任天堂のゲームを映画化したんだからそりゃあこれだけ遊び心が詰まってるわな!|映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』レビュー

ネジムラ89

「そう来たか!」
今回の映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の感想として、まずこぼれる感想はこれかもしれません。任天堂とイルミネーションエンターテインメントという世界規模で活躍する二つの企業が手を組んで映画化を果たした映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』。これが初めてではないとはいえ久しぶりの“マリオ”の映画化ということで、それなりに本気の一本が出てくるとは予想していましたが、ここまで“嬉しい”体験が用意されているとは驚きでした。

映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』概要

© 2023 Nintendo and Universal Studios. All Rights Reserved.

ニューヨークで配管工を営む双子の兄弟マリオとルイージ。謎の土管で迷い込んだのは、魔法に満ちた新世界。はなればなれになってしまった兄弟が、絆の力で世界の危機に立ち向かう。
(公式サイトより引用:https://www.nintendo.co.jp/smbmovie/

日本では『名探偵コナン 黒鉄の魚影』の上映と被らせないためなのか、世界とは2週間遅れでの日本公開となった映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』。満を持して2023年4月28日に上映をスタートとなりました。
監督を務めるのは映画『ティーン・タイタンズGO!トゥ・ザ・ムービー』を手がけたアーロン・ホーバス氏とマイケル・イェレニック氏。アニメーションの制作を『怪盗グルー』シリーズや『SING』シリーズなどミニオンを看板に活躍するイルミネーションエンターテインメントが務めます。

ストーリーは明快!逆に最近じゃ珍しいシンプルなストーリー

スーパーマリオシリーズといえば数多くのゲームが発売されているシリーズなだけに、特定のゲームに沿った内容になるのか、それともオリジナル作品になるのか。その設定から気になっていたのですが、その中間を取るようなこれまでのゲームシリーズをふまえたオリジナルストーリーとなっていました

© 2023 Nintendo and Universal Studios. All Rights Reserved.

兄を慕う弟と共に仲良く配管工を営むマリオとルイージ。キノコ王国のピーチ姫を自分の婚約者にしようとするクッパ。ゲームの設定を知っている人ほど馴染みがある設定にニヤリとさせつつ、マリオたちにとってはキノコ王国が“異世界”であったり、ピーチ姫に指南される形でマリオがクッパとの戦いに巻き込まれていくなど、マリオシリーズに馴染みがない人にも世界観が飲み込みやすいようなアレンジが設けられています。

その上、ストーリーの本筋は実にシンプル。異世界であるキノコ王国に迷い込んだマリオが、仲間を集めて宿敵クッパに立ち向かうという明快な内容。近年じゃ逆に珍しいぐらいな簡潔さから、小さな子どもでも映画を楽しめる王道ファミリームービーに仕上がっています。

注目は随所に散りばめられたゲーム愛

そこまで明快なストーリーなら逆に大人にとっては物足りない映画になるのでは?
と思いきや『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の見事なところは、ストーリーとは別の部分で往年のファンが喜ぶ仕掛けを所狭しと詰め込んでいる点にあります

おなじみのキャラクターが登場するのは言わずもがな、馴染みのあるアイテムに加えて、ここで流れて欲しいと思うBGMや効果音をしっかりゲームシリーズに準拠したタイミングで流してくれる“痒いところに手が届く”マニア仕様にもなっています。

ピックアップするゲームも特定のタイトルにこだわらず、昔懐かしい古典タイトルから近年発売されたばかりのゲームからも引用してきたりと一つの世代にこだわりません。これでもかと詰め込まれた遊び心と、刺さる世代を問わない間口の広さは、まさに任天堂のゲームをそのまま映像化した映画と言えるのではないでしょうか。

マリオだけじゃない!ドンキーコングにもフィーチャー!

輪をかけて嬉しいのはその遊び心もマリオネタに限らないところにあります。
キノコ王国に迷い込んで以降こそマリオに準じた演出が盛りだくさんなのですが、マリオたちがキノコ王国に迷い込む前の世界にも隙がなく、「パンチアウト1!」「アイスクライマー」「スターフォックス」「ピクミン」……などなど、隙あらばマリオ以外の任天堂ゲームネタが隠されており、ゲーム好きほど映画中に画面の隅々を見るのに忙しくさせられます

そんなマリオ以外のゲームシリーズで贔屓されているといえば、ドンキーコングの優遇ぶりもゲームシリーズに馴染みがあった身としては嬉しいところ。ドンキーコングの登場こそ早々に発表されていましたが、ドンキーコングの活躍だけでなく、ドンキーコングの世界に迷い込めばしっかりドンキーコングでお馴染みのBGMが流れるし、多くの出番はなくとも「あのキャラクターもちゃんと存在してますよ」とドンキーコングシリーズのその他の登場キャラクターの存在にも目配せがあるのがまたニクいです。ドンキーコングの登場シーンには、ドンキーコング役のセス・ローゲン氏も熱望したとされるNINTENDO64用ソフトとして登場した「ドンキーコング64」の挿入曲“モンキーラップ”が登場。マリオファンでなくとも楽しめる映画ともいえます。

なぜここまでヒットした?求められていた“マリオ映画”とは?

こうしてゲームファンに向けた魅力ばかりを唱えると、一見ゲームファンにしか刺さらない映画になりそうですが、ご存知の通り映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は公開まもなく世界的大ヒットを果たし、日本公開前にすでに世界興行収入は8億ドル(約1000億円)を突破。まだまだ現在進行形で数字を伸ばしている状況です。なぜこれほどのヒット作品となったのでしょうか。

その理由は、マリオシリーズが誰もが存在を知る作品であり、多くの人が遊んだことがあるゲームだということにもあるでしょうが、それ以上に元のマリオシリーズのデザインの“わかりやすさ”にあるのではないでしょうか。

© 2023 Nintendo and Universal Studios. All Rights Reserved.

「土管に入ると土管の端から端まで移動できる」「キノコを食べると体が大きくなり強くなる」という仕掛けの部分だったり、ボム兵やキラーのような爆弾やミサイルのような姿のキャラクターは見た目の通り爆発します。それらは説明するまでもなく一目見れば直感的に飲み込める設定です。

マリオの生みの親である宮本茂氏は以前「機能がわかりやすいようにデザインをすることが大事」としてそれを「マリオらしいデザイン」と称してゲーム製作に臨んでいたことを語っています(参照:社長が訊く『スーパーマリオギャラクシー』:https://www.nintendo.co.jp/wii/interview/rmgj/vol4/index3.html)が、今回そんなマリオのデザインをまるまる踏襲して映像化したことで、わかりやすいデザインが映画にも活きています。無数のキャラクターが登場しても誰が味方で誰が敵かもわかりやすければ、マリオが今パワーアップしているのかどうかも一目瞭然です。

ゲーム原作作品といえばどうしても複雑な設定が映画を楽しむハードルになってしまいがちですが、スーパーマリオは設定や世界観をパッと見で伝えることができるため、圧倒的にそのハードルは低いです。そこにさらに知名度が組み合わさることで、かつてない親しみやすさを生んでいるのです。

イルミネーションの新たな顔へ!『2』の登場は確実?

これだけの大ヒットタイトルとなれば、期待したいのは映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の続編です。期待もなにも制作サイドはもとから作る気満々ですよ、と言わんばかりにエンドロールの後に“今回出番が少なかったあのキャラクター”の登場をほのめかすカットを用意してくれています。今回の上映が終わっても、遠くない将来に再び映画のスクリーンにマリオたちが帰ってくる日は近いでしょう。

続編どころかルイージやドンキーコングといった今回登場したキャラクターのスピンオフ作品なんてのももちろん有りでしょうし、今回ピックアップされなかったようなマリオ以外の任天堂ゲームタイトルの映画化も制作の余地はあるでしょう。これだけのヒットとなれば企画に対してどんどん道が開けていくであろうことから、ファンとしても夢が広がります。

『怪盗グルー』、『ミニオンズ』、『ペット』、『SING』と数々の人気キャラクターを生み出してきたイルミネーションにとっても、ここに来て新たな看板タイトルとなる作品を得られたことも大きいでしょう。アニメーション映画最大手のディズニーが劇場興行に苦戦する今、興行でこれだけ圧倒的な結果を残したことからもアメリカのアニメーション界に与える衝撃は絶大です。ゲーム市場に続き、アニメーション市場においても、スーパーマリオが最高峰に君臨する時代が来てしまったのかもしれません。そんな時代の目撃者としても、その始まりの一歩となり得る映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は観ておいて損のない映画でしょう。

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