2025年3月27日のニンテンドーダイレクトで発表された『伊達鍵は眠らない – From AI:ソムニウムファイル』は、2019年発売の『AI:ソムニウム ファイル』から始まるシリーズのスピンオフタイトル。かねてよりシリーズファンであった筆者は、発表を受け歓喜の声を上げたけれども、本シリーズには過激な描写が含まれるため、誰彼構わずオススメするのも気が引ける、というのもまた事実。
そこで今回は、7月発売の最新作に向けて過去2作を振り返り、シリーズの特徴的なギミックやどういった表現が含まれるかをご紹介しつつ、ネタバレにならないよう配慮しながら、その魅力をお伝えしたい。
※注意
これからご紹介するゲームは、CEROレーティングZ(18才以上のみ対象)あるいはC(15才以上対象)を受けた作品であり、以下の文章にも過激な表現が含まれる場合がございます。注意して読み進めていただくことをお願い申し上げます。
見つかったのは、眼〈eye〉のない死体
シリーズ一作目となる『AI:ソムニウム ファイル』は2019年9月19日発売。対応ハードはNintendo Switch/PS4/Xbox One/Xbox Series X|S/Steamと幅広いものの、Z指定に区分されたゲームのため遊べるのは18歳以上の方のみであることをご注意いただきたい。
舞台は、AIやナノマシン技術が発達した近未来。雨の降る金曜日の夜、廃墟と化した遊園地のメリーゴーランドで、左目のない女性の死体が発見された。現場を訪れた警察官の伊達 鍵(だて かなめ)は、生前の被害者女性と面識があり、かつその現場で隠れていた被害者の娘・みずきを発見する。奇怪な事件の手がかりを求めて、伊達は対象者の夢の世界に入り込む新技術によりみずきの意識の中へ侵入するのだが、新たな死体が発見されたことで事態はより混迷を極めていく。


『AI:ソムニウム ファイル』シリーズの見どころといえば、他者の夢の中に入り込むという捜査スタイル。作中世界では「Psync(シンク)」と呼ばれる装置により対象者の夢の中に侵入し、主人公であり刑事の伊達に支給されたサポートAI=アイボゥが擬人化した姿がその中を動き回ることで、重要参考人の無意識の中にある記憶や感情などを探ることが可能となっている。夢の中に侵入する、といえば映画ファンであれば『インセプション』が馴染み深いだろうし、夢の中だけでなく現実世界でも伊達を手助けするアイボゥの機能は、『攻殻機動隊』シリーズにおける電脳のそれを思い出していただけるとイメージしやすい。
物語は、現実世界においては伊達が重要参考人への聞き取りや現場での物証を探すことで進展し、夢世界ではアイボゥが対象者の無意識を探り情報を得ることで解決に導いていく。前者はカーソルを動かして画面内のオブジェクトを調べたり、他者との会話の受け答えを選択したりするもので、しらみ潰しに身の回りのものをクリックしていけばよい。一方の夢世界は、3Dで表現されたマップを移動しながら夢世界を探索する、本作最大の特徴の「ソムニウムパート」が展開される。
ソムニウムパートでは、夢世界の中に存在するアイテムやオブジェクトに触れ、アイボゥのリアクションをプレイヤーが選択して、ギミックを解き明かしていく。夢への潜入は6分間(360秒)が限度なのだが、選択肢によるアクションを実行すると制限時間が減少していくので、注意が必要。トライ&エラーを繰り返しながら、登場人物たちのクセが強すぎる頭の中を攻略していこう。


殺人事件を扱う都合上、語り口はシリアスにならざるを得ないのだけれど、実際の手触りはライトなもので、それを支えるのは伊達とアイボゥの会話劇。伊達は見た目も普段の口調もクールなのだが、その中身はノリのいい兄ちゃん気質であり、エロ本好きで美女には鼻の下を伸ばしてしまう、『シティハンター』の冴羽獠のような一面も。


そんな伊達を厳しく支えるアイボゥ、と思いきや、ソムニウムパートでは彼女もボケ担当となり、口を開けば奇想天外なリアクションやパロディネタが満載。凄惨な事件を扱っていても、どこか重苦しくなりすぎないのは、この二人の親友のような気のおけないやり取りがあってのもの。ハズレだとわかっていてもネタ方向の選択肢を選びたくなってしまうのは、シリーズの醍醐味と言える。


一方、メインとなる事件は左目を抜き取られた死体が連続するという凄惨なもので、その場面の直接的な描写はないにせよ、眼窩から血を流した死体はやはりショッキング。その他にも、TVニュースで見かけるCGの再現映像のようなテイストで事件事故の様子を何度も観ることになるため、痛みに敏感な方やゴア表現を文字で追うのも辛いという人には、本作はオススメできない。以前、冗談として本作を「イーライ・ロスの撮ったインセプション」と仲間内で紹介したことがあるけれど、猟奇的な表現が多く含まれることはこの場でも再三注意させていただきたい。
そうした残酷さを乗り越えた先に待っているのは、衝撃的な真実。SFとギャグとバディの熱い絆を兼ね備えたストーリーは、名作アドベンチャーゲーム『街 〜運命の交差点〜』『428 〜封鎖された渋谷で〜』のようなザッピング要素を織り交ぜることで、バラバラに見えていたそれぞれの登場人物の物語が徐々に一本の線で結ばれてゆく。最後に辿り着く、「AI」の二文字に託された意味合いがどんどん膨れ上がっていくドラマは、一級の見応えアリ。
“こちら”を睨む眼〈eye〉の正体
シリーズ2作目となる『AI:ソムニウムファイル ニルヴァーナ イニシアチブ』は2022年発売。対応ハードは前作同様Nintendo Switch/PS4/Xbox One/Xbox Series X|S/Steamとなっており、今作はCERO判定がC(15才以上対象)のため未成年でもプレイ可能となっている。
今回挑むのも、これまた奇っ怪な事件。生配信中のweb番組のスタジオに突如出現した、人間の右半身。中心から真っ二つに切断された死体のもう片方は、どれだけ捜索しても見つからなかった。それから6年後、行方不明だった左半身が発見され、腐食もしていないそれはまるで先ほどまで生きていたかのよう。時間を超えて出現した左右の身体、【ハーフボディ連続殺人事件】と呼ばれる事件に、二人の捜査官が挑む。
本作では、新たに捜査官の龍木と相棒のタマを迎え、さらに前作に登場したみずきが成長しアイボゥとバディを組んだことで、6年の時間を隔ててのダブル主人公スタイルで展開されてゆく。基本のゲームパートは前作から踏襲され、難易度設定がより細かくなったため遊びやすくなり、各主人公とAIのバディのやり取りも健在。新たに登場するタマはその名前に似つかわしくセクシーなお姉さんの容姿をしているが、ノリの良さは相変わらずで、製作者の趣味が滲み出ている。


「遊び」の部分に関しては前作譲りなので省略するが、本作の特筆すべき点は、その猟奇性の変化にある。前作では眼球を奪われた肉体の表現が背筋を凍らせたわけだが、今作では半身のみの死体という別ジャンルのショッキング描写があり、なおかつ前作以上にサイコホラーの要素が強まった分、人によってはこちらの方が辛いかもしれない。とある事情により精神的に不安定な龍木や、思想団体「ナイカトロッズ」による不可解極まりない言動はこちらの不安を煽り、その最たるものは以下のようなサイケデリックな動画がいくつも含まれること。精神面への負荷がより強まったという意味で、無責任に全人類遊んで!とは口が裂けても言うわけにはいかない。
しかしそれでもなお強烈な求心力を持つ本作の魅力とは、ビデオゲームとそれを遊ぶプレイヤーの関係性に攻撃を加える、その姿勢にあると考える。例えば映画やアニメといった映像媒体は、一方的にこちらが観る側だが、時折こちらが「観られている」という感覚に襲われることがある。近年であれば『デッドプール』シリーズや『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』がその要素を孕んでいるけれど、いわゆる第四の壁を破られた際のショックは、その対象にのめり込んでいるほどに強くなっていく。
少しだけ本作のタネを明かすようなことを言ってしまったが、それでもなお終盤の衝撃は目減りしないことをここでお伝えしておきたい。前作でもビデオゲームでしか語れない物語を展開した本作だが、その深化は本作でついに極まったという印象で、実況プレイ動画では決して得られない衝撃を、ぜひご自身の身体と心で受け取ってほしい。
かくして、猟奇的だったり狂気的だったりな要素を孕みつつ、その人の個性やトラウマが反映された無意識世界を侵入する背徳感、人間とAIの笑いに満ちた友情、ビデオゲームならではのギミックで語られる謎めいた物語と、国内外問わず根強いファンを持つ本作。シリーズ2作ともダウンロード版がセール対象になる機会も多く、驚くほどの安価で手に入ることもあるため、7月の最新作に向けて今のうちに触れておくと吉である。
待望の最新作『伊達鍵は眠らない – From AI:ソムニウムファイル』は2025年7月25日に発売。またしても寝食を忘れて熱中してしまいそうな予感を、この記事に辿り着いた皆様にも共有いただけたら何よりの喜びである。