『祓除』テレ東60周年記念番組としての意味

どうもお久しぶりです。えのきです。

先日個人的にめちゃくちゃ楽しみな配信がありました。

『祓除』

《「祓除(ふつじょ)」は穢れや禍などを除くことを意味し、これまでに人々のあいだで穢れや禍とみなされてきた映像や物品を無害化するための式典。2023年11月18日にテレビ東京が開催。》

2023年11月18日にテレビ東京が開催する“祓除”
それを開催するに至った理由を説明します。

『祓除』は必要です。


※ネタバレありです。

『祓除』

テレ東60周年記念番組ということで事前番組、当日現地・配信という告知のされた『祓除』
これが近年のホラーのフェイクドキュメンタリーを追っている人間としては「あ、アベンジャーズ……」と言いたくなる最高(最低)の製作陣。
『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』『このテープもってないですか?』大森時生P、『かわいそ笑』梨氏、『フェイクドキュメンタリー Q』寺内康太郎氏『近畿地方のある場所について』背筋氏と豪華な製作陣。

「これ絶対呪われるやつじゃん!」

企画を見た時に私は思いました。

そう、この人たちの制作している作品群、それぞれに特色がありそれぞれたまらないところがあるんですが共通する要素としてはいわゆる「おつかれさま」系を得意としているところ。※1

読者、視聴者として『外側』から見ていると思っているといつの間にか「いや他人事なんかで終わらせないからな」と一気にこっちを怪異の渦めく世界に引き摺り込む、というよりもそもそも怪異がある世界であったことに気付かされる感覚。このメタ的なやり方は好き嫌いがわかれる作風であると思いますが私は大好物。

事前番組からそれぞれの持ち味を感じる導入で「これは梨さんっぽい!」「これは禁忌地方で感じたやつ!」「フェイクドキュメンタリー Qの味!」と開幕からフルコースを味わっているかのごとく。ホラー要素をフォアグラのごとくぶち込まれる。

繰り返される “「祓除」は必要です。”という言葉。
どんどんと期待が膨らむ事前番組でした。

事前番組、そして事後番組はyoutubeでも見れるのでもし「まだ見ていない!」という方はぜひ。びっくり要素ではなく、ただただ「なんかわからないけど見てはいけないものを見ているかもしれない」という感覚でソワソワしてしまう居心地の悪さは見ていて痺れます。

ただ、同時に思うことがあったんです。
「もしかするとこの好きなフェイクドキュメンタリー系ホラーの流れ、これがピークになってしまうのかな……」という懸念。

事前の期待として「これ絶対呪われるやつじゃん!」と思っている自分、それを期待しているというのはある意味で種を知っているマジックを期待しているようなわけなんですよね。「こういうことをやってくれるからそのやり方を味わいたい」という心理というか。

そうして迎えた『祓除』
もちろん期待通り、いや期待以上でした。現地プラス生配信というのもあって、「一体何を見せられるんだろう?」という不安と期待。実際に始まってからも一向に消える気配のない不穏さ。
唐突にも感じる終わり。確かに怖い展開はあった、でもそれ以上に「なんだったの……?」という嫌な感じがべっとりと残る。
大森プロの「このテープ持ってますか?」「滑稽」なんかは不穏さが確かに結実する場面というか「怖っ!」とリアクションを取れる『オチ』のようなものがあったんですよね。でも、この配信には明確な『オチ』がない。あと一歩でオチに辿り着かないというか『こ、怖t……怖い?いや、ここは確かに怖いんだけど、その、こう、ワーっ!ってなりきれないというか……」という感じ。そのベッタリと張り付くような『嫌さ』はそれはそれで好みだったので「なるほどこうきたのか!」となりつつも、Xなどでは不穏な流れもいくつかあったようで、回収されない『伏線』のようなものを感じながらもそれが回収されないままピリオドが打たれてしまったような感覚があったんですよね。

『がんばれ奥様ッソ』もある意味では消化不良感を楽しむものではあったんですけど、その後のニュース番組を見ることで視聴者の脳内では答え合わせが出来る形だったのでそもそも答え合わせが出来ない『祓除』は異質というか。
そんな違和感を抱えたまま『事後番組』の告知が出ます。

事後番組

さて『事後番組』ある意味では『答え合わせ』という内容であると同時に、従来の形式とは少し違ったことをやってきたな、というのが感想でした。
『祓除』本配信の終盤から終わってからの舞台裏が中心となって映し出されます。
『フェイクドキュメンタリー』であり、あくまでもホラーのエンタメとして人に見えるという打ち合わせをする制作陣。個人的な面白ポイントとしては梨さんや背筋さんがモザイク付きとはいえ姿を出していたこと(本当に本人なんですかね・・・)

そこで語られることとは

・フェイクドキュメンタリーのホラーとして企画されていたものが『祓除』
・いとうよしぴよにはオリジナルの詠唱を依頼していた
・よしぴよは自分の個人的な趣味で購入していた映像の詠唱を利用した
・それは人々に幽霊を見えるようにさせる儀式だった

といった内容でした。
お祓いのようでありながら、実態としては見えてはいけない存在にチャンネルを合わせてしまう、ある意味では呪いのようなものだった。『おつかれさま』系であったというオチですね。
ただ、この内容がテレ東60周年記念番組であるということ、『フェイクドキュメンタリー』という体裁でホラーを送り出してきた製作陣の作品であるということを念頭において考えるとテーマのようなものが浮かび上がってきます。
メディアのリテラシーといえるものです。

何が真実かわからない世界

今回の『祓除』、メタ的に言ってしまえば『事後番組』も含めたフィクションのホラーであるとはいえるでしょう。
でも、もし本当だったら?
私は本配信を見る前にこう考えていました。「絶対呪われるやつじゃん!」と。
ある意味で悪意が作品に込められることは前提として、それを完全に虚構として線引きをして楽しもうとしていました。
それは『事後番組』での製作陣のスタンスと限りなく重なります。

「あくまでもフィクションでこれは現実には害のないものだから」

でも、それは本当にそうなのでしょうか?
『祓除』ではよしぴよのソースを確認しなかったためにある種の呪いが拡散してしまいました。
これからもフェイクドキュメンタリー形式のホラーはいくらでも出来るでしょう。ホラーファンはそれを喜んで見て、読むでしょう。
でも、その中に『本当に害』となる情報が含まれていたら?

今回の『祓除』、ソースが曖昧なままで何かを発信する、受信するということに対しての警鐘としての作品だったのではないかと思うのです。
SNSや生成AIが発展、普及している今、あらゆる情報の価値が揺らいでいる時代です。
最近でもディープフェイクの動画が大きな問題に発展していることもあります。

災害写真なんかも一昔前のコラ画像とは比較にならないほどの精度となっており、裏どりをしっかりしなくては何が地に足ついた情報なのか判断が出来ない時代となっています。
テレビ東京が60周年という節目で出す作品として、これ以上ないテーマと『怖さ』の込められた作品と言えるのではないでしょうか。

いや、まぁそれでもおそらくこの製作陣が作った新作は見たり読んだりしてしまうのでしょうけどね……。

『祓除』配信期間も残りわずかですが17日まで閲覧可能。
せっかくなのでこれを機会にまだの方は見てみて、見たという方も見直してみるのはいかがでしょう?

それではまた!

※1 5ちゃんねる(2ちゃんねる)のホラーコピペ。呪いの画像とされるものを見てしまったスレの人々に解呪と称して呪いの儀式をさせてしまうという内容。呪いをかけたと思われる人物の最後の言葉が「おつかれさまでした。(お憑かれでした)」というものだったことから。

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