“探してたあの曲”がたくさん流れる名作『フットルース』を陰の者にこそ薦めたい

ツナ缶食べたい

 2024年も間もなく三分の一が過ぎ去ろうとしているが、今年の春の気象は不安定だ。桜が咲いた!と喜んだのも束の間、猛暑と雨が交互に襲ってきたせいで花見気分が芽を出す前に桜が散ってしまい、そのくせ花粉だけは例年通りの量がやってきて俺たちを苦しめる。

 それにあてられたのか、新入社員の何名かが、会社を去っていった。まるで、入学式と卒業式を同じ月に執り行ったようなものだ。弊社から新天地へと巣立っていった皆様の益々のご活躍とご健勝をお祈り申し上げます。

 ところで、皆さんは海外の青春映画で「プロム」なるものを見かけたことはあるだろうか。

 これはアメリカやイギリスの高校で行われる、高校卒業を祝うためのダンスパーティーのことなのだが、私はこのプロムが恐ろしくて仕方がない。
一緒にダンスを踊るパートナーを見つけられなければイケてない奴確定、不慣れなステップを披露すれば動画をSNSに晒され格好の笑い者にされてしまうだろう。ヤバすぎる

プロムをテーマにしたミュージカル映画『ザ・プロム』はNetflixにて独占配信中。

 体育の成績は常に最低評価、フォークダンスの授業では「あいつと手をつなぎたくない」とクラスの女子生徒から名指しでNGを食らった身としては、想像しただけで泣きたくなってしまう。

 いやいや、すみません。ムービーのナードな皆さんを怖がらせたかったわけじゃないんです。申し遅れました、初めまして、ツナ缶食べたいと申します。俺は皆さんの味方です
 その証拠に、今回はダンスもプロムも好きになる、自然と身体がリズムを取ってしまうゴキゲンな映画の話をします。

TM & Copyright (c) 2021 by Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

 『フットルース』は、青春映画の中でも金字塔と言われている名作だ。最近だと『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の主人公スターロードがガモーラとの雑談の中で話題に挙げ、彼が偉大なヒーローと称賛したのが本作の主演を努めたケヴィン・ベーコン。少し前だと表題曲「Footloose」がマクドナルドのCMで使われ、サビを聴けば「知ってる!」となる世代も多いはずだ。

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 物語は、ケヴィン・ベーコン演じる主人公のレン・マコーミックが、アメリカのとある小さな田舎町ボーモントに引っ越してきたことから始まる。その町では教会の牧師が多大な影響力を有しており、彼の鶴の一声によってロックミュージックの禁止、性的な表現を含む書物の焚書などが行われていた。

 その抑圧的で保守的な町の空気に、シカゴで育ったレンはどうしても馴染めず、転校先の学校でもよそ者扱いの彼には様々なトラブルが舞い込んでくる。常に周囲から奇異の目で見られ、後ろ指を刺される毎日。そんな日常に嫌気が差したレンは、大人たちからの息苦しい支配を打開すべく、卒業ダンスパーティーを企画する。

 レンが闘うのは、この町の空気そのものである。大人たちは若者が好む音楽や書物を俗悪だと否定し、神に仕える神父は町の浄化だとして過剰な絞めつけを行う。そのことに息苦しさを感じる若者たちは、大人たちの目の届かない場所でしか、ハメを外すことが出来ない。

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 本作のヒロインであるアリエルはその代表格で、家族の前では聞き分けの良い娘を演じながら、家を飛び出しては不良彼氏とイチャイチャし、並走する二つの車を足場にして立つというヴァン・ダム式ストレス発散法に励んでいる。

 この町の閉塞感を際立てているのは、80年代という時代性そのものだ。映画には全世界の誰とでも繋がれるスマホやSNSも、いつでもどこでも音楽を聴けるサブスクサービスやiPodも登場しない。「この町ってほんとクソだよね!」と嘆いても、それを呟けるタイムラインも、愚痴を聞いてくれる相手と繋がる手段もありやしない。

 溜まりに溜まった鬱屈は、若者を非行へと走らせてしまう。子どもは大人から制限されたことをやりたがるもので、牧師の過剰な禁欲はかえって若者たちに望ましくない行動を促しているのだ。その皮肉に、当の本人は気づいていない。

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 さて、レンはレンで、ダンスパーティー成立に向けて活動を始める。ひょんなことから知り合ったウィラードにダンスのイロハを教える傍ら、会場を押さえたり、周囲の同級生をパーティに誘ったりと大忙しだ。

 ところが、そんな彼に町の大人たちは否定的で、ついにはレンの家に石が投げ込まれ、ガラスを割られるなどの嫌がらせにまで発展する。同時期、仕事をクビになったレンの母親は愛する息子にダンスパーティにこだわる真意を聞き出そうとするが、そこにはレンだけが抱える譲れない想いがあり……と、ここからはぜひご自身の目で確かめていただきたい。
 そう、今回『フットルース』を選んだのは、ここからの展開が素晴らしいからだ。

 主人公たち学生サイドの敵として立ちふさがっていた牧師だが、彼には彼なりの想いがあって、子どもたちに過剰な縛りを課しているのだ。過去に起きてしまった痛ましい事件。それは一人の人間としての彼を酷く傷つけ、同時に牧師という町の代表としての立場が彼を追い詰め、独裁的な支配に至らせてしまった。子どもたちを守りたい、その一心で闘ってきた牧師はしかし、守るべき子どもたちを信じる、ということをいつの間にか忘れてしまっていたのだ。

 一方の子どもたち、とくに主人公のレンの誠実な人物像こそが、本作への印象をより良いものに昇華させている。大人たちの制止を振り切り、パーティを強行して開催することも出来たはずだし、腕っぷしなら若い彼らが勝つだろう。

 でも、レンはそうしなかった。

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 野暮ったかったウィラードが華麗にステップを踏み、意中の彼女をリードする。女子はドレスを翻して舞い、いつもは冴えないカレも驚きのパフォーマンスを披露する。生きる喜びを全身で表現し、今この瞬間を全力で楽しむ若者たちの姿は、観ているこちらも多幸感で満たされる。BGMはもちろん、「Footloose」。“さあ ジャック 踊りつぶれよう 悩みを忘れて 思いきり踊ろう”、だ。

 映画『フットルース』は、大げさに言ってしまえば歌と踊りで自由を勝ち取る、「革命」の映画なのである。血を流させることなく、ひたむきな意思と誠実さで大人たちの信頼を手に入れ、閉鎖的な町の空気は少しずつ和らいで、一生忘れられないような夜が彼らの人生に光を灯す。

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 そんなクライマックスシーンは、この日に向けてダンスを必死に習得してきたであろう高校生たちにとっての総決算であり、その頑張りが結実するからこその感動がある。

 プロムが怖い、モテないことを自覚するのが嫌だと部屋の隅でメソメソ泣いている俺のような傷ついた成人男性も、この映画を観れば心が前向きになれる。時代に囚われず、観る者に普遍的な感動を与えてくれるものを「名作」と呼ぶのなら、俺はこの一本をお薦めしたい。

2024年4月現在、映画『フットルース』はU-NEXTで見放題配信中。
Netflixにあるのは2011年のリメイク版なので、お間違えのないようご注意いただきたい。

U-NEXT:https://video-share.unext.jp/video/title/SID0026255?utm_source=twitter&utm_medium=social&utm_campaign=nonad-sns&rid=PM029491169

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