ドパガキのこれからを考える〜コンテンツ構造の変化〜

ガトリングチワワ

タイパの時代、ショート動画の隆盛

先日、昨今定着したネットスラング「ドパガキ」について書かれたITmedia Mobile掲載の記事が話題となった。

「一瞬の退屈も我慢できない」SNS中毒“ドパガキ”ってなんだ? その心理と、日本以外の状況

「ドーパミン中毒のガキ」ことドパガキというスラングの定着は、短時間で効率よく情報や刺激を得ることを重視する「タイパ主義」との親和性の高さにも起因していることがこの記事でも指摘されている。
実際、TikTokやYoutube shortsに代表される縦型短尺動画が非常に強い影響力を持ち、ミームの伝播や流行の発生に寄与していることは明らかだ。

2021年に公開された映画『サマーフィルムにのって』では、遠い未来ではそうした短尺傾向が激化し、映像は5秒がスタンダードで一分もあれば長編と言われてしまう未来について言及される。

2020年台も後半突入の今、実際どうなった???

タイパ主義が蔓延する今の時代、なんとなくドパガキ的ユーザーを満足させるためにコンテンツ全般がショート化している傾向が見受けられるように感じるが、果たしてその実態はどうなのか検証してみよう。

1.映画について

「サマーフィルムにのって」では、未来では2時間前後もある映画など観る暇がないということが語られるが、映画の上映時間については、過去の記録と比較しても上映時間の短縮は進行していないという内容の記事が日本経済新聞掲載の一面を飾り話題となったことは記憶に新しい。

映画、タイパ時代に逆行 上映時間10年で13分増
日本経済新聞 2025年1月5日朝刊

そこで、直近ではどうなのか、日本国内の2026年9月11日~9月13日の劇場公開映画 週末観客動員ランキングTOP10(興行通信社調べ)の作品とその上映時間をまとめ、平均値を出してみよう。

直近のデータについては、映画ちいかわやトイストーリー、5秒で完全犯罪を生成する方法など、対象年齢の低い(≒上映時間が短い)作品が多くランクインしているが、それでも平均としては120分を超えている。これは2010年代までの映画作品の上映時間の平均と比較しても決して短いわけではなく、概ね横這いと言えるだろう。

オデュッセイアのような大作は本当に長い(172分)ので、尿対策が必須だ。

2.ショートドラマについて

SNSにおけるショート動画の普及と同様に、近年では1話の長さが約1分〜5分程度の縦型ショートドラマの普及も目覚ましい。

emole株式会社が運営する日本発のショートドラマアプリ「BUMP」を始め、世界最大規模のショートドラマプラットフォーム「DramaBox」や豊富な小説IPの映像化を進める「ReelShort」など近年新たなプラットフォームが台頭している。

正に、ドパガキを満足させるためのコンテンツが新しく流行り始めたように思えるがその実態はどうなのか見ていこう。

Sensor Tower社の調査によると、2024年以降、世界におけるショートドラマアプリのIAP収益は急増しており、2024年第1四半期には1億7,800万ドル、2025年第1四半期には7億ドル近くに達し、市場規模が大きく拡大している分野だ。

[レポート]2025年世界のショートドラマアプリ市場に関するインサイト

特に、DramaBoxはディズニーからの出資・支援を受けており、今後ディズニーが持つ豊富なIPのショートドラマ化の可能性もあり得る注目のプラットフォームだ。
DL数に関しても、全世界で2億ダウンロードを突破し、月間アクティブユーザーは5,000万人以上と公式が発表しており、十分流行りつつあるプラットフォームだと言えるだろう。

こうしたショートドラマアプリのビジネスモデルに着目すると、他の映像作品プラットフォームとの大きな違いが見えてくる。
NetflixやDisney+などの大手サービスではサブスクリプション型の課金が中心だが、DramaBoxを始めとした多くのショートドラマではPay-Per-View、つまり単話課金型を多く採用している。
最初の数話を無料で見せ、クリフハンガー的な作劇で課金を促す…バナー広告でよく出てくるweb漫画に近い形態で課金を促す仕組みであり、ソシャゲの課金にも近い形式である。
「ショートドラマ」はまだまだ若い文化だと思うので、これに関しては今後のユーザー数の推移に着目して判断する必要があるだろう。

3.音楽について

コンテンツ短尺化の話題において最も頻繁に語られるのが音楽分野ではないだろうか?

そもそも「ドパガキ」の由来「ドーパミン中毒のガキ」もMrs. GREEN APPLEの楽曲に言及されたポストが発端だった。
ここで、改めて近年の楽曲の構造について見ていこう。

2025年にBBCに掲載された興味深い記事がある。

Three-minute heroes

TikTok made songs shrink, but artists are pushing back

(3分間のヒーロー TikTokは楽曲を縮小させたが、アーティストたちはそれに反発している。)

BBCの調査によると、音楽ストリーミングサービスの登場に伴い曲は短縮傾向が進み、更にTikTokの登場により、楽曲の構成にも大きな影響があった。
例えば、TikTokでヒットした曲の多くはイントロを省略、リスナーの注意を引くフックを冒頭に持ってきて、プリコーラス(Bメロ)を通り過ぎてすぐにコーラス(サビ)に入る構成となっている。
「最初の2秒で人々の注意を引かなければならない」という考えで制作される楽曲が増える一方、楽曲の長さは2019年の最低値以降、再び徐々に長くなっており、2025年上半期のヒット曲の平均は3分半近くにまで伸びた。

これにはアーティスト側の「流れに逆らいたい」という意思と、リスナー側の「アーティストの存在感を作品の中で実際に感じたい」という意思の一致によるものだろうと述べられている。

ストリーミングサービスやTikTokの台頭で曲の長さが短くなり、いち早く曲のフックに到達させる構造を持つ楽曲を上記の記事中では「attention deficit pop(注意欠如ポップ)」と揶揄しており、これは正にドパガキ発祥のポストと同様の考え方だろう。しかしながら、近年ではそうした傾向に対しての揺り戻しが起きていることは面白い傾向だと思う。

まとめ〜ドパガキのこれから〜

タイパやドパガキと言った言葉の定着もあって、漠然と短尺コンテンツが流行っているイメージがあったが、その実態としては「コンテンツの性質」ないし「プラットフォームの構造」に大きく依存しているようである。

実態をコンテンツの種別毎に更に細かく考えていくと、映画や音楽のストリーミングサービスにおけるロイヤリティの算出方式(例えば再生時間ではなく再生回数のみに依存するシステムなど)や、倍速視聴なども考慮して考えていく必要がある。
しかし現在の潮流を見ると、ざっくりと「自分が好きなコンテンツには時間をかけるのが苦ではない」「むしろ長く楽しめた方が得」と考えるユーザーが少なからず存在する一方で、タイパを意識した構造のコンテンツや、時代に応じたアプリや課金方式に則ったショートコンテンツも確実に浸透している。と言える状態ではないだろうか。

音楽の例からしても恐らく今後は多くのコンテンツで揺り戻しのフェーズに突入し、脱タイパ・脱ドパガキの流れに向くことでプラットフォーム構造の変化が起こることが予測できる。
しかし映画に関してはこれまでの推移を見ても、現状の形態(上映時間・構造)から大きく変化することは当面なさそうなので、いつの時代も大作映画を見る際の尿対策は普遍の課題になりそうだ。

 

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