今ではすっかり馴染みある言葉となった「リモートワーク」。
何かとメリットも多いこの働き方ですが、一般企業よりも先に、リモートワークの先駆けみたいなことをしている職業があります。
それは“軍事”。特に敵陣への攻撃・偵察はドローンで行うことから、戦場の舞台は操縦室や会議室に移りつつあります。
日本ではリモートワークを導入したことで、「働き方改革」なんて良い意味で取り上げられることが多いですが、こと戦争に関しては全くそんなことはありません。鬼長官から耳元でずっと「早く仕事しろ」なんて言われ続けた日にはPTSDまっしぐら。そんな、別の意味で過酷な戦争の舞台を真っ向から描いてしまったのが『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』(15)です。
本作の監督を務めるのは『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』(09)のギャビン・フッド。製作には『キングスマン』(14)のコリン・ファースが参加しています。
ちなみに、ロンドンの内閣府で大佐に指示を出すベンソン中将を演じるこの人。どこかで見た顔だと思った『ハリー・ポッター』シリーズでスネイプ先生役を演じた故アラン・リックマンです。本作でもスネイプ先生に負けず劣らずの渋さを醸し出しています…。
『アイ・イン・ザ・スカイ』はドローンを使った戦争によって、人間が新たな苦しみの境地に立たされたこと。そして真に敵に回してはいけないのは、政府でもテロリストでもなく、大佐を演じたヘレン・ミレンであるということを教えてくれます。
業務監視、数値改ざん、責任転嫁…真の地獄は”ここ”にある
『アイ・イン・ザ・スカイ』は戦争映画というよりは、会話劇に近い映画です。
戦争映画特有のハードなアクションは影を潜めるかわりに、会議室やドローンの中継映像を駆使して構成されています。ロケーションも「司令部」「ドローン操縦室」「会議室」の3つがメインなので、リモート撮影にも最適。ある意味で現代の”軍のお仕事”を垣間見るようなリアリティも感じられます。
その証拠に、この映画は“少女の命を犠牲にしてでも、テロリストのアジトにヘルファイアをブチ込むか否か”を90分近くに渡って議論しまくるのです。現実の作戦でも、同じシチュエーションになれば、判断にものすごく時間をかけるのかもしれません。
司令部では、とにかくテロリストを地獄に送りたい大佐から、業務をメチャクチャ煽られたり、政府に作戦実行を納得させるための資料を捏造してでも出すように強要されたりするなど、現場にいなくとも生きた心地がしない部下たちの表情も必見。
殺る気マンマンな大佐とは異なり、内閣府のお偉い様は自分のメンツも大事なので、「俺より上の人に判断を仰ごっ!」と、鮮やかな責任転嫁の連鎖が炸裂。大佐のストレスはどんどん溜まるし、その矛先はどこへ向かうのか…。考えるだけでもゾッとします。
ちなみに登場するドローンでは、『攻殻機動隊 SAC_2045』にも出てくるような昆虫型や鳥型のドローンも登場します。監督は制作に当たってドローンの見本市にて資料を集めたそうなので、『攻殻機動隊 SAC_2045』のようなドローンはすでに実用化されているかも…?
決して敵にしてはならない存在、ヘレン・ミレン
本作で唯一、冒頭からラストまで少女を巻き込んででもテロリストを抹殺したい鬼大佐を演じているヘレン・ミレン。本作を見ると、一番敵に回してはいけないのは彼女なのではないか?と思うほど、全く決断がブレません。
このヘレン・ミレンさん、2006年制作の『クイーン』ではエリザベス2世を演じてアカデミー賞主演女優賞を獲得した、まごうことなき名女優。
にも関わらず、三池崇史監督ばりに仕事を選ばない貪欲さも同時に持ち合わせています。
『RED/レッド』(10)ではアクションに挑戦し、顔色人使えずにサブマシンガンを使いここなしていました。『ワイルド・スピード ICE BREAK』(17)では、あのジェイソン・ステイサムのオカン、マグダレーン・ショウ役で出演。息子の神経に、注射器をお構いなく突き刺すパワー系ママを演じています。ママっていうか首領(ドン)ですね。
『アイ・イン・ザ・スカイ』と同時期に公開された『黄金のアデーレ 名画の帰還』(15)では実在の女性を演じていますが、ライアン・レイノルズ演じる弁護士のメガネを勝手に奪い、自分のツバを吐きかけレンズを掃除するという、眼鏡常用者をブチギレさせる演技をかましてくれました。(ここだけ抽出すると滅茶苦茶な映画みたいですが、本編は普通に感動の実話です!)
他にも『ウィンチェスターハウス アメリカで最も呪われた屋敷』(18)で初のホラー映画主演を務めるも、ホラー映画のヒロインらからぬタフさが露呈するなど、とにかく“強えー女性”なのです。
洋画で“最強キャラランキング”を作るなら、1位アベンジャーズ、2位ギャル、3位ヘレン・ミレンになると思っています(ギャルが2位のソースは『コンビニ・ウォーズ バイトJK VS ミニナチ軍団』や『スプリング・ブレイカーズ』をご確認下さい)。
『アイ・イン・ザ・スカイ』も、最初は「テロリスト許すまじ!」とか「どうか女の子助かって…」とか考えるんですけど、最後の方になると「ヘレン・ミレンまじ強え」という感情が押し寄せてきます。復讐映画とかでも、常に迷いがある主人公より、めっちゃイキイキしながら復讐しているヤツのほうが、見ていて気持ちいいじゃないですか。それに近いキャラクターを演じています。
どう転んでもバッド・エンドな”胸糞リモートドラマ”…。
本作の結末に関しては、少女がアジトのそばでパンを売り出した時点でバッド・エンドが確定しているので、当事者も観客にとっても地獄のような102分となっています。テロリストを殺せば少女も死ぬ。少女を助けても、自爆テロが防げず大勢が死ぬ…。
一応作戦がバレない程度に、少女を現場から逃がそうという動きも起きますが、「うまくいかないだろう」感がすごい。そのため観客は、この究極の2択のどちらかが来ることを、早い段階から覚悟しなくてはなりません。
しかも「結末はどっちかしかないんでしょ?」と思っていると、予想の若干斜め上な展開が待ち受けているので、ぶっちゃけ鑑賞後はかなりしんどい気持ちになります…。
視聴の際は、元気のある時がオススメです。それでは…!
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イギリス軍の諜報機関で働くキャサリン・パウエル大佐(ヘレン・ミレン)は、米軍と協力して長年追い続けているテロリストのアジトを突き止めた。とにかくテロリストを抹殺したい大佐は、米軍基地にいるドローン・パイロットのスティーヴ(アーロン・ポール)に攻撃命令を出す。ところがアジトのそばで、地元の少女がパンを売り始めてしまう。ミサイルをアジトに撃てば、テロリストはもちろん少女も即死…。おまけにテロリストは自爆テロの準備を進めている。一刻の猶予も許されない中、ロンドンの内閣府では少女の命と作戦のどちらを優先するか、政治的決断を迫られていた。各々が決断に揺らぐ中、大佐だけが少女を巻き込んででもテロリスト殺害を実行しようとする。果たして、ミサイルは放たれるのか!?