映画『ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド』公開前レビュー!ザ・スミスを知らなくても楽しめる青春・音楽映画

イギリスのバンド「ザ・スミス」の解散を受けた若者たちが抱える不安や葛藤を描いた青春音楽映画『ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド』が12月3日(金)より公開されます。

ザ・スミスによる貴重なインタビュー映像を随所に挟み、「ゼア・イズ・ア・ライト」、「ディス・チャーミング・マン」といった代表曲が数多く本編で流れる、「ザ・スミス」のファンにはたまらない映画となっています。

…このように紹介すると、どうしても「ザ・スミス」を知らないと面白くないんじゃ…と考えてしまうのが正直なところ。筆者も音楽は好きですが「ザ・スミス」に関しては全くと言っていいほど無知。

今回はそんな「ザ・スミス」を知らない鑑賞者目線で本作の見どころを紹介していきます。結論から言うと、音楽・ファッション好きならジャンル問わず楽しめる作品でした!

映画『ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド』概要

《あらすじ》
コロラド州、デンバー。スーパーで働くクレオは、大好きなザ・スミス解散のニュースが流れても普段と変わらない日常に傷つき、レコードショップの店員ディーンに「この町の連中に一大事だと分からせたい」と訴える。ディーンはクレオをデートに誘うが、友達が軍隊に入るので仲間と集まるからとクレオは出かけていく。1人になったディーンは、地元のヘビメタ専門のラジオ局に行ってザ・スミスの曲をかけろとDJに銃を突きつけた。同じ頃、クレオ、ビリー、シーラ、パトリックの仲良し4人組は、パーティーでバカ騒ぎをしながらも、自分自身や将来について思い悩んでいた。(公式サイトより

「ザ・スミス」とは?

多くのミュージシャンに影響を与え、今なお伝説的存在として語り継がれるザ・スミス。1980年代のサッチャー政権下イギリスにて、賃金低下、失業率増加に苦しむ若者たちの気持ちを代弁した歌詞と独特なギターメロディが特徴的です。

特にフロントマンのモリッシーは作中でもカリスマ的存在として取り上げられており、彼の発言や思想はもちろん、ファッションなどもファンに多くの影響を与えました。「ザ・スミス」の活動期間は1982年 から1987年。わずか5年ほどで世界中から注目を集めるビッグバンドとなっています。

ザ・スミスファンのラジオ局ジャック事件とは?

本作のテーマにもなっている「ザ・スミスファンのラジオ局ジャック事件」は、1987年にデンバーの若者がラジオ局に乗り込み銃でDJを脅し、当時まだ知られていない「ザ・スミス」の楽曲を放送しろと要求した事件として伝えられています。というのも、この事件はモリッシーをはじめ、世間にほとんど知られてなかったのです。そのため、事件は噂の域を出ることはありませんでしたが、のちに自伝「聖モリッシー:驚くべきファンによるディス・チャーミング・マンの肖像(原題)」の中でその真相が明らかになります。

映画はあくまでこの事件をモチーフにしたフィクションなので、実録映画ではなくドラマ映画としてみることをお勧めします。

監督は『JACO[ジャコ]』(12)や『WE ARE X』のスティーヴン・キジャック

本作の監督を務めるのは、音楽映画において数々の作品を発表してきたスティーヴン・キジャック。スコット・ウォーカーの伝記映画『スコット・ウォーカー 30世紀の男』(06)で知名度を上げると、ミック・ジャガーから依頼を受けて『ストーンズ・イン・エグザイル~「メイン・ストリートのならず者」の真実』(10)を手掛けるなど、ミュージシャンからの信頼も厚い人物です。

近年では「X JAPAN」がマディソン・スクエア・ガーデン公演を成功させる過程を捉えた『WE ARE X』(16)の監督に抜擢され、多くの映画賞を獲得しました。これまで多くの音楽ドキュメンタリーを手掛けてきたスティーヴン・キジャックが、満を持して音楽とドラマを掛け合わせた劇映画に挑戦します!

キャストには『6才のボクが、大人になるまで。』のアノ俳優が出演!

©2018 SOTW Ltd. All rights reserved.

本作のメインキャストは若手が勢ぞろい。Netflixの「ソーシャルディスタンス」に出演するヘレナ・ハワードがヒロイン・クレオを演じるほか、ラジオ局をジャックされてしまうDJには「トゥルーブラッド」シリーズのジョー・マンガニエロが抜擢されており、ゴリゴリのメタラーを熱演しています。

そしてラジオジャックをする青年・ディーンを演じるのは『6才のボクが、大人になるまで。』で主人公メイソンを務めたエラー・コルトレーン。いい意味で当時の面影が無くなっており、ナーバスな青年を見事に体現しています!

ファッションがカッコいい!だけじゃない…!

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筆者は「ザ・スミス」についての知識や情報がほとんどないため、どうしても登場人物のファッションに目が行ってしまうのですが、作中の登場人物はモリッシーをはじめ、ミュージシャンたちの衣装をマネしています。「タイを結ばない」「アイラインを引く」など、好きなミュージシャンに憧れて髪型や服装をマネしたことがある人には共感できる点が多くありました。

しかし彼らが「ザ・スミス」のファッションをまねると、外野からはゲイだのなんだのとヤジを飛ばされてしまいます。ファッションを通して、自分の嗜好から離れた相手を攻撃する相手の醜さも描くと同時に、コミュニティに溶け込めない若者たちのナイーブな感情も「ザ・スミス」の音楽や歌詞にのせているのです。

いたずらに退廃的な展開に進まず、若者たちの葛藤を丁寧に描いているため、かなり“上質な青春映画”という側面も持ち合わせている作品です。

“DJ VS ラジオジャック犯”ディスりあいからの歩み寄りが良い

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音楽ファンならずとも、趣味嗜好が合わない者同士が意見をぶつけるのはよくあること。しかし本作ではそれをラジオジャック中に行っているのだからなかなかにアツいです。

主人公であり、ラジオ局をジャックする犯人・ディーンはヘビメタ専門のラジオ局をジャックしますが、DJのフルメタル・ミッキーも骨太な性格かつ生粋(?)の「ザ・スミス」嫌いということもあって、自然な流れでディスり合いが始まります。ディーンもヘビメタが嫌いなのでバトルは白熱していき、しまいには「音楽を聴くのは現実逃避だろ」と語るミッキーに対して「ザ・スミスは“救い”だ!」とスケールの大きい話になっていきます。

しかしそんな2人もお互いの過去や葛藤を打ち明けると、少しずつ距離を縮め、さらにはそれぞれの好きな音楽にも少しだけ理解を示すように…。ミッキーも渋々「ザ・スミス」のレコードをかけた瞬間、曲を聴いて表情を変える場面もありました。銃(本物)がそばにあるのに、ラジオブースだけどこかピースフルな空気感になっていく様子はグッときました。

ジャンルでいがみ合わずに、こんな風に理解し合えれば最高なのになあ~…。なんて思わずにはいられないシーンは必見です。

「田舎は嫌だー!」って人に見てほしい、海外田舎が孕む空気感

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舞台となるコロラド州デンバーは「アメフト!」「ビール!」といった大衆文化万歳の町。「ザ・スミス」のファンはほとんどおらず、ファンだと名乗ると「暗い」「ゲイが好きそう」など滅茶苦茶に言われます。

田舎の悪いところを全部乗せたような町で、マイナーシーンに傾倒する肩身の狭さは日本でも通ずる部分があるのではないでしょうか。作中でもヒロイン・クレオは「ザ・スミス」が解散したのに、町の人はまるで何もないかのように過ごしていることに大きなショックを受けています。

アンチ田舎精神もしっかりと描いているので、「ザ・スミス」を知らずとも、自分の好きなジャンルが周囲に受け入れられていない寂しさを抱える人に刺さる内容は印象的でした。

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もちろん、本作には「ザ・スミス」ファンには楽しめる小ネタが多数散りばめられているのが、ファンでなくてもビシビシ伝わってきます。主人公たちの心境を歌詞の内容にのせたり、映画のタイトル同様、ヒロインのクレオがレコード屋で万引きをしたり…。

登場人物の名前や動作にまで「ザ・スミス」のオマージュがあるので、ファンの方は隠れ「ザ・スミス」を探せ!的な楽しみもできるかもしれません…!音楽、ファッション、若者の文化。少しでも気になる要素があれば、本作はかなり刺激を受ける映画になるはずです。

『ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド』作品情報

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公開日:2021年12月3日
制作:2021年(アメリカ・イギリス合作)
上映時間:91分
原題:Shoplifters of the World
配給:パルコ
監督・脚本:スティーブン・キジャク
キャスト:ヘレナ・ハワード、エラー・コルトレーン、エレナ・カンプーリス、ニック・クラウス、ジェームズ・ブルーア、トーマス・レノン、ジョー・マンガニエロ

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