映画『N号棟』レビュー!「なんとなく怖がりたい人」を打ち負かす?実話ベースのカウンター・ホラー

2000年ごろ話題となった「幽霊団地事件」をベースにしたホラー映画『N号棟』が4月29日(金)より公開されます。

「考察型体験ホラー」という本作ですが、これまでのホラーとは一味違った要素がありました。

映画『N号棟』あらすじ

死恐怖症(タナトフィビア)である女子大生の史織(萩原みのり)は、元恋人の啓太(倉悠貴)が卒業制作でホラー映画を撮影すると聞いて、彼の現恋人・真帆(山谷花純)と3人でロケハンに向かう。そこは、かつて霊が出るとマスコミでも騒がれた団地だった。すでに廃墟になっていると思われた団地だが、そこにはまだ人が何人も住んでいた。

不審に思う3人はロケハンのためにカメラを回すが、突如ラップ現象が発生。さらに史織たちに優しく接していたひとりの住人が、何のためらいもなく飛び降り自殺をしてしまう。住人が死んだにもかかわらず、動揺すら見せない住人たち。

さらに住人たちをまとめる1人の女性・加奈子(筒井真理子)の口から語られる言葉に、啓太や真帆の様子にも異変が起きる…。唯一、加奈子の言葉に耳を傾けない史織は、団地に隠されたある秘密を目撃する…。

2000年に起きた「幽霊団地事件とは?」

作品のベースとなった「幽霊団地事件」とは、岐阜県富加町の団地で起きた怪現象のことです。当時はテレビでも取り上げられ「ドアが勝手に開く」「誰もいない部屋から音がする」など、ラップ現象が多数報告されました。やがて、事態は警察や自称・霊媒師が登場するほど大きなものに…。

しかしその真相は「霊媒師の除霊が効いた」とか「住宅の欠陥」などと言われ、さらには「住人による集団ヒステリーではないか」など、その真相は謎のまま収束してしまいました。

映画『N号棟』では、こうした騒動後の廃団地が舞台のホラー映画となっています。(なお撮影場所と実際に幽霊騒動のあった団地は別でした)

ホラーをエンタメとして観ていないか…?と問われる作品

©「N号棟」製作委員会

ホラーと聞くと、不気味で得体の知れない作風のものから、とにかく観客を脅かそうとするエンタメ要素の強い作品まで幅広くあります。『N号棟』は前者であり、登場する人物からは「理解せずに恐れること」に対する、意味深なメッセージも聞こえてきます。

後者のようなエンタメ系ホラーを観る心境にもいろいろありますが、主に怖がっているのは目の前に起きた現象(演出)です。そして、その現象の原因などは最後に明かされることがほとんどです。

ところが『N号棟』では、霊や死後の世界など、分からないものを分からないまま怖がることを良しとしません。主人公の史織は死恐怖症(タナトフォビア)を抱えており、程度は違えど、誰だって死は不可解だし怖いもの。にもかかわらず、団地の住人をまとめる謎の女性・加奈子は霊や死後の世界を理解しているような口ぶりです。そして「死ぬことは怖くない」と断言します。

加奈子が語る「死」の意味、そして団地に起きる怪現象や秘密を知ったとき、この映画のメッセージや演出の真意を考えてしまう…。そんな独自の構図を持つホラー映画となっていました。

怖がらせる側になって考える考察ホラー?

©「N号棟」製作委員会

映画『N号棟』では死を恐れ、霊的現象など信じない史織と、死に対してポジティブな価値観を持つ加奈子の価値観がぶつかる様子も描かれていました。

加奈子は死や霊の存在を肯定し、むやみに”彼ら”を拒絶することを嫌います。

例えば、怪現象が起きた場所の過去を調べると「そこで自殺をした人がいた」という情報までは分かります。ただし、心霊現象となって現れた“霊の動機“などはなかなか分かりにくいものです。

恨みを晴らしたい霊もいれば、やり残したことがあって現れた霊や、会いたい人がいる霊もいるかもしれない。何かしらの理由があって霊や魂が現れたはずなのに、その存在の理解を拒んで、いきなり物騒な理由をつけて除霊だのお祓いなどされる霊の立場になってみると…。そりゃ霊も怒ってラップ現象を起こしたくなるものです…。

本作が他のホラー映画と違い、“怪現象を起こす側”に寄った考えを始めてしまう演出やセリフがあります。今一度、ホラーを見ながら霊や魂の立場になって考えてみるのはいかがでしょうか…?

怪現象より恐ろしい筒井真理子の存在感

©「N号棟」製作委員会

「そうは言っても、頭で考えるより、ラップ現象や幽霊が見えて『ぎゃ~!』ってなった方がホラーとして楽しめそう…。」という声も聞こえてきそうです。

本作では、幽霊や怪現象よりも恐ろしい存在感を放つ人がいます。これまでに何度か説明で登場した、筒井真理子演じる謎の女性・加奈子です。彼女は死後の世界や幽霊の存在を信じる口ぶりだけでなく、死や霊は素晴らしい!と言わんばかりのポジティブ・オカルトマニアです(良くない例え)

その立ち振る舞いは、優雅でありながら付け入るスキがなく、この団地で起きるあらゆることを把握している全能感さえあります。終始「死」に怯える史織たちを通して、観客に対しても「あなた、ちゃんと理解してから怖がってます?」と投げかけてくる存在感は観ていてゾクゾクします…。

筒井真理子といえば『淵に立つ』や『よこがお』の怪演も記憶に新しく、そのミステリアスなオーラは本作でも健在していました。個人的には、ラストで史織に放った二文字のセリフで鳥肌が立ちました(怖)

『N号棟』まとめ

ネタバレになってしまうので、あくまで「どんな要素が怖いのか」という点に注目しましたが、団地の秘密やラストで待ち受けるヒロインの結末など、いろいろなシーンで考察したくなる要素やアイテムも登場します。

「ただ怖がる映画」ではなく、恐怖を理解しようと挑む、一風変わったホラー映画でした。軽~いノリで観ると、その深い内容にカウンターパンチを喰らうかもしれません…!

『N号棟』作品情報

©「N号棟」製作委員会

脚本・監督:後藤庸介
キャスト:萩原みのり、山谷花純、倉悠貴、岡部たかし、諏訪太朗、赤間麻里子、筒井真理子
主題歌:DUSTCELL「INSIDE」(KAMITSUBAKIRECORD)
音楽:Akiyoshi Yasuda
製作:2021年(日本)
上映時間:103分(PG12
配給:S・D・P
©「N号棟」製作委員会
公式サイト:https://n-goto.com/

カテゴリー