近年のヒットソングはタイアップ曲ばかりだ
昨年はどこに行ってもサカナクションの怪獣が耳に入り、家族よりも山口一郎の声の方が身近に感じられた。
先日発表されたBillboard JAPAN 2026年上半期チャートでは米津玄師のIRIS OUTが首位を獲得し、未だにどこに行ってもザラメが溶けてゲロになりそうだ。
そう、タイアップ曲は強い!!!!
国内のヒットチャートはもちろんのこと、Billboard Global 200(世界各国を含むグローバルチャート)にランクインした近年の邦楽を見てみると、YOASOBIの「アイドル」やCreepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」などアニメのタイアップ曲が多い。
ドラマなどを始めとするテレビ番組の主題歌や、コマーシャルのバックに流れる音楽はたいていレコード会社(もしくはCM音楽制作会社)とテレビ局(もしくはスポンサー)などの企業同士の提携によって決定されている。これをタイアップと呼ぶ。最近はドラマやそのCMの雰囲気に合わせて曲を作るという手法が定着しつつあり、タイアップ曲のほとんどはヒットするという図式ができあがっている。
ヤマハミュージックメディア 音楽用語ダスより引用
このようなタイアップからヒット曲が生まれる図式は近年顕著になっているものの、例えば1983年放送開始したアニメ『キャッツ・アイ』のOP楽曲『CAT’S EYE』では、当時一線で活躍していたポップス歌手である杏里を起用し、オリコン週間1位、月間1位、年間でも6位という記録を残している。
こうした作品のために書き下ろされた楽曲以外でも、2000年代あたりは当時流行りのアーティストを起用する流れが多かった(NARUTOやBLEACH等)。
そして、タイアップ曲は単純に楽曲のクオリティのみならず、作品との親和性や作品への理解という観点が評価の基準に関わるケースがSNS等で散見される。
要は、作品の雰囲気に合っているかどうかという点が作品そのもののファンを中心に検討され、時には賞賛され、時には非難の対象にもなり得る。
トリコのEDに家入レオを起用したのはマジで意味がわからない。
前置きが長くなったが、本稿ではタイアップ曲について「作品との親和性・作品への理解」という観点に重点を置き、楽曲の面白い点について考えていこうと思う。
また、取り扱うトピックの性質上ある程度専門的な音楽っぽい内容に触れるので、少しウッ…!となる箇所もあるかもしれないが、我慢して最後まで読むことによって簡単な音楽理論を身につけ、飲み会などで音楽に詳しいっぽい人の雰囲気を醸せるようになるだろう。コーナーで差をつけろ…!
ジョジョ4部OP『chase』のココがすごい
『chase』Batta(2018)
テレビアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』Part4 ダイヤモンドは砕けない第2クールOP
『ジョジョの奇妙な冒険』…1986年に原作漫画の連載が始まり、90年代〜0年代にかけてOVA化(3部)や映画化(1部)されたものの、TVアニメにはなっておらずどちらかといえばコアな作品だった。


しかしながら、2012年にTVアニメが始まり、今や第7部スティールボールランまで映像化され、国内のみならず海外でも大人気の作品となった。
そんなジョジョ4部アニメ第2クールのOPがBattaの『chase』だ。


第1クールOPの『Crazy Noisy Bizarre Town』は洒落た雰囲気のダンスナンバーだったが、本楽曲は打って変わってエモーショナルなギターロック楽曲となっている。
ジョジョの第4シリーズに当たる「ダイヤモンドは砕けない」はそれまでのシリーズとは毛色が異なり、一つの街を舞台に身近に潜む恐怖をテーマとしている。
学校の同級生や街の住人にスタンド能力者が潜んでおり、第1クールではほぼ愉快犯として悪事を重ねる音石明との対決が描かれるが、それ以降は明確な悪意を持って街に潜伏する殺人鬼「吉良吉影」の正体を追い求める展開となる。
その展開に合わせOPが『chase』に変わるのだが、本楽曲は書き下ろし楽曲のため歌詞については前述の通り、吉良吉影を追いかける内容となっている。
歌詞について特筆すべき点はないが、注目していただきたいのが曲の構成である。
冒頭の印象的なリフを筆頭に、90年代〜0年代前半辺りのバンドサウンドを彷彿とさせる疾走感溢れる楽曲であり、恐らくジョジョ4部連載当時(1992~1995年)の邦ロックの空気感に寄せたタイアップなのではないかと思う、
実際、battaは2016年のインタビューにて、THEE MICHELLE GUN ELEPHANT(ミッシェル・ガン・エレファント)に影響を受けてバンドを始めたと答えており、『chase』についてもその影響が見てとれる。
楽曲の大雑把な印象としては、そうした90年代によく見られたシンプルで王道なロックンロールやパンクの構造をベースにしている楽曲という印象を受ける。
しかしながら、曲全体を通して疾走感やパンキッシュな勢いだけではない不穏な空気感が所々で感じられる。
battaの公式Youtubeチャンネルに、battaのボーカル、ホシノタツ氏本人による弾き語り+コード進行を載せている動画がアップされているので、この動画を参考に本楽曲が持つ不穏な空気感をもたらす要因について、コード進行を基に考えてみる。
まず目につくのは、Bメロ(プリコーラス)


タイトルにもなっている「chase」が叫ばれ、仗助や億泰が殺人鬼の正体を突き止めようと追い求める姿を表現しているようなサビ、その直前の部分にCdimつまりディミニッシュコードが使用されている。
細かい音楽理論は別なちゃんとした音楽記事に任せるとして、ざっくりと説明するとこのディミニッシュコードというものは不協和音を含んでおり、妖しく緊張感のある響きをもたらす。
このBメロ→サビの流れは、正体不明の殺人鬼が街で繰り返す凶行、そしてその正体の片鱗を見せるような緊張感が表現されているように感じた。


更に、ホシノタツ氏はE7(onF)?という形で表記しているこのコードをAメロやサビで多用している。
E7onFの構成音はE7(ミ・ソ♯・シ・レ)にルートのF(ファ)が追加される形なので、ファとシが非常に不安定で不協和音的な響きを持つ、全音3つ分離れたトライトーンという関係性に当たり、この「トライトーン」は、中世の教会音楽では、その不安定で耳障りな響きが「音楽の悪魔(Diabolus in Musica)」と呼ばれ、使用が禁忌とされていたという歴史もある(先述のディミニッシュコードもこのトライトーンを含む)。
つまり、この「chase」という楽曲は意図的に不協和音を多用した構成となっていると考えられる。


と歌詞にもあるように、ジョジョ4部は日常に潜む恐怖がテーマの作品であり、片桐安十郎から始まり、虹村形兆、音石明…と街の中で様々な恐怖・脅威に遭遇する。そして、作中最後の敵となる吉良吉影はスタンド能力を得る以前から「おじょうちゃんの手ってスベスベしててカワイイね クックックッーーーン」と凶行を行っていた。正に「日常に紛れ込んだ悪魔」なのである。


パンティーが落ちていてもそれが爆弾の可能性も有る。これも日常に潜む恐怖の一つだろう。
そんな作品のテーマを音楽の悪魔「トライトーン」を用いて表現していると考えられる「chase」は「作品との親和性・作品への理解」という点で個人的にとてもポイントの高いタイアップ曲だ。
4部アニメ視聴済みの方はぜひ今回ピックアップした曲の構成も意識して、改めて本楽曲を聴いてみてはいかがだろうか?






