日本を代表するホラーアイコンといえば真っ先に名が上がるのは「貞子」だろう。3月にはあのDead by Daylightへの参戦が決定している。
このムービーナーズでも興奮して紹介記事を書かせていただいた。
【Dead by Daylight】DbDに貞子がくるってよ!!原作と映画で貞子の何が違うのか予習しとこうね!【リング】
その知名度は凄まじく、国内外のホラーファンだけでなく「ホラーなんかよく知らないんですけど」という人でさえ知っている。
貞子くらいのロングヘアーであるこの俺も、なんとなく前髪を前に垂らしていたら絶対にリングなんか見たことないであろう年齢の知らんガキに「貞子じゃん!」と言われたことがある。このことからも貞子の知名度の凄まじさは疑う余地がない。
さて、貞子といえば作家鈴木光司さんの『リング』シリーズ、またはそれらを原案とした一連の映画シリーズのキャラクターであることはみんな知っていると思うが、この「貞子」を題材にした児童向けのホラー小説があることはご存知だろうか。
タイトルは『貞子怪談』という。今回はこれの紹介をするぞ。
https://tsubasabunko.jp/product/321303000274.html
『貞子怪談』は角川の児童書レーベル、角川つばさ文庫から出版されている。
著者はTRPGやボードゲーム制作などで活躍されている「グループSNE」の友野詳さん、大井雄紀さん、川人忠明さん。オムニバス形式で、プロローグを除いた3話を1話ずつ担当されている。(プロローグは友野詳さん)
そして表紙や挿絵のイラストを漫画家の阿部洋一さんが担当されている点も外せない。超いい。
貞子の物語が語り継がれるうちに「学校の怪談」的な都市伝説になったという設定で、『リング』とはまた違った形の貞子の呪いに翻弄される子供たちのストーリーが語られる。
「スーパー怨霊の貞子が学校の怪談ってお前何を言っとるんだね」と思う方もまあまあいることだろう。しかしこの設定は決して原点から捻じ曲げられているわけではない。
原作シリーズ2作目『らせん』のラスト、貞子の呪いを拡散する方法はビデオのダビングだけではなく、本などに形を変えて物語を語り継ぐことでも成されることが判明する(そしてメチャクチャ大変なことになる)。
貞子の恐怖はそのまま「ウィルス感染症」の恐怖と言える。「感染の恐怖」「理不尽な死の恐怖」そして「次々に形を変える突然変異の恐怖」
さまざまに形を変えて語り継がれていった先の貞子の呪いの物語として、こうした「学校の怪談」のような形になった「もしも」の『リング』スピンオフとして本作はめちゃめちゃ面白い。
「プロローグ」
ある理由から貞子の呪いのビデオを再現しようとした少年の物語。怖い。「貞子について物語る」「貞子を描く」など、貞子にまつわる何かを生み出すと貞子を呼び出すことができる。呼び出したら誰かを呪い殺してもらえる。ただし呼び出しておいて貞子に何も願わなかったら……という本作での貞子の呪いのルールを見せてくれる。
「第一話 だけど私は本物だから」
霊能力があると嘘をついてみんなの気をひいていた女の子が貞子の呪いを利用しようとしたらえらいことになる話。怖い。面白い。人気者への妬みや、オカルトへの憧れ。読んでいて「俺にも覚えがあるぜ」と子供の頃を思い出してキュンキュンした。そしてバッチリ怖くて後味が悪い。
「第二話 シャッターチャンス」
いじめられっ子が貞子の呪いが宿ったアプリゲームでいじめっ子に復讐してえらいことになる話。貞子をアプリゲームで操作していじめっ子をボコボコにするシーンはホラー映画の一番気持ちがいいところを見ているようで楽しい。DbDに参戦したらこんな感じだろうな。そしてしっかり陰湿で怖い。
「第三話 呪われたメロディー」
出来が良すぎる姉と比べられて劣等感の塊になった妹が貞子にまつわる楽譜に出会ってえらいことになる話。「アプリゲームのアイデアもすごかったけど楽譜か~! その手があったか~!」と貞子アイテムのアイデアにまず感動した。しっとりした姉妹の物語でありながら貞子3D的なテンションの高さもあって面白い。
どの物語も「貞子にまつわる何か」のアイデアが本当に面白い。それに話の中に小道具として同タイトルの『貞子怪談』という本が登場するのが最高。俺は電子書籍で読んだので一命をとりとめたが、紙で読んでいたら「この本じゃんかよ!!!!」と叫びながら本を落としてたと思う。
学校の図書館なんかでそういう体験をする子供がいるんだろうか。羨ましい。
本作のオススメポイントはなんと言っても「児童向け」である点だ。メチャクチャ優しい文体で読みやすい。それに舞台も学校なので、子供は我が事として物語に没入しやすく、大人は「あ~、子供の頃学校の怪談話あったよな~」とノスタルジーを感じながら楽しむことができるだろう。
ホラー表現も、児童書特有の「怖いが、怖すぎない」絶妙な火加減だ。
あと何より阿部洋一さんの挿絵と貞子がかわいい。本当にかわいい。怖かわいい。
『貞子怪談』は『リング』スピンオフとしても、気軽に読めるライトなホラーとしてもオススメだ。児童書だから子供にも読ませよう。感染させまくろう。
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