“ポスト・アポカリプスファンタジー超大作!”という惹句とともに10月13日(金)より映画『大雪海のカイナ ほしのけんじゃ』の公開がはじまりました。
“超大作”というのも過言ではなく、この『大雪海のカイナ』という作品の話のスケールにしても、作品自体のリリースのスケールにおいても漫画連載なども同時展開する大きな企画となっています。何を隠そう本作はすでに2022年1月にTVアニメシリーズ『大雪海のカイナ』が放送されていて、実はこの劇場版はその続きにあたります。
当時の放送を観ていなかった人には、続き物であることに尻込みをしてしまうかもしれませんが、この『大雪海のカイナ』は意外と内容も抑えやすく、今から追いつくのも遅くない注目作となっています。
原作・弐瓶勉!ポリゴンピクチュアズの記念作『大雪海のカイナ』とは?
この『大雪海のカイナ』を制作しているのは、これまでも多くのアニメーション作品を手がけてきたポリゴン・ピクチュアズ。ポリゴン・ピクチュアズといえば日本における3DCGアニメーション制作会社の中でも有力な会社の一つであり、これまでにもアニメーション映画『GODZILLA』シリーズや『亜人』、『シドニアの騎士』といったヒットタイトルを世に送り出してきました。
そんなポリゴン・ピクチュアズは今年で40周年という節目を迎えるということで、この『大雪海のカイナ』は設立40周年記念作と位置づけされている作品となっています。
『大雪海のカイナ』の原作者として携わっているのが、漫画家の弐瓶勉先生。弐瓶勉先生といえばこれまでも『BLAME!』、『シドニアの騎士』などでポリゴン・ピクチュアズが作品の映像化をしてきており、特にポリゴン・ピクチュアズと縁の深い作家なこともあり、記念作を務めるには適任とも言えます。
これまでのタッグ作品と違うのは、原作漫画がまだない状態でのアニメーション化企画である点。最初からアニメーションを制作するという目的で生まれた本作の物語が、『BLAME!』や『シドニアの騎士』とどう違うのかは、見所でもあります。
ちなみに今回も『BLAME!』、『シドニアの騎士』同様、漫画作品も展開されているのですが、今回は弐瓶勉先生はあくまでもこちらでも原作を担当するのみ。作画を武本糸絵先生が担当しており、現在も月刊少年シリウスにて連載中です。漫画版では雪海の質感がTVアニメシリーズとも明らかに違っていたりと発見があるので、アニメシリーズを観たという人も見応えがあるのではないでしょうか。
『大雪海のカイナ』とはどんなお話か?
既存の弐瓶勉原作×ポリゴンピクチュアズ作品との違いとして目立つのが、本作の世界観がファンタジーテイストである点でしょう。
『大雪海のカイナ』の舞台は、文明が衰退して“雪海(ゆきうみ)”という白い海のようなものに覆われた惑星です。その上空には巨大な樹木である軌道樹が広がっており、主人公の一人・カイナはそんな“天幕(てんまく)”と呼ばれる樹の上で生活していた唯一の若者でした。そんなカイナが遭遇するのが、雪海の世界からやってきた王女のリリハです。巨大な樹の上で生活していた少年と下界に広がる白い海で生活していた少女が出会ったところから物語が展開していく、ボーイミーツガールストーリーとなっています。
これまでの弐瓶勉原作作品とは違ってメカチックなアイテムも存在しなければ、文字という文化も失われていることからビジュアルからもこれまでとは方向性のまったく違う物語にも見えるかもしれないのですが、実は序盤からはかつてはこの世界にも“文字”という文化があったことが分かるアイテムが登場したり、TVアニメシリーズの後半では明らかに世界観が異なる文明が生み出したであろう“モノ”が登場したりと、「なるほど、弐瓶勉先生原作作品だ」と感じさせる展開が待っていたりと、この世界がどんなものなのかを作中の登場人物と一緒に解き明かしていくような体験になっています。
TVアニメシリーズで起きたこと
2023年1月から1クールにかけて放送されたTVアニメシリーズ『大雪海のカイナ』では、結局この世界の秘密が解き明かされることなく完結しています。TVアニメシリーズで展開されてきたのは、王女リリハの暮らしていた雪海での人間同士の争いの解決がメインとなっていました。
雪海の世界では、リリハの国であるアトランドという国とそんなアトランドに水を巡って争いを仕掛けるバルギアの国で戦争が起こっており、リリハは戦争の原因である水不足を解消するための答えを知るとされる“賢者”を探して、天幕までやってきていました。
二国間の争いにカイナは巻き込まれつつ、さらわれてしまったリリハを救ったり、バルギアの国の困窮した様子なども知ったりと展開は続いていく中、ついにバルギアの最高司令であるハンダーギルとの最終決戦を迎え、アトランドの勝利により一件落着を迎えます。
今回の『大雪海のカイナ ほしのけんじゃ』で描かれるのはここから。二国間の争いも決着を迎えて、やっと腰を据えてこの世界の辺境に何かがあることに気づき、その謎に挑んでいくところからが今回の映画版で描かれていく内容です。
ちなみに公式でダイジェストムービーが公開されており、TVアニメシリーズを追うのが大変だという人も、実は15分で手っ取り早くこれまでのあらすじを追うことができます。
劇場版シリーズの注目点はここだ!
TVアニメシリーズを観ていた人にとって、『大雪海のカイナ ほしのけんじゃ』は衝撃的な内容となっていました。TVアニメシリーズの最終回から、地図に示された雪海の先にある大軌道樹に冒険しにいくことは予想できたのですが、想像以上のものが待っていることが映像で明らかになりました。
まずは新キャラクターの登場。カイナの所持しているゴーグルとはまた違った先進的なゴーグルをつけた新キャラクター・ビョウザンが登場するとされ、彼が今回の映画のキーキャラクターであることが明らかになっています。
そして極めつけは巨大なロボットの登場です。明らかにこれまでの『大雪海のカイナ』の世界観には合致しないオーバーテクノロジーぶりを感じさせる人型のロボットが複数体登場するシーンが映っており、TVアニメシリーズを観ていた人ほど「一体何が起こっているんだ」と戸惑う衝撃的な映像となっていました。果たしてカイナとリリハはこの世界の先に何があることを知るのでしょうか。
現代の『風の谷のナウシカ』としてどんな答えを指し示していくのか
この『大雪海のカイナ』を観る上でいやが応にも意識させられるのが『風の谷のナウシカ』の存在です。
『風の谷のナウシカ』といえば、戦争で文明が崩壊した世界のずっと後を舞台にした作品であり、ポスト・アポカリプス・ファンタジーの金字塔と言ってもいいほどの作品です。遥か昔に文明が存在していたことだけでなく、巨大な昆虫が生息している様子や、二国間が戦争をしている様子、そして物語のクライマックスで登場する巨大な“何か”の存在などは、原作だけでなくアニメーション映画しか観たことがない人にも、『大雪海のカイナ』と『風の谷のナウシカ』の類似性を感じられる部分でしょう。
おそらく製作陣もそれを意識して制作しているであろうことを思うと、原作の『風の谷のナウシカ』の結末を意識した顛末が映画『大雪海のカイナ ほしのけんじゃ』にも描かれるのかもしれません。
原作の『風の谷のナウシカ』では、とある存在が汚染された世界を浄化するべく、ナウシカたちに浄化の役目を押し付けていたという衝撃的な事実が示されます。その上でナウシカたちは、汚染された世界がたとえ過酷な場所であっても“自由”に生きていくことを選ぶという顛末を迎える物語でした。
それを踏まえるとこの『大雪海のカイナ』も、限られた資源の中で生き抜くすべを探しているカイナやリリハが世界の秘密を解き明かしていき、未来に対しての何らかの決断をしていくであろうことは想像できます。
なぜ『大雪海のカイナ』の旧文明は滅びてしまったのか。
遺物として残っていた巨大な“何か”の正体はなんだったのか。
伝承に残っている賢者とは何者なのか。
カイナたちの窮地に登場した緑の謎の生命体は何者だったのか。
そして、カイナやリリハたちはこの世界で生きていくことができるのか。
これらのまだ明かされていない謎に対する答えが『大雪海のカイナ ほしのけんじゃ』に描かれているのかに注目すると、より作品を楽しめるでしょう。
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