3000人の暴徒が誕生パーティに集結!『とんでもカオス!:リアル「プロジェクト X」』が紐解く「うっかりミス」の代償

ツナ缶食べたい

 今年3月、X(旧:Twitter)が投稿の自動翻訳を実装し、言語の壁を超えたコミュニケーションがより身近なものとなった。その最初のムーブメントが、アメリカ人の肉の写真がバズるというもので、日本人が憧れるアメリカンスタイルのBBQの写真が連日タイムラインを賑わせ、たいそう食欲を煽られたものだ。

 と同時に、日本人である筆者はこうも思ってしまう。「海外の人、マジでパーティやるんだ」と。家に見知らぬ人を招いて、肉焼いて酒飲んで大騒ぎだなんて、肉を食べる前にストレスで胃もたれしてしまいそうだ。プロムもパーティーも、やはりスクリーンの中の出来事に限る。ところが、世界には意図せずして自宅が狂乱のパーティ会場になってしまった、可哀想な事件が実際に起きているのだ。

 というわけで今回は、『とんでもカオス!:リアル「プロジェクト X」』をご紹介。Facebookのアカウントをいまだ運用している方は、とくに心して読んでほしい。

 世界中で起きた大惨事のきっかけとその裏側を紐解くドキュメンタリーシリーズ『とんでもカオス!』の一編である本作は、SNS時代の過渡期に起きてしまった大騒動が、ある少女のちょっとした操作ミスから発展したという、信じられない出だしから始まる。

 オランダののどかな田舎町、ハーレン。そこに住む少女メルテは、自身の16歳の誕生パーティを企画し、Facebookにイベントページを作成して知人たちを招待する。ところが、本来は招待客のみに設定するはずの公開範囲が「Public(誰でも)」になっており、友人が友人を呼ぶ連鎖が広がり始め、イベントページにはすでに3万人もの参加希望者が集まっていたのだ。

 事の重大性に気づいたメルテは即座にイベントページを削除するのだが、またたく間にイベント告知を模倣するページが現れる。そのパーティ名は、「プロジェクトX – ハーレン」。いまここに、平和で退屈な街を阿鼻叫喚の地獄へと突き落とす、最悪の一夜への序章が幕を開けた。

 ここでいう『プロジェクトX』とはご存知NHKのドキュメンタリー、ではなく、2012年に公開された同名のアメリカ映画のこと。人気者になりたいがイケてない高校生三人組が企画した誕生パーティが、ひょんなことから想定外の人数の客を招いてしまい、その暴走がエスカレートする様を描いたティーンムービーだ。当時日本でも「ヤバい映画がやってきた!」と好事家の間で話題になり、その信じがたい内容に開いた口が塞がらなかったが、やはりどこまでいってもそれは「映画」であり、日本に住んでいればフィクションとして消化されてしまうフィルムであったのは致し方ないことだろう。

 ところが、あの映画の影響力は凄まじかったらしく、映画のWikipediaには『プロジェクトX』を模倣して起きた実際のパーティ事件の項目があり、今回のドキュメンタリーで扱われているハーレンの事件もそこに並んでいる。若者たちは大騒ぎと解放を求めており、映画『プロジェクトX』は彼らの欲望を的確に描写し、そして彼らはついにSNSというテクノロジーを借りてそれを現実のものにしようとしたのだ。

 話をハーレンに戻そう。メルテはイベント模倣したページの作成者と直接やり取りをし、時には父の力を借りて、それを削除させた。しかし、消しても消しても別の人間がイベントを立て、収集がつかなくなってゆく。このSNSで起きた暴走の予感に対し、一部の大人たちは危険を感じ町長に警告するも、町長は事態を重たく受け止めなかった。本当に3万人が訪れることなど、考えられなかったからだ。

 ところが、盛り上がりはさらにエスカレートしていく。有志が作った「プロジェクトX – ハーレン」のポスターが街に貼られ、メルテの顔写真や個人情報も誰かが作った「勝手な」広告に利用されてゆく。そしてついにやってきたパーティ当日。メルテと家族は家から退避し、当局が自宅周辺を取り囲んだ。確かに3万人はやってこなかったが、気づいた時には3000人の若者が押し寄せていた。人口1万と少しの小さな町に、3000人である。

 本作は、当時の映像や、パーティという名の「破壊」に参加した当事者の証言を元に、この一夜を振り返っていく。集まった若者たちは「パーティはどこだ!」と騒ぎ出し、警官たちと衝突。酒に溺れた彼らは標識を破壊し、警官や人々に瓶を投げつけた。ある者がスーパーマーケットのガラスを割り、タダで酒と煙草にありつけると若者たちが略奪に走った。大勢のけが人が出て、車や公共物が破壊され、悲惨な事態となった。500人の機動隊が投入、30人が逮捕され、被害総額は100万ユーロを超えると推定された。

 本作は大人になったメルテや当時対処に当たった大人たちの証言から、この騒動を結論づけている。若者たちの無邪気で後先考えない刹那的な狂乱に、SNSが手軽さを授け、当時の大人たちはそれを過小評価していたのだと。事実、町長はこの件への対策の至らなさを理由に辞任することとなり、ドキュメンタリーに協力することも叶わなかった。それほどのトラウマを叩きつけたこの事件は、SNSの影響力に対する当時の理解の浅さが被害の拡大に繋がったのだと、誰もが苦い顔をする。

 とはいえ本作はオチが強烈で、メルテやイベントページの拡散を行った者たちが当時を振り返って残したコメントこそ、真に肝が冷えるものがある。ある者は若さゆえの軽率さを恥じる一方で……?という部分は、ぜひご自身でお確かめいただきたい。SNS時代の寓話としてどんな教訓を得るかは人それぞれだが、当の本人がよりによってそれ言う!?という衝撃を、ぜひ味わっていただきたい。

 一応擁護しておくと、当時のBBCの報道によればこの騒動の後片付けを目的とした「プロジェクト・クリーンX・ハーレン」という活動が立ち上げられ、清掃活動のボランティアに勤しむ者もいたという。SNSは使い手によって、悪にも善にも役立てられるのだ。

『とんでもカオス!:リアル「プロジェクト X」』はNetflixにて配信中。
https://www.netflix.com/title/81763681

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