映画『世界のはしっこ、ちいさな教室』レビュー!子どもの未来を諦めない教師たち。その活躍を温かく捉えた良作!

ヤマダマイ

どうも、未だに勉強・労働がイヤイヤ期のライター、ヤマダです。昨今は大人でも「リスキリング」といって、業務に必要な知識をはじめとする、学び直しの重要性が訴えられている時代。そんな話を聞く度にうっ…と身構えてしまいます。

「学び」についての意識が高まっているのは日本だけではありません。7月21日(金)公開のドキュメンタリー映画『世界のはしっこ、ちいさな教室』では、なぜ子どもにとって学びが大切なのかを3つの国の教師から捉えた作品です。

映画『世界のはしっこ、ちいさな教室』概要

世界には「学費がない」「学校や先生がいない」などの理由から、学ぶことのできない子どもが1億2,100万人いると言われています。

今作は上記のような理由から、学びの機会が少ない3つの国を舞台に、世界の果てで活躍する3人の教師を捉えたドキュメンタリーです。

2人の子どもの母である新米教師・サンドリーヌは、国をあげて識字率アップを目指すブルキナファソ・ティオガガラ村へ単身赴任。学びを通して、子どもや女性の権利を守るために闘うタスリマはバングラデシュ北部のボートスクールで教師を勤めます。あたり一面雪に囲まれたシベリアに暮らすスヴェトラーナは教師であり、現役の遊牧民です。

© Winds – France 2 Cinéma – Daisy G. Nichols Productions LLC – Chapka – Vendôme Production

それぞれの国では環境や社会的な問題によって、教育に注力できていないのが現状です。3人の教師たちも子どもに学びの機会を与えると同時に、過酷な労働環境や価値観の衝突に苦悩している姿も見られました。

しかし教師たちは苦労を乗り越えて、学びが子どもたちの未来に自由を与えてくれると信じて働きます!

「せんせい、ここで待ってるよ」の意味

「家庭教師かな?」と思ってしまう本作のキャッチコピーですが、実は作品の内容をうまくまとめた内容となっております。今作の舞台となる3つの国では先生(あるいは学校そのもの)が、生徒たちの元にはるばるやってくるのです。

© Winds – France 2 Cinéma – Daisy G. Nichols Productions LLC – Chapka – Vendôme Production

ロシア東部シベリア(ロシア連邦アムール州)で先生を勤めるスヴェトラーナは、遊牧生活を送る家族の元を訪れ、10日間ほど滞在して働く「移動式の遊牧民学校」を行っています。

その移動手段はトナカイぞり。校舎はないので、テントや机、ホワイトボードなどすべて持参して向かいます。

© Winds – France 2 Cinéma – Daisy G. Nichols Productions LLC – Chapka – Vendôme Production

西アフリカにあるブルキナファソでは、新米教師・サンドリーヌが家族を残して、自宅からなんと600kmも離れたティオガガラ村まで単身赴任することに。東京からだと、だいたい秋田県か和歌山県くらいの距離感です。

© Winds – France 2 Cinéma – Daisy G. Nichols Productions LLC – Chapka – Vendôme Production

バングラディシュスナムガンジ地方に暮らすタスリマは、勤務地もスナムガンジ地方です。

さすがに彼女は学校で生徒を待つ教師だろう…と思ったら、なんと学校=教室は船の上。タスリマは教室ごとそれぞれの生徒を迎えにいく、想像の斜め上のスタイルでした。

怠惰な筆者は「めっちゃ楽じゃん…いいなあ~」と思いましたが、スナムガンジはモンスーンの影響で1年のうち半分が水没する地域。物理的に登下校が困難な生徒が多いため、船の教室で生徒たちをお迎えに行くのです。

3人の教師に共通しているのは「学びが必要な子どもたちがいるのに、その場所がない…。だったら自分たちが行くしかない!」という強い意志。「せんせい、ここでまってるよ」というキャッチコピーには、本作の本質が詰まっているのです。だれだ家庭教師とか言ったやつ。

だがしかし、労働環境がハードモードすぎて震える…

© Winds – France 2 Cinéma – Daisy G. Nichols Productions LLC – Chapka – Vendôme Production

それぞれ学ぶ環境がない場所へ教えに行く3人の教師ですが、その労働環境はお世辞にも良いとは言えません。校舎ナシ、同期ナシ、下手すればインフラもありません…。

ロシアのシベリア東部で働くスヴェトラーナは教室をテントで設営するので、その準備が大変。備品はすべて持参なので、毎回大量の荷物をトナカイぞりで運ぶという大移動を繰り広げています。

ブルキナファソでは辺境の地ゆえに、電気も水もなし。炊事・洗濯は近くの川まで行かないといけません。周りに誰もいないとはいえ、先生が運動場の片隅で体を洗うシーンも…。自分が新卒で赴任した地域がこんな感じだったらと思うと、震えが止まりません。

こんな感じで、並の人間が就いたら秒で気絶しそうなハードな環境が揃っております。具体的に言うなら、転職・求人dodaの「転職理由ランキング」にある転職理由のほとんどが彼女たちの労働環境に該当するという過酷さです。

退職理由の「尊敬する人がいない(4位)」や「人間関係が悪い/うまくいかない(7位)」に関しては同期や先輩が見当たらないし、「肉体的または、精神的につらい(9位)」でも、シベリアでの移動式教室をみると「通勤が辛い」とか、口が裂けても言えません…。

「業界・会社の先行きが不安(5位)」に至っては、ティオガガラ村の学校にインフラがないので、お先どころか物理的に真っ暗です。さすがにこれではいかんと思ったは新米教師・サンドリーヌはソーラーパネルを導入しました(11,000円を自腹で)

とはいえ、1位の「給与が低い・昇給が見込めない」に関しては、タスリマが教師として自立し、家族に金銭的援助もできているので、その点はかなり良いと思われます。もちろん、彼女たちにとって教師はお金のためだけの仕事ではありません!

子どもの自由のために闘う先生たち!

© Winds – France 2 Cinéma – Daisy G. Nichols Productions LLC – Chapka – Vendôme Production

そもそも彼女たちは給与以上に、子どもたちの将来に貢献できるというやりがいを持っています。正直、しっかり夏のボーナスを受け取り、ガッツリ10日以上の有休消化をして退職した経験を持つ筆者は消えてなくなりたいほどでした。立派だなあ…。

なかでも個人的に印象的だったのが、教育を通してバングラディシュで常態化している「児童婚」に立ち向かうタスリマです。

スナムガンジ地方では、女性の結婚は18歳からとなっており、児童婚の場合は懲役2年と罰金を支払わなければなりません。しかし15歳未満の女子の約16%、そして18歳未満の51%が児童婚をしているのが実態です。

そこには、結婚が成立することで、児童(妻)の家族に金銭や宝石などの品が送られ、それを生計の足しにしている背景がありました。

© Winds – France 2 Cinéma – Daisy G. Nichols Productions LLC – Chapka – Vendôme Production

作中では男が結婚する児童を見定める、顔合わせの場面も捉えています。それはお見合いというより品定めをしているような雰囲気さえ感じられました。結婚が成立すると、親はお祝いの言葉よりも先に「金はいつ、いくらもらえるのか」と尋ねていました。

児童婚によって不幸な思いをする女子を増やさないためにも、タスリマは男女問わず学びの機会があるべきだと訴え、学びが自立の助けになると信じています。たとえ生徒の親から「学校より嫁に行くべき!」と真っ向から否定されても、タスリマは決してくじけません。

どの先生も生徒たちの見本となって働き、信念のためなら真っ向から問題とぶつかり合う…。テレビやドラマでしか見ないような熱血教師は、世界の果てに実在しているのです!

まとめ

学びのインフラが整っていなくても、世界の果てで繋がる生徒と教師。この映画を観ると、改めて仕事の価値観や働く意味について考えさせられます。

本作では生徒・先生の成長も捉えており、お互いがどんなふうに変化したのか注目してみると、より感動的な作品になると感じました。

「最近仕事がうまくいかない」「自分の仕事に自信が持てない…」という人の支えにもなるかもしれません!

映画『世界のはしっこ、ちいさな教室』作品情報

© Winds – France 2 Cinéma – Daisy G. Nichols Productions LLC – Chapka – Vendôme Production

公開日:7/21(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開
公式サイト:https://hashikko-movie.com/

監督:エミリー・テロン
製作:バーセルミー・フォージェア『世界の果ての通学路』
ナレーション:カリン・ヴィアール『エール!』
出演:サンドリーヌ・ゾンゴ、スヴェトラーナ・ヴァシレヴァ、タスリマ・アクテル

フランス映画|フランス語・ロシア語・ベンガル語|2021年|83分|5.1ch|ビスタ|
字幕翻訳:星加久実|原題:Être prof|英題:Teach me If you can
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ
提供:ニューセレクト 配給:アルバトロス・フィルム

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