『THE FIRST SLAM DUNK』がなかなか情報を明かさなかったのはなぜだったのか?

まさかこれほどの作品が出てくるとは……!?

2022年12月3日(土)に公開された
『THE FIRST SLAM DUNK』では、多くのファンが知るおなじみのキャラクターたちが、従来のTVアニメシリーズとも一線を画すスタイルで甦る、全く新しいスラムダンクの形を提示する作品となっていました。
興行通信社の発表では、土日のわずか二日間で興行収入12億9600万円にも及ぶ動員を記録し、昨年の年末に『呪術廻戦0』が大ヒットとなったように、今冬を代表する一角として活躍が期待できそうな映画となっています。レビューサイト等でも高い評価を獲得しており、ロングラン上映にも期待ができそうですが、公開前まではその出来に不安の声が上がっていたことは忘れてはいけません。改めて、公開に至るまでの『THE FIRST SLAM DUNK』を振り返っておきたいです。

わずかな情報のみの初報でスタートを切る新作スラムダンク

スラムダンクの新作映画が発表されることとなったのは2021年1月。原作者の井上雄彦さんのSNSアカウントにて、映画化を伝えるドローイング映像と共に明かされました。

当時はまだ公開時期や監督、その内容に至るまで明らかにされておらず、新たな新作アニメーション映画が公開されることのみが伝えられていました。

『THE FIRST SLAM DUNK』©I.T.PLANNING,INC.©2022 THE FIRST SLAM DUNK Film Partners

続報があったのは同年2021年8月。『SLAM DUNK(タイトル未定)』という形で特報映像が発表されます。映像は円陣を組む湘北の5人のラフに重なるように、映画の製作陣の名前が続々と明かされるもので、ここで初めて監督・脚本を原作者である井上雄彦さんが勤めることが明かされることになります。ここで初めて“2022年秋”という公開時期も発表となります。
秋公開となれば、春頃には具体的な本編のアニメーション映像がわずかでもお披露目されていてもおかしくないのですが、初めて本編映像が明かされる特報映像の発表は、何んと約一年後の2022年7月まで待たされることになります。

公開直前の夏にやっと解禁となるわずかな映像!

2022年7月を迎えて、やっと正式なタイトル『THE FIRST SLAM DUNK』というタイトルが発表されます。ここでやっと具体的な公開日が2022年12月3日であること、そして、その新たなアニメーションのルックがわずか20秒もない映像ながら明らかになるのでした。

『THE FIRST SLAM DUNK』©I.T.PLANNING,INC.©2022 THE FIRST SLAM DUNK Film Partners

実はこの間に、制作を務める東映アニメーションでは、第三者による同社のネットワークへの不正アクセス事件が発生。当時制作中の作品の制作に支障が発生していることが報じられ、看板タイトルである『ONE PIECE』をはじめとした作品の放送が軒並み、一ヶ月近く再放送となり、公開を目前としていた映画『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』に至っては約一ヶ月半の公開延期を発表しました。

それに対して『THE FIRST SLAM DUNK』への影響は特に公表されていないものの、なんら影響がないなんてワケもないはずで、年内公開は難しいのではないかと想像していただけに、ギリギリとはいえ12月に公開が発表されたのは驚きでした。
また、わずかな映像ながら、その多くがセルルック3DCGアニメーションで描かれる本作のビジュアルが明らかになったことは大きく、キャラクターの容姿などからも作品内容を想起させる情報となりました。
ちなみにこの頃に、『THE FIRST SLAM DUNK』の映画製作陣のインタビューを掲載する特別サイト「COURT SIDE」が公開されており、上映前にどういった形で盛り上げたいのかが、表れている施策の一つだったことを今となっては思い知ります。

わずかな情報で始まるムビチケ販売、そして声優交代発表へ

そして、今となっては悪手だったのでは?と思わせる動きを見せたのが、上映まで3ヶ月を切った2022年9月16日。ついに『THE FIRST SLAM DUNK』のムビチケの販売がスタートします。この時点の情報といえば、前述のわずかな特報映像のみで、キャストやあらすじなども未発表の中でチケットのみが販売をスタートする形となりました。かなり珍しいケースといえます。

また、珍しさではムビチケの値段設定も特殊。本来は通常の劇場窓口料金よりも安く設定されていることがほとんどな中で、『THE FIRST SLAM DUNK』は一般1,900円(税込)という強気な価格設定となっていました。販売当初から、割引前売り券ではないという注意も公示されていたとはいえ、知らずに値段に驚く人も多かったのではないでしょうか。

そして、諸々の情報に先行してムビチケの販売がスタートしたことが後に尾をひくことになります。それが、公開まで1ヶ月を切った2022年11月4日、東映アニメーション公式YouTubeチャンネルにて実施された新情報解禁特番の配信です。

『THE FIRST SLAM DUNK』©I.T.PLANNING,INC.©2022 THE FIRST SLAM DUNK Film Partners

この配信番組にて、ついに主要ボイスキャストや主題歌、そして新たな最新予告映像が発表となるのでした。公開まで1ヶ月を切ったタイミングでやっと、メインキャラクターの声を誰が担当するか発表するのか、という驚きもあったのですが、ここで発表された内容が、かつてのTVアニメシリーズのキャストから一新するということで、残念な声が上がるという事態を迎えます。

かつてTVアニメが放送されていたのは90年代前半から中盤にかけて。あれから25年近くも経っているのに、同キャストを高校生役で再度揃えるのは無理があるのでは?とも思う一方で、隣では『ドラゴンボール』や『シティハンター』の最新作で主人公をかつてのキャストが演じているという状況を考えると、かつてのTVアニメ版に馴染みがあった人には、悲しく感じられてもおかしくはないキャスティングでした。
しかも、衝撃的なのが、一ヶ月前になっても結局本編のあらすじは明らかにならず、新たに発表された予告映像のみで推測させるのみ。

当時アニメ化を果たせなかった山王戦を描くのでは?
いや、オリジナルエピソードをやるのでは?
と公開を目前にして、まだその答えが明らかにならない事態は驚きでした。

あまりにも情報が未知であったり後発であることと、先行してムビチケを売るスタンスも相まって、『THE FIRST SLAM DUNK』は公開前にして、集客が落ちないために情報を後出ししたのではないか、実は出来に不安があるのではないかなど、批判や不安の声が上がる形となってしまいました。上映直前にして、早くも“炎上”のようになり、後日公式から直々にメッセージが発表されるに至ります。

【みなさまへ】
特番をご視聴いただいたみなさま、ありがとうございます。
また、たくさんのご意見やご感想をお寄せいただきありがとうございます。
たくさんの反響をいただいている中で、
作品を楽しみにしてくださってる方々の様々な思いを受け止めております。

私たちは、スラムダンクを昔から愛してくださってる方も、
はじめて見る方も、とにかく楽しんでもらいたい、
という思いで制作を続けてきました。

映画はまもなく完成します。みなさまに楽しんでいただける作品になるよう、
監督・スタッフ一同、最後まで心を込めて制作してまいります。

引用:https://twitter.com/movie_slamdunk/status/1590582037068779520

そこで待っていたのは極上のサプライズだった!

上映の直前に悪い意味で話題となってしまった『THE FIRST SLAM DUNK』

最悪のコンディションで迎えた公開日当日、事態は一変します。公開まもなくSNSやレビューサイトでは高評価の声が続々と寄せられることになります。公開まで、全然大した情報が明らかにならなかったのは、映画を観るまでその楽しみをとっておいて欲しい、という結果だったことが初めて明らかになりました。
公開まで明らかにならなかった、この映画のあらすじについては、映画の冒頭で早々に明らかになります。翔北のメンバーに続いて、ある面々が満を持して登場。その瞬間に、“この映画ではこれをやります”という堂々とした宣言を、ここで初めて観客は受け取ることになります。あらすじを隠していたのは、サプライズのためだったのでした。

集客を考えるのであれば、「あらすじ」なんて事項は率先して明らかにしていったほうが良いし、人気漫画作品であればなおさら。しかし、それをあえて隠して見せてくる方向に舵を切ったのは、どれだけ楽しませようとしてくれているのか、が情報の出し方からも伝わります。
またなかなか映像を見せなかったのも、見せられない出来なのではなく、むしろすごい映像だったというのが、映画を観ることで判明。3DCGであることから自由なカメラワークと、立体的な動き、さらにはそれを、原作者のタッチに寄せて2D作品にも見せるようなバランスをとっており、これまでのどのセルルック3DCG作品にもない体験が、そこにはしっかり存在していました。

なかなか情報が出ないために、溜まりに溜まったフラストレーションを、ここまで嬉しい形で解き放ってくれる映画が登場するとは、予想できませんでした。今や、情報社会となり、公開前からありとあらゆる映画の内容がお披露目される中、映画館のスクリーンで衝撃を受けさせてくれる体験を優先したこの『THE FIRST SLAM DUNK』のスタンスは本当に貴重と言っていいでしょう

『THE FIRST SLAM DUNK』©I.T.PLANNING,INC.©2022 THE FIRST SLAM DUNK Film Partners

情報の発信の内容や順序などに課題はあったのかもしれませんが、なににしても多くの観客がポジティブな気持ちでスクリーンを出ることができ、しっかり多くの人が足を運ぶ結果になったのは、良かったと素直に喜べることでしょう。今後、『THE FIRST SLAM DUNK』のような、映画館でのサプライズに比重を置いた作品が増えていけば、自然と映画館へ足を運ぶ人が増えていくのではないでしょうか。一味違う戦い方を、興行という場でも魅せてくれる、そんな映画でした。

THE FIRST SLAM DUNK 作品情報

『THE FIRST SLAM DUNK』©I.T.PLANNING,INC.©2022 THE FIRST SLAM DUNK Film Partners

原作・脚本・監督:井上雄彦
声の出演:仲村宗悟 笠間淳 神尾晋一郎 木村昴 三宅健太

公開日:2022年12月3日(土)
公式HP:https://slamdunk-movie.jp/
劇場情報:https://toei-screeninginfo.azurewebsites.net/theaterlist/02835

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