17歳のドラ息子が作り上げた、今なお愛される暴力軍団とは?『Untold:慢心と失墜とアイスホッケー』

ツナ缶食べたい

 いきなり私事だが、勤め先にWBCを観るためにNetflixに加入したという人がいて、せっかくだから何かオススメない?と聞かれる機会がある。そういう時に備えての候補作をいくつか頭の中にストックしているが、スポーツが好きだという人に薦めているのが『Untold』という作品だ。

 『Untold』はスポーツの世界における過去のスキャンダルや奇妙な事件の裏側を、実際の関係者の証言から紐解いていくドキュメンタリーシリーズ。扱われるスポーツ、題材となる事件も様々で、そこに浮かび上がる葛藤や過ちからは、屈強なアスリートたちも決して並外れた超人ばかりではなく、その本質は我々庶民と何ら変わりないのだ、という普遍性を痛感させてくれる。

 今回はシリーズの中でもお気に入りの一作、『慢心と失墜とアイスホッケー』をご紹介。描かれるのは、17歳の息子のためにホッケーチームを買い与えた父と、その息子が今なお根強く愛される荒くれ集団を作り上げた、血なまぐさい感動巨編。涙と血を拭くハンカチの用意はOK?

 コネチカット州のダンベリーという街には、ジェームズ・ガランテという有名人がいる。廃棄物の処理業で大成した彼は、広大な土地と50台のトラックを所有し、『アメリカのゴミ王』の異名で知られている。褒め言葉として若干怪しいところはあるが、施設や病院への寄付を行ったこともあり、街への貢献度も高い資産家であることは疑いない。

 続いて、その息子AJが紹介される。が、その姿を見た者は唖然とするだろう。絵に書いたようなドラ息子でありチンピラのような若者こそ、ジェームズが溺愛する一人息子なのだ。そして信じられないことにこの男、弱冠17歳にして、街のマイナーホッケーチームの代表を務めている。

 ドキュメンタリーは、未成年のスポーツチーム経営者が生まれた経緯を追っていく。幼い頃のAJは、メガネをかけた線の細い少年だった。彼はプロレスをこよなく愛し、子煩悩の父はスター選手を息子のために家に招待した。招待を受けた選手の中には、ロック様でおなじみドウェイン・ジョンソンもいて、AJのヒール好きな性格は後のホッケーチームに多大な影響を及ぼしている。

 その後AJは、映画『飛べないアヒル』と出会い、アイスホッケーの道を志すことに。「アメフトの方がよくない?」と思いもするも、ホッケーのスティックを買い与えるジェームズパパはニッコニコでホームビデオを回す。ところが、ジェームズは逮捕され一年間の服役を受けることになり、母を支えなければと発起するAJは次第に荒々しい学生生活を送るように。その攻撃的なスタイルはホッケーにおいても発揮されるが、出所して初めて息子の試合を観戦したジェームズパパはここでもニッコニコ。親子でホッケーに力を入れていくが、またしても悲劇が。AJは試合の怪我が原因で選手生命を絶たれ、意気消沈してしまう。

 そんな息子の悲しみを癒やすためか、父ジェームズがとった行動はなんと、ホッケーチームをまるごと買い与えること。やっぱりお金持ちはプレゼントも規格外なんスね……と序盤で理解が及ばなくなってきたが、当のAJ少年の当時の感想は「マジで漏らした」とのこと。

 廃棄物業で成り上がった会社のチームということで「トラッシャーズ」と名付けられたホッケーチーム。その代表を託された17歳のAJ少年は、まず初めに選手集めをすることに。怪我で片目を失明した男、屈強なナイジェリア人、双子の兄弟。有力選手を札束で釣るような豪快なスカウトはいけ好かない金持ちの汚い手段にも思えるが、これもAJによれば「分析」の結果であり、事実トラッシャーズの陣営はかなり手厚く、鳴り物入りでUHL(ユナイテッド・ホッケー・リーグ)に参戦する。

 そして迎えた最初のシーズン。ダンベリーは娯楽の少ない労働者の街ということで、地元のチームの試合を観るためにスタジアムに大勢が集まり、上院議員も駆けつけ注目度は最高潮に。全員が固唾をのんで見守る初試合。ところが開始3秒、一人の選手が突如相手に攻撃を仕掛け、場内は大乱闘に発展。この予想だにしない暴力的な展開に関係者は唖然とし、観客は大興奮。鮮烈なデビュー戦を飾ったトラッシャーズは、一躍街の人気者に駆け上がる。

 運営サイドから警告を受けてもこの過激なスタイルを崩さず、それでいて普通にホッケーも強いトラッシャーズは連戦連勝を収め、ファンは徐々に拡大。彼らが人を殴れば喝采を送り、運営から待ったがかかれば大ブーイング。神聖な氷のフィールドが血に染まれば喜び、倒れる選手が出る度に死体袋をコートに投げ入れるパフォーマンスは、まるで古代のコロッセオ。選手もファンも攻撃性を増していく異常なムーブメントを前に、ホッケー業界も黙ってはいられないが、一方のジェームズとAJ親子はまだニッコニコ。

 そんな順風満帆な彼らを見つめるのは、ホッケー業界の偉い人ではなく、なんとFBI。ジェームズのマフィアとの黒い繋がりを怪しむ捜査機関の介入により、事態は急展開を迎えていく。その顛末は、ぜひご自分の目でお確かめいただきたい。

 父は息子のためにスポーツチームを買い与え、息子は父が愛した「悪役」のようなチームを作る。マチズモにとらわれた親子の悪行とも呼べるこれらの過去を、しかし本作は断罪しない。彼らから暴力を受けた当時の相手選手の証言がほとんどなく、ドキュメンタリーとして公平性を欠いているという指摘も通ってしまうだろう。

 その代わり不思議なことに、本作を観て残る余韻は感動の類なのである。選手とファン、そしてAJにとってもトラッシャーズとは青春であり、あの騒がしく暴力的な日々を良き思い出として懐かしんでいて、このドキュメンタリーを撮るにあたっての再会を涙を流して喜ぶのである。昔はヤンチャしてた頃の武勇伝を聞かせてくるタイプの人間はナードの敵だが、ジェームズやAJと選手たちの固い絆、トラッシャーズを推してきたファンのその後など、なぜか胸が熱くなる瞬間がたくさん収められている。その手段は褒められたものではないが、街に活気を呼び、人々を熱狂させてきた事実だけは変わらないからだ。

 とある人がクライマックスに語って曰く、トラッシャーズとは「勝ってはいけない悪者」の物語だそうだ。人々に受け入れられ、愛されてきたこの悪者軍団を、あなたはどう見るだろうか。スポーツマンシップを遵守する人が観たら卒倒しそうな内容だが、ご自身の正義と照らし合わせて、彼らをジャッジしてみてほしい。

『Untold:慢心と失墜とアイスホッケー』はNetflixにて独占配信中。
https://www.netflix.com/title/81026438

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