『四畳半タイムマシン・ブルース』
どうもこんにちは、えのきです。
9月30日(金)から三週間限定でアニメ『四畳半タイムマシン・ブルース』が劇場で公開中です!
今回はそれに合わせて映画のレビュー……ではなく原作について、アニメでカットされた部分について書いていきたいと思います。
とはいえ、主なストーリーは原作もアニメも同じためネタバレ注意です。
原作からカットされたラストのやりとり
細部での変更は小説→映画となるにあたってもちろん無数にあるのですが、個人的に印象深いのは終盤の「私」と明石さんのやりとりでした。
リモコンをめぐるタイムスリップの騒動が解決した後に「タイムマシンを使っても過去は変えられないのかも」といった明石さんの言葉から会話があります。
時空間を一冊の本に例えて、先のことはわからないが既にそれは記述されている。だから何をしても結果は変わらないのではないか。という話が展開されます。
それについては悲観的な話になるのではなく「(未来はわからないため)だからこそ自由なのだ」という風に着地します。
映画ではそこでその話題は終わるのですが、森見登美彦の原作小説ではもう少しこの話題が続きます。
そこで語られるのが『四畳半神話大系』と『サマータイムマシン・ブルース』についてです。
「それはそれ。私は新作を撮りたいです」
「うん、そのほうがいいだろうな」
「先輩が昨日仰っていた四畳半をさまよう人の話」
明石さんは言った。「あれがいいと思うんですけど」
そのとき天啓のごとく、素晴らしいタイトルが閃いた。
「『四畳半神話大系』というのはどうだろう」
明石さんは「いいですね」と顔を明るくした。
あともうひとつ映画になりそうなアイデアがあった。昨日と今日で下鴨幽水荘で起こったこと、つまり田村君とタイムマシンをめぐる騒動を映画にしてしまえばいいのである。下鴨幽水荘で撮影すればいいし、田村君以外のキャストはすべて揃っている。
「タイトルはどんなのがいいかな」
「もう決めています」
「どんなタイトル?」
「『サマータイムマシン・ブルース』です」
明石さんは「いいでしょう?」と微笑んだ。
森見登美彦『四畳半タイムマシンブルース』角川文庫,2022年,P233,234
二つの作品のファンサービス的な文章でもあり、アニメーションに落とし込むと露骨になってしまうため、一本の作品としてはカットされたのは良い方向の改変だなぁと映画を見て思ったのですが、原作の上記のくだりはファンサービスだけでないテーマ的な意味合いもあるのではないかなと。
読者の世界自体に対しての意味合いを変化させる物語内の自由
上記のやりとりは直前に明石さんが語っていた「(未来はわからないため)だからこそ自由なのだ」というやりとりをより実践的に描いた部分なのではないかと考えられます。
本作『四畳半タイムマシンブルース』は企画としては『四畳半神話大系』と『サマータイムマシン・ブルース』が下敷き、コラボすることで生まれている作品です。
現実の時系列としては戯曲『サマータイムマシン・ブルース』があり、小説『四畳半神話大系』があり……という風な順番で最後に『四畳半タイムマシンブルース』があるわけです。
明石さんの言う「時間は一冊の本みたいなものだと考えてみたんです」というセリフはそれだけでは作中世界からメタ的に『四畳半タイムマシンブルース』を示すセリフになっている……のですが、その直後の会話から『四畳半神話大系』『サマータイムマシン・ブルース』があるとなるとまた意味合いが変わってきます。
もしかすると、因果は逆で『四畳半タイムマシンブルース』があるからこそ、私たちのいるこの世界に『四畳半神話大系』と『サマータイムマシン・ブルース』という作品が生まれてきたのかもしれない。「私」や明石さんの語る「タイムマシンを使っても過去は変えられないのかも」という言葉はそのまま読者である私たちの限界なのかもしれない。
そこで「(未来はわからないため)だからこそ自由なのだ」という言葉が効いてきます。「私」や明石さん、下鴨幽水荘の面々への言葉だけでなく、その物語の枠組みを超えた読者である「私たち」に対してのエールなのではないでしょうか。
「未来はわからない。だからこそ(あなた達は)自由だ」という。
『四畳半タイムマシン・ブルース』は一夏の変わった出来事を描いた青春物語、と言えます。それはただ作中の人物だけでなく、『四畳半神話大系』『サマータイムマシン・ブルース』から時を経て本作に触れた人々に今一度、未来へのエールを送る作品なのではないでしょうか?
現在、ディズニープラスでの順次配信、三週間限定での劇場上映期間中ですがこれを機会にアニメだけでなく原作に手を出してみるのはいかがでしょうか?
それではまた次回!
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『四畳半タイムマシンブルース』あらすじより