こちらの動画はすでにご覧になられただろうか。
今年夏公開、ジェームズ・ガン監督による新しい『スーパーマン』の予告編。こちらの映像、アメリカ本国ではワーナー・スタジオでは史上最高となる再生回数を記録し、すでに全世界から並々ならぬ期待を注がれていることは誰の目にも明らかだ。
この新しいスーパーマン映画を皮切りに、かつて「DCエクステンデッド・ユニバース」と呼ばれたDCコミックのヒーローたちの神話は「仕切り直し」を受けることとなり、ジェームズ・ガンが舵取りをする新たなユニバース構想、その名もシンプルな「DCユニバース」が幕を開けるとされている。すでに最初のチャプター(MCUで言うところのフェイズ)として10作以上の劇場映画、あるいは配信作品が予定されており、そのロードマップを見守ることは映画ファンにとっての新たな趣味になること間違いなしである。
ところで、大変ややこしいことなのだけれど、この新『スーパーマン』は実はDCユニバースの劇場作品としては一発目ではあっても、ユニバースの一作目としてはすでに別の作品が世に出ている。日本ではU-NEXTにて独占配信中、ジェームズ・ガンが原案・脚本を務めたR指定アニメ『クリーチャー・コマンドーズ』である。


今回は、本作のちょっと特殊な立ち位置を説明した上で、作品紹介に移りたい。というのもこの『クリーチャー・コマンドーズ』というアニメ作品、DCユニバース一作目ではあるものの、その出自としては2021年の映画『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』からの派生作品、という側面もあるからだ。
ジェームズ・ガンが監督・脚本が務めた『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』は、そもそもが2016年のデヴィッド・エアー監督版の仕切り直し的な映画ではあったものの、その残虐で悪趣味なテイストは大きくウケて、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』三作目にまつわる監督降板劇のゴタゴタを吹き飛ばす、爽快なヒット作となった。この作品からはスピンオフとして、ジョン・シナが好演したキャラクターのその後を描く配信ドラマ『ピースメイカー』がリリースされ、これもまたジェームズ・ガン印120%の傑作ダークコメディなれど、その流れの中で製作されたのが今回ご紹介する『クリーチャー・コマンドーズ』なのである。


これの何が複雑なのかと言うと、『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』及び『ピースメイカー』はそれぞれDCエクステンデッド・ユニバースに属する作品であり、仕切り直しとされる今回のDCユニバースとは本来交わらないはずである。ところが、ジェームズ・ガンはこれらの二作を新しいユニバースにおいても過去の出来事として正史に紐づけることとし、『ピースメイカー』ラストの旧ジャスティスリーグのカメオ出演を除いて組み込まれることとなった。
そうした諸事情を呑み込んだ上で成立するのが、新生DCユニバース第一弾作品『クリーチャー・コマンドーズ』なのである。ちなみに、2022年の映画『ザ・バットマン』とそのスピンオフドラマ『ザ・ペンギン』や、『ジョーカー』『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』らの作品群はDCユニバースとはそれぞれ別個の世界観で繰り広げられる個別のシリーズと定められている。我が家のコンセント周りくらいゴチャついているのが、今のDC映画事情なのだ。
長すぎるオタク前置きで読者各位もお疲れだとお察ししますが、ここからが本題。いよいよ『クリーチャー・コマンドーズ』の中身に触れていく。
架空の小国ポコリスタンが、ワンダーウーマンの故郷でおなじみセミッシラの魔女キルケーから攻撃を受けていた。かつて囚人たちに減刑を報酬として危険な任務を課す「タスクフォースX(スーサイド・スクワッド)」部隊を指揮してきたアマンダ・ウォラーだが、法律によって人間の囚人を使っての危険作戦は禁じられてしまい、同様の手は使えなかった。そこでウォラーは「人間ではない囚人」を活用することで法の穴を突き、人外だけの特殊部隊「タスクフォースM」を結成。ポコリスタンに派遣し、イラーナ女王の護衛にあたらせる。
人外、すなわちモンスターだらけの新スーサイド・スクワッドに選出された面々は、どれも危険なヤツばかり。フランケンシュタインの怪物の花嫁として造られた人造人間「ザ・ブライド」、身体から常に放射線を放つ火だるまガイコツ「Dr.フォスフォラス」、ナチス絶対殺すロボこと「G.I.ロボット」、優しい心を持つ半魚人の「ニナ・マズルスキー」、『ザ・スーサイド・スクワッド』にも登場した目がイッちゃってるイタチ人間「ウィーゼル」が招集された。彼らを取りまとめるリーダーは、『ザ・スーサイド・スクワッド』にて殉職したリック・フラッグ大佐の父にあたるリック・フラッグ・Sr.が務める。


物語は、イラーナ王女の護衛任務に就くモンスターたちの様子を、彼ら一人一人の過去と並行して描いていく。その内容を詳細に書くと、流石にムービーナーズといえどストップがかかってしまいかねないほどに残酷で悲惨なものばかりなので今回は自重するが、いずれも彼ら彼女らの尊厳を踏みにじるものであったり、被差別や暴力を伴うものであったりする。人外の悲哀を煮詰めたような内容だが、ジェームズ・ガンが手掛ける皮肉とユーモア溢れる会話の応酬と、明るいポップソングにコーティングされた本編は、その苦みを緩和する。30分未満の全7話、観やすく飽きさせない構成となっている。
一筋縄ではいかないクリーチャー・コマンドーズだが、敵も強烈。魔女キルケーが従わせる配下の男たちは、男女平等を訴える性差別主義者の集まりであり、その発言は過激にして破廉恥なものばかり。そんな奴らを蜂の巣にするのが、全身兵器にしてナチス殲滅命令がインプットされたG.I.ロボットであり、悪趣味でありながらも不思議とスカッとさせられてしまう。後ろめたさと表裏一体の爽快感が、本作の白眉となるであろう。
戦闘になれば人間の頭部はトマトのように潰され、肉片と眼球が宙を舞う。闘ってない時は中年男性と女王の爛れた駅弁セ〇クスと出歯亀する男(?)共が描かれ、R指定も納得のエロとグロが全編に展開。とはいえ、「ジェームズ・ガン」の名前に期待するものはおよそ全てが満たされる、その意味でもサービス過多な一作なのは間違いない。これを観ていると周囲に打ち明けるのは勇気がいるだろうが、ユニバースものとあれば一作も見逃したくないとこだわるナードな皆様ならば、観ておいて損はないはずだ。


この『クリーチャーコマンドーズ』、すでにシーズン2の製作が内定しており、ボイスキャストの豪華さから実写作品への参戦も予想されるなど、ユニバース内での重要度はこれから増していくであろう作品だ。現段階で配信されているシーズン1は彼らの顔見せを兼ねた序章ととらえることも出来るが、今後の映像作品に登場するキャラクターを予告するファンサービスカットもあり、一足先にDCユニバースの世界観に触れるのであれば本作はうってつけだ。
何より、同じジェームズ・ガンが手掛けるとはいっても、あの『スーパーマン』ではここまで露悪的な表現に踏み切ることは許されないであろうから、かねてからの彼のファンであればむしろこちらの方が満足度が高くなることもあり得る。新ユニバースの成功を担う試金石と呼ぶには卑猥すぎるが、差別や支配からの反骨精神に満ちた本作は、これもまた時代のスタンダードに数えられるのかもしれない。その意味でも、要チェックだ。
『クリーチャー・コマンドーズ』はU-NEXTにて独占見放題配信中。
https://video.unext.jp/title/SID0160681