かつての韓国では『E.T.』ものアニメが大豊作だった!

かに三匹

『E.T.』は1982年にアメリカで公開されてSF映画だ。スティーヴン・スピルバーグ監督により作られた、少年と宇宙人の交流を描いた作品だ。世界中で大ヒットした。そして、その人気に便乗して韓国では『E.T.』っぽい劇場用アニメが作られた。しかも2本も!

『黄金の鉛筆と宇宙少年』(1983年)、『UFOに乗ってきた宇宙人の王子』(1984年)がそれだ。今回はこの2作品を紹介したい。

まずはイ・ヨンス監督の『黄金の鉛筆と宇宙少年』だ。ファンタジックな一編。

巨大黄金ロボット(どことなくガンダム似でモンスターと対決)まで登場する娯楽作品だ。宇宙の侵略者アンドロ魔王からリケル姫を助けて活躍するE.T.ニケであるが(リケル姫を母と呼んでいるが似ていない親子の様だ)、公開当時のポスターには堂々と「わたしはE.T.だ」と書かれているという大胆さ。

タイトルの宇宙少年とはもちろんE.T.のことだが、黄金の鉛筆とはリケル姫から地球の少年少女4人に渡された鉛筆の事だ。この鉛筆には神秘的な力があって持ち主が変身したり何かを作り出したり銃にしたりできるのである。これを使って少年少女たちは侵略者と戦うのだ。

鉛筆だから何かを描いたら現実化するのかと思ったが違ったのも変化球だ。リケル姫とE.T.はキノコ型の宇宙船に乗って敵から逃れて地球に漂着するが、追っ手に追い詰められてしまう。少年少女は追っ手のロボットたちを撃退し仲間となる。そしてE.T.と共に、リケル姫の能力で作られた黄金の鉛筆型の宇宙船に乗って宇宙へと旅立つのである。

そして始まる戦い。この鉛筆型の宇宙船の武器はボクシングのグローブである。グローブで敵の宇宙船をぶん殴り撃墜するという夢の詰まった武器で戦いの悲惨さが薄らいでいる。

かと思えば、黄金の鉛筆の力で作り出した戦闘機に少年少女が乗って敵のロボットを撃退する。敵もロボットや戦闘機だけでなくキングコングと呼ばれるモンスターや巨大タコ型ロボットも襲ってくるなどバリエーションがある。

ストーリーも途中で敵に捕まった仲間ニケを助けるために黄金の鉛筆を敵に渡すかどうか葛藤するなど変化があり盛り上がる。終盤のリケル姫の自己犠牲的な行動も涙を誘う。そして最終決戦ではスターウォーズのBGMに乗ってデススター的な敵の要塞に突入する。燃える展開だった。

そして次はチョ・ミンチョル監督の『UFOに乗ってきた宇宙人の王子』。コレについてもポスターには堂々と「これは韓国版E.T.だ」と書かれている。この映画は一言で言えば少年少女3人とE.T.そっくりの緑の星のビザンチン王子の友情を描いたものだ。

緑の星からの招待を受けて少年少女3人はUFOに乗って緑の星に向かう。この時のUFOは無人で宇宙人は乗っておらず、どんな所に連れていかれるのかというサスペンス感がある。
そして到着した緑の星でビザンチン王子と出会う。この時、画面いっぱいにE.T.が大量にいるサービス精神、E.T.好きな子供たちも大喜びだ。しかしビザンチン王子は、隣にある惑星である赤い星の片目の攻撃を受けて勇気を失っていた。常に車いすに乗っているビザンチン王子。

緑の星と赤い星は戦争状態でありミサイルをお互いに撃ち合い多くの死傷者が出ている様子も描写される。ここら辺は手加減なしだ。

少年たちはビザンチン王子と共に赤い星へ向かう。しかし惑星間の小旅行であるにもかかわらずUFOを使わずに帆船っぽいもので移動するのでファンタジー感がある。

到着するや否や赤い星の攻撃を受けついにビザンチン王子たちは捕まってしまう。死刑になるところを、王子の超能力で脱して片目を倒すのであった。王子は勇気を取り戻す。

ここまでで映画開始から50分である。残り20分しかないのに、ここから『UFOに乗ってきた宇宙人の王子』は怒涛の展開を見せるのである。

賢明な読者は気づいているだろうが、ここまでビザンチン王子はUFOに乗っていない。タイトルに嘘があるのか? と思った方もいるだろう。安心して欲しい。ここからがこの映画の本領なのである。

ビザンチン王子はUFOで3人を地球に送り返す事となり同行する。無事に地球へ到着した事を喜ぶ少年少女たち。しかし、ここが唐突なのだが、一行はなぜか公演しているサーカスへと落下。サーカス団長はビザンチン王子を見世物にしようと捕まえ(また捕まるのか!)、一輪車を乗りこなすように命令する。しかし、ビザンチン王子たちは超能力で脱出する。そして4人で一列になって一輪車に乗り空を飛ぶのであった。

ここが本家の『E.T.』を思い出させるサービス場面であるが、一輪車にしたところが工夫である。

脱出した一行は、しかし警察やサーカス団に追われ危機に見舞われる。果たしてビザンチン王子は緑の星に帰れるのだろうか? と20分の尺でかなりテンポよく進んでいくのである。思い切って赤い星の冒険か、サーカス団からの逃走劇に絞ればよかったのではないかとも思うが、両方込で表現しているのが、この映画の味である。なお赤い星は赤=共産主義を連想させ、当時の韓国の政治状況を想像させるネーミングだ。

しかし、両作品のE.T.は全くかわいくないデザインである。当時の韓国の子供たちはどう思っていたのだろうか? ただ両作品ともに少年少女とE.T.との友情が描かれておりポイントは押さえられている。

韓国では80年代には、こうしたハリウッド映画っぽいアニメも制作していたのである。他にも『E.T.』ではないが『トロン』っぽさが横溢する『コンピューター核戦艦 爆破大作戦』(1982年)なんて作品もあった。

なお韓国が万国著作権条約の締約国になるのは1987年、ベルヌ条約の締約国になるのは1996年のことだ。1990年代後半には所謂「パクリ」は韓国アニメではほとんどなくなる(一部例外あり)。

注:ハングル表記は『黄金の鉛筆と宇宙少年』(황금연필과 외계소년)、『UFOに乗ってきた宇宙人の王子』(UFO를 타고 온 외계인 왕자)、『コンピューター核戦艦 爆破大作戦』(콤퓨터 핵전함 폭파 대작전)

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