実は作品多数?もはやジャンル化してると言って良いかもしれない「西遊記」映画の世界

ネジムラ89

Netflixにまた新たなアニメーション映画が到着しました!あの“西遊記”を題材にした『モンキー・キング(原題:The Monkey King)』が8月18日から配信を開始。ライトセイバーのように光る如意棒が特徴の孫悟空によるコミカルな冒険譚が描かれています

そんな本作の様な『西遊記』を題材にした映画が実はすでに無数に存在していることはご存知でしょうか。その量は私達が想像するよりも多く、物語の出生の地、中国を中心に映像化の歴史もかなり長いもはや“ジャンル”として数えることもできる様な題材となっています。その流れを簡単ながらもざっと追っていきましょう。

西遊記の誕生から映像化の世界へ

そもそも『西遊記』はいつ頃生まれた物語なのでしょうか

「西遊記」はもともとルーツが不明なほど古い物語です。7世紀の唐の時代に玄奘三蔵が天竺へお経を取りに行ったとされる出来事がベースとなっており、この話がお芝居などの題材となっていき、多くの伝承として残っていきます。

そしてそれらの物語を16世紀の明の時代に伝奇小説としてまとめたことにより、今日の様なメジャーな物語として多くの人に読まれていき、さらにいくつものバージョンが描かれていきます。

そんな流れを経て、20世紀。ついに映像制作の時代を迎えた『西遊記』は書物から映像へと媒体の幅を広げ、これまでと同じ様に新たに何度も語られ直されていくことになります。

1927年に制作された映画『盘丝洞』を皮切りに、1966年にはカラー実写映画『西游记』、1976年には中国と台湾合作の『新孙悟空72变』などが制作されていきます。1986年にはドラマシリーズ『西遊記』が大ヒット。以降も映画にドラマにと何度も映像化を果たし、コンスタントに映像化を果たしていきます。

中でも『1950 水門橋決戦』のツイ・ハーク監督と、『少林サッカー』のチャウ・シンチー氏の製作・脚本で制作された2017年に公開の『西遊記2 妖怪の逆襲』は16億元の大ヒットとなるなど、近年に至っても絶えず西遊記映画は制作され、多くの人に観られています。

中国アニメーションを切り開いた西遊記

そんな『西遊記』の映像化の流れとして、忘れてはいけないのが20世紀の半ばに生まれたアニメーション化という支流です。
その始まりも実に早くアジアにおける最初期の長編アニメーション映画とされる『西遊記 鉄扇公主の巻』という作品が、1941年に早くも登場しています。さすがこの頃にすでに創作・改変がされまくった物語なだけあり、アニメーション映画の初期から『西遊記』は題材と選ばれていました。
そして本作を制作したウォン・ライミン監督は1961年には別の『西遊記』映画、『大暴れ孫悟空』を二部作で制作。海外でも多くの映画賞を受賞し、高い評価を獲得。そしてさらにこの『大暴れ孫悟空』を制作したアニメーション制作会社・上海美術映画製作所は、1985年に再び『西遊記』映画である『西遊記 孫悟空対白骨婦人』を製作し公開しています。この孫悟空のデザインは日本でも2006年ごろにサントリーの烏龍茶のCMに起用されていたこともあり、日本人でもその姿を観たことがある人は多いでしょう。

また、映画だけでなく1999年にはTVアニメシリーズ『西遊記』が全52話の大長編作で制作され、三蔵法師と3人のお供が冒険をするオーソドックスな『西遊記』の物語を、テレビを通じて子供たちに浸透させる役割を担いました。

21世紀にも新たな流行を生む西遊記アニメーション

『西遊記』の功績では中国の初期のアニメーション界だけでなく、21世紀に入ってからもさらに孫悟空が大暴れする時が来ます。それが2015年に制作された映画『西遊記ヒーロー・イズ・バック』の登場です。

緻密な3Dと派手なアクション、そして感動的なドラマを盛り込んだエンターテイメント作品の本作は子供だけでなく大人の観客も取り込み、本作は当時では国産のアニメーション映画では異例とも言えるほどの大ヒット作品となりました。その成績は当時では1億元を超えるのも難しいという状況の中、9.5億元という記録を残しました。
『西遊記ヒーロー・イズ・バック』の登場により中国国産アニメーションのポテンシャルの興行力が示され、本作を境として続く2010年代後半以降の中国アニメーション映画のヒット作の興行成績をグッと上げていくことになります。
中国のアニメーション映画の始まりのタイミングだけでなく、中国の映画市場が拡大していく直近の節目にも『西遊記』の活躍があることには、その存在が当たり前のように存在していることに改めてその浸透ぶりの凄まじさが分かります。

光の当たらない西遊記アニメーションたちも

まさに各世代ごとに『西遊記』を題材とした作品が登場しているようですが、日本にやってくるものも無数にある作品の中のほんの一部にすぎません。日本未上陸の『西遊記』──とりわけアニメーション作品は特に多く存在します。

例えば、2011年に制作されたアニメーション映画『金箍棒传奇』は、Flashアニメーションで制作されたコメディアクション作品。当時、大人気となっていたTVアニメ『喜羊羊与灰太狼』と同様のスタイルで制作されており、頭身の低い孫悟空たちが活躍する物語となっています。

2018年に登場した『大闹西游』はおもちゃの世界の孫悟空が主人公。そんなおもちゃの孫悟空が本当に西遊記の世界へ迷い込み、本物の孫悟空と出会うという映画でした。興行成績は3000万元ほどで、大ヒットとまではいかないながらも、ある程度の集客に成功しています。

2021年に登場した『西游记之再世妖王』は、『西遊記ヒーロー・イズ・バック』とはまた違ったデザインの孫悟空を始めとしたキャラクターたちとして描きなおし3DCGアニメーション化。シリアスで暗い雰囲気を強めつつも、可愛いマスコットキャラクターを登場させるなど、次なるヒットを狙った作品でした。

成績は1億元ほどで爆発的な結果は残せなかったのが残念でしたが、『西遊記』という題材を使って、こんなこともできるという例を見せてくれた作品でした。

中国だけにとどまらない西遊記ワールド

こうして作品を巡っていくだけでも『西遊記』がどれだけ中国で浸透しているのか思い知るわけですが、ここ日本も中国に次ぐ『西遊記』大国であることは忘れてはいけません。

例えば1960年には東映動画(現在の東映アニメーション)が映画『西遊記』を制作しています。監督にはあの手塚治虫先生が名を連ねており、中国だけでなく日本の長編アニメーションの初期にも『西遊記』の名前が現れることになりました。 後の1967年には、手塚治虫原作作品『ぼくのそんごくう』を題材にしたTVアニメシリーズ『悟空の大冒険』も放送されます。

https://youtu.be/pM4XX6evEQQ?si=BAF9gH1xdqSz2yvu

1977年には『西遊記』の登場人物をザ・ドリフターズのメンバーに寄せた人形劇『 飛べ!孫悟空』や78年には松本零士先生原作の『SF西遊記スタージンガー』、そして同年に堺正章主演のドラマシリーズ『西遊記』と、立て続けに方向性が全く異なるながらもいずれも『西遊記』を題材とした作品が登場します。

https://youtu.be/uQ9BlVeip_U?si=n7aFBkTPi1AkFH6L

そして1980年代に入ると、ついに鳥山明先生によるあの『ドラゴンボール』が連載をスタート。今となっては全く別物ですが、主人公が“孫悟空”という名前からもわかるように初期は『西遊記』の要素が多数取り入れられた作品でした。

ちなみに逆輸入的に『ドラゴンボール』のような『西遊記』の取り入れ方は、後の中国の作品にも見られます。2011年に制作されたSF作品魁拔(Kuiba)は、333年に一度誕生する恐怖の存在である魁拔(Kuiba)を倒すべく少年の蛮吉と、その育ての親である蛮殿下が旅に出るという物語なのですが、本作の主人公蛮吉のビジュアルは、『西遊記』の孫悟空を思わせるデザインとなっています。

以降も、80年代末にはドラえもんの長編に取り入れられた『ドラえもん のび太のパラレル西遊記』、90年代末には美形の男性となった三蔵一行の旅が描かれる漫画『最遊記』が登場するなど、大胆なアレンジを加えた『西遊記』が登場していきます。

真っ向から『西遊記』を映像化しようとする例はこの頃には珍しく、2006年に香取慎吾さん主演により映画化も果たした『西遊記』のドラマシリーズが珍しい例といえるでしょう。そのせいか日本では物語として定着するというよりも、孫悟空たちはキャラクターとして定着しており、かえんポケモンのゴウカザルとして孫悟空がポケモン化していたり、『Fate / Grand Order』では玄奘三蔵が美少女として登場していたりと、モチーフとし重宝されています。

新作『モンキー・キング』の魅力とは

この様にアジアを中心に制作されてきた『西遊記』ですが、ここに新たにアメリカの手が加わって映像化されるとどうなるのか?という疑問に答えを出してくれるのが、冒頭で紹介した『モンキー・キング』です。

本作は中国とアメリカの合作となっており、監督を務めるのはアニメーション映画『オープン・シーズン』や『ボックストロール』を手がけてきたアンソニー・スタッチ氏が務め、製作総指揮にはここでもチャウ・シンチー氏が名を連ねています。

https://twitter.com/netflix/status/1695526529659466128

おなじみの孫悟空が主人公の物語となっていますが、如意棒がライトセイバーの様に光ったり、変な機械音でコミュニケーションを取れる意思を持っていたりと、独自の味付けも施されています。これまでになんども映像化されてきた『西遊記』をどうアレンジし、どう元のお話と結びつけるかという点にも注目の作品となっていました

今回の記事で歴史を振り返ることで『西遊記』という物語が、掘り下げていけば掘り下げていくほど底が見えないぐらいの題材となっていることがわかったのではないでしょうか。数世紀に渡って語り継がれてきた物語のバトンが今どうなっているのか。その一番最新の作品に触れてみるという意味で『モンキー・キング』を観てみるのも良いかもしれません

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