映画『C.R.A.Z.Y.』レビュー!愛憎ぶつかる家族と少年の成長を鮮やかに描く

マシュー・マコノヒー主演作『ダラス・バイヤーズクラブ』(13)や、ジェイク・ギレンホール主演の『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』(15)などを手掛けた名匠ジャン=マルク・ヴァレ。

2021年12月25日、58歳でこの世を去った彼の死を悼むかのように、ヴァレ監督の過去作にして原点と呼べる映画『C.R.A.Z.Y.』(05)が7月29日より日本公開されます。

これまでヴァレ監督が描いてきたキャラクターや演出を考えると、なぜ『C.R.A.Z.Y.』がこのタイミングで公開されたのかが伝わってきました!

映画『C.R.A.Z.Y.』概要

1960年代の保守的な家庭で、5人兄弟の4男として育ったザック。「特別な子」と呼ばれた彼は、軍で働き音楽を愛する父親と過保護気味の母親、それぞれ文武に秀でた兄2人、問題だらけの次男を観察しながら幼少期を過ごす。やがて思春期に足を踏み入れる1970年代。ザックは同性に惹かれ始めた自らのアイデンティティと、男らしくあれという父親の価値観の間でもがくようになる。(http://www.finefilms.co.jp/crazy22/

本作は2005年にカナダで制作された、ヴァレ監督のハリウッド進出前の作品です。作中の舞台も1960年代のカナダ・ケベックであり、どこにでもいるいたって普通の家族・ボーリュー家がぶつかる問題や、血縁だからこその愛憎が描かれています。

ヴァレ監督が一貫して描く、重いテーマに見えて希望を感じられる作風

© 2005 PRODUCTIONS ZAC INC.

保守的な家庭に生まれながら、同性に惹かれるザック。そして彼に「男らしさ」を強要する父。そんなザックを忌み嫌う兄・レイモン。先に「普通の家族」と書いておきながら、ザックをはじめとするボーリュー家が直面する問題は山積みです。

これらの問題を家族でどう乗り越えるのか?ザックは父との間に広がる確執とどう折り合いをつけるのか?文字にするとかなり重いテーマに感じられますが、『C.R.A.Z.Y.』は困難と向き合い、それを乗り越える姿を開放的な演出で見せてくれます。

『C.R.A.Z.Y.』に限らず、これまでのヴァレ監督の作品を振り返ると、多くの主人公が様々な運命を背負ってきました。エイズで余命宣告された男を描く『ダラス・バイヤーズクラブ』をはじめ、母の死から立ち直れず、ドラッグと男に溺れていく『わたしに会うまでの1600キロ』。妻を亡くしたのに、涙ひとつ流せない男を描く『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』など…。

これらの主人公を捉えた作品も、自分の苦しい境遇から立ち上がろうとする姿が繊細かつ開放的に描かれていました。主人公たちの苦しい現状でさえ、息が詰まるような、シリアスすぎる演出で見せることはありません。

この「開放的な演出」のひとつに、DJのごとく劇中に流れる音楽たちが一役買っています。

監督の原点とも言える音楽のチョイス

(↑)『雨の日は会えない』の予告でも使用されているHeartの「Crazy On You」など、作中の音楽チョイスが絶妙なジャン=マルク・ヴァレ監督

『C.R.A.Z.Y.』は1960年代から1970年代をメインに描いており、その時代になぞらえて、シャルル・アズナヴール、デヴィッド・ボウイ、ローリング・ストーンズ、ピンク・フロイドなどの名曲が使用されています。

特にシャルル・アズナヴールの名曲はザックの父親・ジェルヴェの十八番であり、何気なしに歌ったり、感極まったときに歌ったり、時代をまたいで(ジェルヴェに)愛されている名曲となっています。

ザックはそんな父の音楽や趣味のセンスを尊敬しており、だからこそ、自分のアイデンティティと父の価値観との衝突が、胸を締め付ける展開となっていくのです…。

© 2005 PRODUCTIONS ZAC INC.

これまで公開されたヴァレ監督の作品でも、サウンドトラック以上に既存の音楽のチョイスが絶妙でした。『C.R.A.Z.Y.』に関しては、楽曲使用の予算を特別に組み、200枚近いCDから選曲したとインタビューで明かしています。まさにDJのようだなあと思うと、ヴァレ監督の父親もラジオの番組編成の仕事をしていたとか。

『C.R.A.Z.Y.』のザックが父の影響を受けるかのように、ヴァレ監督もまた、父親のセンスを受け継いでいるのかもしれません。

家族だからこそ”嫌いになれない”物語

© 2005 PRODUCTIONS ZAC INC.

自身が同性愛者であることから、父親の価値観と自分の本質の間で苦しむ主人公・ザック。
そして、同性愛者の弟を持つことを忌み嫌いながらも、自身も問題を抱えて破滅の道を進む兄・レイモンとの衝突を軸に、ザックと家族の成長を描いています。

あまりの衝突っぷり(祝いの席がめちゃくちゃになることが何度もあるレベル)に「これはアンチ家族ドラマなのか…?」と思うほど。しかし、先に紹介したヴァレ監督の演出もあって、どこにでもいる家族の出来事を、とてもドラマチックに見せてくれます。家族の関係を全否定するのではなく「家族だからこそ憎み切れない、歩み寄りたい」という気持ちを鮮やかに描きました。

ザックが自分のアイデンティティに背いて、家族との仲を選ぶのか?自分の価値観を優先して、家族と距離を取るのか?

愛憎渦巻くドラマだからこそ「家族っていいよね!」みたいな作品が苦手な人ほど観てほしい作品でした。

おまけ

『C.R.A.Z.Y.』を鑑賞する途中で、どうしても筆者の頭にこびりついて離れない描写がありました。

それは、ザックたちの母・ロリアンヌがレイモンのために、アイロンでパンをぺしゃんこにして焼いていた場面です。

それ、本当に旨いのか…?

筆者も朝はパン派ということもあって、非常に気になるシーンであります(しかもラストの方で、この”アイロントースト”のくだりが非常に印象的なものに昇華されるのです…)

※ちなみにアイロントーストをネットで調べるとネタ記事がヒットしますが、ケベックでは家庭料理のひとつだそうです。
(ソース:https://plus.lapresse.ca/screens/19547de2-b7c4-4014-a1ba-98e903375ee8__7C__o44NdBSk7rc-.html

『C.R.A.Z.Y.』で登場する”アイロントースト”をやってみた

気になりすぎたので、自宅で再現してみます。

今回準備したものがこちら。

  • トップバリ〇の食パン(6枚切り)
  • 木製のまな板(『C.R.A.Z.Y.』本編でも木製まな板を使用していました)
  • アイロン(重い)
  • クッキングシート(念のためパンとまな板の間に挟む用)

一時期狂ったように、家中のズボンをセンタープレスするために使っていたアイロンを久々に出しました…。

まずは設定温度のレベルを4にして、食パンをプレスします。

『C.R.A.Z.Y.』の本編だと、母親が結構サクサクとプレスしていたように見えますが、実際にやってみると、パンの元に戻ろうとする力が強くてぺしゃんこにならない…。

衣類と同様に、アイロンを縦横に動かしてみるものの、なかなか作中の薄さにはたどり着きません。自分の体重をかけて押しつぶすことで、やっとそれっぽい薄さになりました。気のせいかもしれませんが、トースターで焼く時よりいい香りがします。

その後、設定温度を最大にしてやってみたものの、焦げ目はほとんどつかず…ただ、パン自体もかなり熱くはなっていました。

そして肝心の味ですが、これが意外と旨い!

安い食パンはトースターで焼くとぱさぱさになって、口内の水分が全部持っていかれるのですが、圧縮されたことでシッカリとした食べ応えを楽しめます。口の中がパサつかないのも良い。作中のレイモンはまだ10代くらいでしたが、いい趣味をしていますねえ。

今回は何もつけずに食べましたが、マーガリンを塗ったらすごそう…。安い食パンを食べるなら、トースターよりアイロンかもしれません。

あとアイロンは結構すぐ熱くなるので、トースターより早く食べられると思います。準備は面倒ですが、あらかじめキッチンにアイロンが置ける環境の人は時短にもなります。

【結論】『C.R.A.Z.Y.』の”アイロントースト”は早い・安い・旨い

現場から以上です!!

映画『C.R.A.Z.Y.』作品情報

© 2005 PRODUCTIONS ZAC INC.

監督:ジャン=マルク・ヴァレ『ダラス・バイヤーズクラブ』
出演: ミシェル・コテ、マルク=アンドレ・グロンダン、ダニエル・プルール
2005/カナダ/フランス語、英語/カラー/129 分 後援:カナダ大使館、ケベック州政府在日事務所
原題:C.R.A.Z.Y. 
配給ファインフィルムズ
公式サイト:http://www.finefilms.co.jp/crazy22/

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