日本公開決定! 映画『悪魔と夜ふかし』を楽しみつくすために知っておきたいこと

ヒロシニコフ

世界中のホラー・ファン注目作が日本公開!

欧米で公開されるや否や大反響を巻き起こした注目作『Late Night With the Devil』がついに『悪魔と夜ふかし』なる邦題を得て日本公開決定! 公開日はハロウィンが迫る10月4日(金)。配給はGAGAが務める。

本作は1977年10月31日…ハロウィンの夜に放送されたトーク番組「ナイト・オウルズ」を、そのまま観客の前にお出しする特異な構成をとっている。司会者のジャックは妻の逝去などに伴って人気が低迷中。このショーは起死回生のチャンスであった。番組は時節柄オカルト特集。霊能力者や悪魔憑きの少女がゲストとして登場する。これは人類史上初、悪魔の生出演になるのではないか? ジャックは生放送でどこまでのインパクトを引き出すことができるのか。そして全世界の視聴者はブラウン管越しに悪魔を目撃してしまうのか?

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先に述べたように映画は架空のテレビショーの形をとっている。つまりこれは変種のファウンド・フッテージものと言って良い。ファウンド・フッテージとは、実際に存在する映像を目にしてしまうという『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(99)で主流となった映画形式。近年なら『V/H/S』シリーズが記憶に新しいだろう。だがこの映画はテレビショー。なので司会者とゲストとの掛け合いを楽しみながら映画を観ることができる。これによりファウンド・フッテージものの弱点「何かが起こるまでは面白みがない」ことをカバーしているわけだ。

また、この作品を映画館で観ることは一種の矛盾をはらんでおり、その点も実にユニーク。というのも70年代のテレビショーを模した本作の画角は4:3。近年の映画におけるそれではない。そもそもテレビショーをスクリーンで観る…ということ自体が倒錯気味であって、既存の「映画らしさ」に揺さぶりをかけるものとなっている。これらのいくつもの仕掛けにより、映画は「何が起こるか分からない」異常さへの準備を観客の識域下で行わせる。実にクレバーな作りだ。

一方でノンストップに襲い来るショックを期待してしまうと、もしかしたら拍子抜けしてしまうかもしれない。テレビショーが歪んでゆく構成を採る本作は、ラストを頂点として、異常の上り坂を徐々に登ってゆく。もちろん頂上に至るまでにいくつかの見せ場はあるのだが、それでもスロー・バーナーな作りであることは間違いない。なので、映画の舞台となる1977年という時代について仄かにでも理解しておけば、映画の過程を含めて楽しみつくすことができるはずだ。

70年代における「悪魔」のありよう

60年代から80年代において「悪魔」とは一般市民をヒステリックなパニックへと叩き込むワードであった。60年代、アントン・ラヴェイは「チャーチ・オブ・サタン(サタン教会)」を設立し人々の耳目を引き付けた。その後、マンソン・ファミリーによるテート=ラビアンカ殺人事件が発生。カルト的集団に恐怖を覚えた人々は「悪魔」に対して現実的な恐れを抱くに至る。だがサタン教会のラヴェイはスポークスマンシップに満ちた人物であったので、映画『ローズマリーの赤ちゃん』(68)などにも出演。カルトなのかショーマンなのか…この怪人物に対して世間は「おっかなびっくり」といった調子で目線を注ぐことになる。

そして映画の世界において「悪魔」が世界的パニックを引き起こしたのは1973年のこと。ご存じ『エクソシスト』(73)である。実話を基にしているとの触れ込みで公開された同作は数多くのエピソードを残しているように怒涛のセンセーションを引き起こした。オカルト路線では続いて『オーメン』(76)が大入りを記録。60年代後半より起こった新宗教への恐怖がスクリーンを通して、劇中のホラー表現と観客の畏れを接続し、悪魔への恐怖を一般社会へと拡散していった。

さらに1978年、伝道師マイク・ワーンケが著した「ザ・サタン・セラー」(未邦訳)がベストセラー入りする。こちらは「悪魔崇拝者だったボクが改宗して、キリストの徒となったワケ」とでも言うべき内容で、ここに記されていたのは、悪魔崇拝者が日々恐ろしい儀式に耽溺しており、ドラッグとアルコールに身を浸し、はたまた誘拐などの犯罪行為にも手を染めている…などという、とんでもない内容。同書を読んだ敬虔なキリスト教徒たちは「やっぱり悪魔も悪魔崇拝者も恐ろしいワ!」と騒ぎ立てた。…しかし90年代、この書籍にワーンケが書いていた内容はデマであると正式に立証されることに。とはいえ、70年代当時はこれが悪魔に対する世間の評価のスタンダードとなっていたわけだ。

ざっとだが、『悪魔と夜ふかし』の劇中テレビショー「ナイト・オウルズ」が放送された当時における悪魔のありようを概説してみた。ここでお分かりいただきたいことは、我々の実生活においては程遠い存在である悪魔が、当時はきわめて身近なものであったということ。すぐそこにあるが、誰も目にしたことがないもの。それが70年代における悪魔だ。そのため、1977年にこんなテレビショーがあった! ということは、当時を知る人々にとっては実にリアルに映るのではないか。このあたりは欧米の観客と日本の観客の間に熱量の差を生み出す気がしなくもないが、知って観るのと知らずに観るのは大違いだろう。

ほんとにあった『悪魔と夜ふかし』?!

さて、『悪魔と夜ふかし』は「独創的なホラー」との評を得ているが、実は近似したテレビショーがあったことを皆さんはご存じだろうか。それは1992年のハロウィンの夜に生放送された。番組の名を『Ghostwatch』(92・未公開)と言う。

1992年10月31日、イギリス。子供も大人もテレビの前に集まり、生放送の番組を観ていた。番組内では、おなじみの司会者マイケル・パーキンソンが「ポルターガイストの起こる家」を特集している。家を調査するクルーとスタジオは生中継でつながっていた。アーリー家では霊障が起きており、そしてそこに住む娘スザンヌは「ミスター・パイプス」と呼ばれる霊に取り憑かれているというのだ。

クルーの調査を見守るスタジオ。はたしてカメラは霊をとらえることができるのか。観客のハラハラ感を助長するかのように、クルーを怪奇現象が襲い始める。恐れおののくスタジオ。だが、アーリー家とスタジオは遠く離れた場所に位置しており、それが唯一の心理的安全を担保していた…はずだった。だが、スタジオにいる司会者パーキンソンは途中で気づく。悪霊「ミスター・パイプス」は放送網を通して、自分をあらゆる場所に降霊させようとしていることに。

スタジオと観客が動揺する中、パーキンソンの様子に異変が起きる。そう、彼は「ミスター・パイプス」に取り憑かれたのだ! あらゆるお茶の間に放送される、悪霊に憑かれたパーキンソンの姿…それは悪霊がこの世に解き放たれたことを意味していた。

この番組は放送されるや否や、大パニックを引き起こした。その作りの精巧さに多くの観客が番組は真実だと信じたのだ。そのためキャストたちは翌日から別の番組で「あれはフェイクだよ」と説明行脚をする羽目に。だが余波は深刻で、降霊を信じた青年が自殺、さらに複数名の少年がPTSDを発症するという最悪の結果を引き起こした。番組は司法審査にかけられ、製作陣は観客に対して広く謝罪を述べることに。そして本番組はイギリスで二度と再放送されることはなかった。

いかがだろうか。幽霊と悪魔という違いはあれども、『悪魔と夜ふかし』と『Ghostwatch』は共通項を有している。『悪魔と夜ふかし』の監督コンビは80年代半ばの生まれ。実は70年代のテレビ番組をリアルタイムで目にしていないのだ。ならば、彼らが『Ghostwatch』を構想のベースに置いていたのではないか…と考えられないだろうか。もちろん、それは定かではないのだが、少なくとも『Ghostwatch』を知っていると、両者を比較することで『悪魔と夜ふかし』の持つ設定以上に独自性を放つポテンシャルを再発見できるのではないか。

『悪魔と夜ふかし』の監督たち

この映画を監督したのは、オーストラリア出身のコリン・ケアンズ&キャメロン・ケアンズ。日本ではこれまでに『モーガン・ブラザーズ』(12)と『スケア・キャンペーン』(16)が公開されている。彼らの作品の特徴は複数のジャンル、そしてリアルとフェイクを横断することだ。

『モーガン・ブラザーズ』はスプラッター・ホラーと人間ドラマ、ロマンティック・コメディを往復する内容。ただ、まだジャンルのスイッチがシームレスと言える域ではなく、ジャンル横断に多少のぎこちなさが残る仕上がりに。TVシリーズの監督を経て制作した『スケア・キャンペーン』でケアンズ兄弟は自分の映画の声をつかむ。こちらはドッキリ番組のスタッフが、より過激な番組を作ろうとカメラを回していたら本当に殺人が…というもの。二転三転する展開は劇中でリアルとフェイクを往復する。その裏で映画そのもののジャンルがコン・ゲーム的なスリラーからスラッシャー・ホラーへと変容を遂げてゆく様が実に痛快であった。

『スケア・キャンペーン』は良くできた作品であったが、あまり注目を集めなかった(韓国でリメイクの話もあったのだが、その後続報を聞かない)。しかしケアンズ兄弟は手ごたえを感じたのか、その路線を推し進め『悪魔と夜ふかし』を完成させた。『悪魔と夜ふかし』は、架空のテレビショーというフェイクの枠の中で、70年代のリアルを反映させ、どこまで映画のウソを真に迫ったものに近づけ、そのうえで現実から跳躍させることができるか。そのような挑戦がなされている。彼らの手指は、映画の中でのリアルとフェイクの隔壁を壊すことのみならず、映画という虚構(フェイク)と我々の住む現実(リアル)の境目を揺るがす領域にまで伸び始めたのだ。

「悪魔」は細部に宿る? 特殊効果からAIまでをも活用した映像

『悪魔と夜ふかし』は欧米で公開されると共に多くの肯定的な評価を呼んだが、一方で議論も紛糾した。それは劇中でAI生成の画像を使用したことによる。番組「ナイト・オウルズ」のロゴ、踊っているガイコツの絵などの3点はAI生成されたもの。なるほど、たしかによく見ると、AIが苦手としている指などにその証拠が現れている。

この件がなぜ物議を醸したかと言うと、やはりハリウッドにおけるストライキが大きかった。ストライキにおける争点のひとつは「AIの使用」。AIを使用することによって脚本や演技などに携わる人間の雇用に影響が出るとして、その規制を求めるものだった。そのため一時期は『悪魔と夜ふかし』の鑑賞をボイコットする動きまで出たほどだ。

背後に映る番組のロゴもAI生成によって作られたものだった

この動きに対して、監督コンビはAIアートの使用は「試験的運用だった」と前置きしたうえで、「映画を支えているのは多くのキャスト、クルーである」と弁明した。映画の中で利用された技術が世間を揺るがすなんて、これは映画内における悪魔の立ち位置そのものではないか。結果としてだが本作におけるAI使用に関しては、やや皮肉な含みを持つ問題提起となってしまった。

とはいえ、実際に映画ではAI技術のみを大きくクローズアップした見せ方はされておらず、むしろ特殊効果やCGIといった技術が多くのショック・シーンを創造している。通常のテレビショーで起こってはいけないような、大胆な人体破壊描写が突如として訪れる瞬間は、まさにホラー映画かくあるべし! 現実から非現実へと突入する監督の持ち味は、特殊効果と共に噴出するのである。

『悪魔と夜ふかし』は2024年のベスト・ホラーとなるか?

今年、日本でも多くのホラー映画が公開され、スクリーンを血と恐怖に染めてきた。その渦中において、『エクソシスト 信じる者』(23)に続き『オーメン:ザ・ファースト』(24)が公開されるなど、劇場はまさしく70年代サタニック・パニックのリバイバル状態。そして、ここで真打登場! とばかりに登場するのが『悪魔と夜ふかし』だ。

吹き荒れる悪魔旋風に対して、まだまだ話題作も控えている。こちらも海外で評判だった期待作『アビゲイル』(24)の公開が決定。そして『ターボ・キッド』(15)のスタッフが加わったことで一転して高評価を得た『プー2 あくまのくまさんとじゃあくななかまたち』(24)、まだ本邦公開の報は聞こえてこないが、熱狂的に迎え入れられた異色スラッシャー・ホラー『In A Violent Nature』(24・未公開)など、お楽しみがいっぱい。

個性的なホラー映画が群雄割拠する中、『悪魔と夜ふかし』がひときわ目を惹く異色作であることもまた事実だ。この映画が本邦でどう受け入れられるのか? スクリーンから悪魔が飛び出す(かもしれない)劇場公開日まであと2ヶ月ほど。楽しみで眠れない! なんて方もいらっしゃるかと思うが、きちんと寝てコンディションを整えて迎え撃ってほしい。10月3日、劇場が開くまで夜ふかしはおあずけ、ということで。

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作品情報

『悪魔と夜ふかし』10月4日(金)公開

1977年、ハロウィンの夜。
あるテレビ番組が、全米を震撼させた――
封印されたマスターテープには映っていた衝撃の映像とは!?

『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』のオーストラリア映画界から、またも恐るべき傑作ホラーが誕生した! テレビ番組の生放送中に起きた怪異を“ファウンド・フッテージ”スタイルで描き全米でスマッシュヒット、Rotten Tomatoes批評家スコアは驚異の97%を記録。鬼才コリン&キャメロン・ケアンズ兄弟監督が、『エクソシスト』『キング・オブ・コメディ』など70〜80年代の名作へのオマージュを盛り込みつつ、クール&レトロなビジュアルとリアルな映像演出で新たな恐怖を創出。『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』のデヴィッド・ダストマルチャンが愛嬌と狂気が同居する複雑なキャラクターの主人公を怪演し、圧倒的存在感を示している。

【ストーリー】
1977年、ハロウィンの夜。テレビ番組「ナイト・オウルズ」の司会者ジャック・デルロイは生放送でのオカルト・ライブショーで人気低迷を挽回しようとしていた。霊聴、ポルターガイスト、悪魔祓い……怪しげな超常現象が次々とスタジオで披露され、視聴率は過去最高を記録。しかし番組がクライマックスを迎えたとき、思いもよらぬ惨劇が巻き起こる!

監督・脚本・編集:コリン・ケアンズ、キャメロン・ケアンズ
出演:デヴィッド・ダストマルチャン『オッペンハイマー』『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』
ローラ・ゴードン、フェイザル・バジ、イアン・ブリス、イングリット・トレリ、リース・アウテーリ

原題:LATE NIGHT WITH THE DEVIL|オーストラリア|カラー|ビスタ|5.1ch|93分|字幕翻訳:佐藤恵子|PG-12
配給:ギャガ  ©2023 FUTURE PICTURES & SPOOKY PICTURES ALL RIGHTS RESERVED

10月4日(金)TOHOシネマズ 日比谷 ほか全国順次ロードショー

(公式より引用)

公式HP:https://gaga.ne.jp/devil/

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