『BAD CGI SHARKS / 電脳鮫』
どうもこんにちは、えのきです。
今回紹介するサメ映画はある意味で、過去最大の問題作かもしれません。
画面がチープ、展開が支離滅裂、もはや何がしたいのかわからない……そんなサメ映画は日々この世に生まれ、この国にもひたすら参入をし続ける「みんな一体何と戦っているんだ」とでも言うべき歪んだレッドオーシャン、それがサメ映画。
しかし、今回紹介する『BAD CGI SHARKS / 電脳鮫』は一味違います。
サメ映画でありながら、メタサメ映画。『サメ映画』とは何か、ということに切り込んだ批評的サメ映画であり、クリエイティビティがテーマ。
問題作でありながら意欲作なのです!
『クソCGのサメ』という設定でチープなCGのサメを怪物として出す逆転の発想。
ムービーナーズでこれまで紹介してきたサメ映画のサメを見てきた方々ならお分かりかもしれません。
サメ映画のサメ、CGヤバイがち!
企画がヤバイ、予算がヤバイ、スケジュールがヤバイ、その背景はさまざまと思われますが、サメ映画のCGは近年ヤバさが加速していくばかりです。
もっとも、私はもうすっかり目が慣れてしまいむしろリッチなサメ映画を見るとクソCGじゃないと「なんかリアルすぎて嫌だな」みたいな歪んだ気持ちになることもありがちですが……
そんな中で本作『BAD CGI SHARKS / 電脳鮫』では一味違います。
あらすじでもあるように本作は『映画を現実に変える力』を持つバーナードによってマシュー、ジェイソンの二人が作り途中だった『サメ上陸』を現実化することによって騒動が幕を開けます。
題材となった『サメ上陸』自体、幼いころの兄弟が考えたサメ映画、それ故に現実化するサメも予算の都合でクソCG!という発想の転換!


従来のサメ映画では「本当はマジでヤバくて怖いサメです」という体裁でチープなCGのサメが出てきていたのですが、本作では「クソCGな外見のサメがマジで人々を襲う」という設定から繰り出される異様な絵面。
ふよふよと街中を漂うサメ!ガブガブと明らかに画面と重なっているかのようなサメ!そんな珍妙な絵面のオンパレード!
ただなめられないのが「そういうガワの設定」としたことで、作中の人物の『マジ』に徐々に感情移入出来ていくということ。
絵面としてはくだらなくても実際に人が襲われたり、身近な人に危機が迫っていく。
その辺のハラハラ感は開き直って「こういう見かけのモンスターサメなんですよ」と開き直るが故の見どころが生まれています。
サメ映画への執拗なまでのメタ表現、そしてサメ映画への愛
本作で『あるある』として出てくるのは『クソCGのサメ』だけではありません。
作中ではしばしばバーナードがメタ発言をします。第四の壁を突破し、私たちへ語りかけます。
「こういうお約束がある」ということをしばしば出してくるのです。
ここは好き嫌いが分かれる、というか楽しめるかが分かれるポイントかもしれません。
ただ、ある程度サメ映画(クソサメ映画含む)を見てきた人にとっては「あるある」のオンパレード。その描写から伝わってくるのはサメ映画への深い愛です。
チープで、人がバンバン死んで、支離滅裂なサメ映画。
それを見ながら私たちは「あるわ〜w」と笑います。
そしてそんな事態について作中では何度も登場人物であるマシューは語ります。
「ふざけてる」
何度もそういうやりとりがあります。
おかしい、ありえない、くだらない。そういったやりとりは不思議と既視感があります。
サメ映画への世間の視線です。
チープで、くだらなくて、どうしようもないサメ映画。
実際私はそんなサメ映画が好きでこうして記事を書いていますが、中々それに向けられる目線というのは冷ややかだな、とは感じることは多々あります。
サメ映画の大半はチープです。
サメ映画の大半はくだらないです。
サメ映画の大半はどうしようもないです。
でも、不思議と私はそれを嫌いになれないし、むしろそれが大好きです。
主人公であるマシューはその騒動に最初は否定的です。幼いころはジェイソンと二人でサメ映画を作ろうと思っていたはずなのに、大人になった今は「くだらない」「ありえない」そういうスタンスでいます。
でも、徐々に真剣になっていく。騒動の中で「くだらない」「ありえない」と一蹴していたことに真剣になり、自分でも思ってもいなかったかつての情熱を拾い集めるような騒動になっていく。少しずつ、マシューとジェイソンという兄弟が徐々に関係を再構築していく。
マシューとは正反対に作中でジェイソンはずっとその騒動に喜びを隠しません。
マシュー「こんなの普通じゃないだろ?」
ジェイソン「そうさ!だから最高なんだ」
それは側から見ればおかしな話ですが、変なサメ映画も含めてサメ映画がいいな、と感じている私としてはわかってしまうところがあります。
チープで、支離滅裂で、血飛沫や露骨なサービスシーン、そんなサメ映画自体を好きになるという気持ちが存在している。
その変さ、それ自体が面白い。
もう『クソCGのサメ』が出るだけで「サメだ!」と嬉しくなる感情、それが存在している。
そういった世間の目と、その変さを愛する気持ち、その二つの概念がどのように物語の結末に繋がっていくかは是非見届けて欲しいところです。
メタな視点だけじゃない、夢をもう一度追うための物語
と、ここまで『メタサメ映画』としての『BAD CGI SHARKS / 電脳鮫』について書いてきましたが、物語の本筋としては非常にシンプルです。
兄弟が、もう一度夢を追うための物語です。
主人公であるマシューとジェイソンはかつて二人でサメ映画を作ろうとしていましたが、二人は親によって引き離されていました。
そしてマシューは社会人としてその情熱を失った日々を。ジェイソンは夢を見続けてはいましたが、実際には夢を叶えることを何もしていない日々を送っていました。
その二人が、再び出会った時に本作の事件は始まります。




かつてジェイソンとマシューが作ろうとしていた『サメ上陸』の脚本
そこで描かれるのは『もう一度物語へと向き合おうという』という再起の物語であり、『兄弟の和解』です。
夢を追うということはくだらないと言われがちなことです。大人になって日々実感しましたが、実際の『生活』はとても強い力があり、夢を見るにはあまりにも難しい。
序盤、マシューの昇進試験の際に断片的に語られる言葉は大人になってから聞くとあまりにも思うところのあるセリフばかりです。
マシューは親のいうことばかり聞いていた。
昇進試験を受けるのも上司に言われたから。
そして会社の面接でもうまくいかない。
しかし、過去はそうでなかったし、今でも映画会社に勤めてサメを描いている。
そんな主人公が夢追い人である変人の兄であるジェイソンと再会し、和解をするまでの物語。
それはもしかすると、夢と現実の葛藤を兄弟に委ねた物語なのかもしれません。
メタサメ映画、サメ映画への愛、そしてクリエイティビティについて。
それらが一つにまとまるラストの展開は、全ての人に刺さるものではないかもしれない。
でも、刺さる人には刺さる、一生残る。残り続ける。
そういう映画だと思います。
決して初心者向けではない。でも「もうサメ映画をだいぶ見たけど、いつものパターンはちょっとマンネリだな」という方には是非見ていただきたい一作。
サメ映画の幅広さ、奥深さ、未来について考えさせられる映画です。是非!
それではまたお会いしましょう!
※現在プライムビデオで配信中、見よう!
- サキュバスのメロメロ 20話/マー
- フィンランドで最も暴力的な映画『血戦 ブラッドライン』4月18日公開決定!
- ジョジョのンドゥールが語る『悪の救世主論』と映画『時計じかけのオレンジ』について
- 90年代の隠れた名作狼男ホラー再上陸!映画『バッドムーン 番犬vs狼男 』
- ぢごくもよう 第三十七話『貉か狸か』
- ぼくのなつやすみはハードコア!田舎で怪異に襲われた少年を救うのは、そう『クソデカ囃子』!
- 2025年2月公開の新作映画紹介&レビュー!社会派作品から”あの監督“がまさかのラブストーリーに挑戦!?
- 映画『映画を愛する君へ』アルノー・デプレシャン監督のメッセージ映像と著名人&劇場コメント到着
- 祓除に続く自己批判性『飯沼一家に謝罪します』
- 超バニアバトル バニバト! 13話
幼いころ、サメ映画を撮りたいという夢を共に見ていたマシューとジェイソン。
弟であるマシューは大人になるにつれて、兄であるジェイソンと距離を取るようになっていた。
大人になったマシューは映画会社で働いていたがよりにもよって昇進のための面接の直前で、母親からジェイソンと同居するように連絡を受けて、動揺のあまり昇進試験はズタボロ、仕事を首になってしまう。
マシューの家に転がり込んできたジェイソンは相変わらずの変人っぷり。
「サメ上陸を撮るんだよ!」
マシューの意向も完全無視でジェイソンがかつて二人で作ろうとして頓挫した映画、『サメ上陸』の脚本を差し出してくる。
そんな時だった。
バーナードと名乗る映画監督が突然現れカチンコを鳴らす。バーナードは『映画を現実に変える力』を持った映画監督だった!
街中に突如として現れる『サメ上陸』のサメ!サメは人を襲い出す!
サメを退治するには一体どうすればいいのか?
再開したばかりでぎこちない兄弟の絆はどうなるのか。そして書きかけの『サメ上陸』は!?
マシュー、ジェイソンの長い一夜の戦いが始まった……