今回は韓国の反共アニメ『ジュンの願い』について述べていきたい。
この場合の反共とは反北朝鮮アニメという意味だ。ご存知の通り韓国と北朝鮮の戦争状態は今も継続しているが、韓国では1970年代~1980年代に軍事独裁政権下で反共アニメが作られていた。その背景は朴正煕や全斗煥政権下では反共作品は審査を通過しやすかったからという事情があった。
また反共作品には映画法により制作費の補助が出たのだというし、学校での団体視聴があったため動員を見込みやすかったという事情もあったそうだ。北朝鮮の対南政策が転換したのではと報じられる昨今、朝鮮半島の歴史を振り返る意味で、こうした作品を振り返る意味はあだろう。
この時期に製作された反共アニメには以下のようなものがある。韓国のロボットアニメとして有名な『テコンV』(1976年)は敵がアカ帝国というネーミング。直接的すぎるネーミングだ。反共鼓舞アニメとしての性質をもっている。トリ将軍シリーズは2作もある。
『トリ将軍 第三トンネル編』(1978年)では北朝鮮を思わせる、豚が支配する国でのトリ将軍の活躍が描かれる。豚はもちろん金日成を指しているのだろう。第二作の『スパイを捕まえるトリ将軍』(1979年)では、韓国に北朝鮮のスパイがやって来て、スパイに利用される少年の悲劇が描かれる。殺された少年は韓国国旗に包まれて弔われる。
『ヘドリの大冒険』(1982年)では北朝鮮に拉致された父親を探しに北朝鮮を旅するヘドリと妖精ピピが主人公。妖精の力でヘドリは巨大化し緑色の巨人となり北朝鮮軍を相手に大暴れする娯楽度も高い作品だ。
『海底探検隊マリンX』(1982年)は海底を探検する潜水艦が主役のアニメだ。ロボットアニメでもある。終盤に北朝鮮軍が潜水艦で現れてマリンXの乗組員を拉致して平壌に連れて行こうとする。『スーパータイタン15』(1983年)でも敵が共産主義を思わせる名前でこれも反共アニメと考えることが出来る。『宇宙戦士ホンギルドン』(1984年)も反共アニメだ。北朝鮮を思わせる親子が支配する惑星でホンギルドン(韓国で有名なお話の主人公である)が活躍する。
『ロボット王サンシャーク』(1985年)も反共ロボットアニメだ。北朝鮮兵士が韓国内に潜入する実写パートと北朝鮮で宇宙から来た巨大ロボットサンシャークが北朝鮮の韓国侵攻を食い止めるというアニメパートが描かれる。また『カクシタル』(1986年)というアニメは、元は「反日」的な原作を反共アニメにリメイクしたものだ。興行的には大失敗だったという。反共アニメの制作が控えられる要因となった(実は1987年から支援が減ったのも原因だったという)。だが作画に見るべきものがある佳作である。ハングライダーで北朝鮮軍を急襲する仮面の主人公が格好良い。こうした作品では北朝鮮の残虐さを強調したり、韓国の国旗を印象的に使い愛国心を盛り上げるといった描写がみられる。
このような反共作品が沢山あるなかで『ジュンの願い』(1981年)も制作された。この作品は30分程度の短い作品だ。主人公の北朝鮮少年ジュンの目線で北朝鮮の状況が描かれる。そして、この北朝鮮の描写がエグいのである。
あくまで当時の韓国サイドとしてアピールしたい北朝鮮の酷さではあるので、そこは差し引いて考えるにしても、やはりエグい。まず北朝鮮における厳しい労働が印象に残る。ノルマを達成するために倒れるまで働くなど絶望的な北朝鮮の状況が描かれる。党幹部の統制の元、集会では無理やり拍手を強要される。食料の配給では党幹部が配膳の量が多いと嫌がらせしてくる。住民同士の仲も険悪だ。
そんな状況の中、悲劇は主人公ジュンの同級生のサンチョルに起こる。彼は年老いた祖母に食べさせようとタマゴ泥棒をする。たった一個の盗難であるが、これがバレてしまい学校で人民裁判にかけられてしまう。それどころかサンチョルは党幹部がタマゴを盗む場面を目撃するが幹部は罰せられない現実があった。そして悲劇は、まだ、続く。
なんとサンチョルは鉄くずを集めていた射撃場での事故で死んでしまうのである。原因は北朝鮮軍の武器の性能が劣悪だったからだ。サンチョルの追悼集会を行う幹部たちであったが祖母は怒り、ついには金日成の肖像に唾を吐きかける。この祖母のその後は作中ではわからないが悲惨な結末が待っている事は容易に想像できる。
そして、ここからがこの作品『ジュンの希望』のポイントなのであるが、天国に行った(?)サンチョルからの使者としてヒャンという美少女がジュンの前に現れるのである。空中からジュンの前に降り立った彼女は、ジュンと一緒に空を飛んでソウルへ行くのだった。
え? どういうこと? これはファンタジー作品なの? さっきまでの深刻なドラマはなんだったのか?
……ともかく、そこでジュンは北朝鮮に比べて豊かな韓国の現状を目にするのである。夜になると真っ暗になってしまう北朝鮮に比べソウルは夜でもきらびやかだった。また韓国の児童の様子を見分したりして驚くなどするジュン。そして北朝鮮に戻ったジュンはヒャンからもらった鳩(平和の象徴だろう)を空に放ち、統一を夢見るのである。
初めてこの作品を観たとき、前半の絶望的な状況と終盤のファンタジックさの落差に驚いたものである。製作年は1981年だから当時の韓国の状況も、どうだったのかとは思うが、素直な感想としては、これぞプロバガンダアニメだ! というものである。
如何に対立している関係とは言え、あからさま過ぎる。この時代に産み落とされた歴史の産物だと言えよう。 あとは、ヒャンが非常に可愛く描かれている。彼女は超自然的な存在として描かれているのであるが、妖精なのか天使なのか。それにしても尊い。
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