「ミッドナイト・ゴスペル」レビュー ~こんなにやべえことがあるか?~NETFLIXオリジナルアニメ

――某日。
Twitter上で編集長と交わした何気ないやり取り。
「ミッドナイト・ゴスペル、気になってる」
「じゃあ記事お願いします」
それがこんなに恐ろしい旅の始まりだったとは夢にも思うまい。

NETFLIXオリジナルアニメ「ミッドナイト・ゴスペル」

結論から言おう。これは恐ろしい洗脳アニメである。
目で見るトランス。サイケデリック。ポップな皮をかぶった宗教論のアニメ。
こいつはオカルトハンターの魂にビンビンくる。

これまでに紹介してきたキマってるシーンがあって人が死ぬアニメの中でも、ダントツで危ないカートゥーン。
観たらキマる。

主人公のクランシーは宇宙に一人暮らす男。
日課のラジオを聴き、マルチバースシミュレータで仮想空間上の異世界に入り、そこでゲストを探してはインタビューをする。
そして広大な宇宙に一人しかいないリスナーに向け、自分でもラジオを配信している。
このラジオのタイトルが「ミッドナイト・ゴスペル」というわけ。

過去に実際に行われたインタビューの音源にアニメーションを付けたという作品としても実験的な感じのシリーズ。
ここだけ読むとリックアンドモーティで鍛えられた諸君は「それがどうした?」と思うだろう。

問題は、インタビューの内容なのよ。
全体を通して、ゲストの持つ「薬物への考え」「死に向き合った闘病」「冤罪で刑務所に入った」などの、ゲストの既に異常に濃くて呑み込めないような体験や考えの題材からインタビューは始まる。
そして「死生観」「輪廻転生」「死後どうなるか」といった仏教的な思考へ視聴者は混乱のうちに誘導される。怖い。

この作品は宗教観にすごくあふれている。実際、作中でもクランシーは「密教」という言葉を何度も使う。
アニメーションはインタビューの内容にまったくかみ合ってないようで、題材は同じ。一応それぞれの次元にストーリーはある。
最後はインタビューの考えを肯定したり否定したり、どちらでもないようなオチがついて終わったりする。
結局全部死ぬんだけど。

いわば、クラシック音楽ではない、宗教哲学のファンタジア。
脳と精神を悪戯にこねくり回してくる。『不安になることはない』といういかにも不安になる宗教観のバットで見ている人間をフルスイングで殴ってくる……怖い。

私はこのアニメの何が怖いって、観ただけでキマってしまうような謎の危険性を感じるところ。
意味わかんないわ、面白くないわ、って思えた人、正常です!!あなたのような真人間が居てくれて嬉しい!!
別にワクワクするような作品でもなければ、オチで大どんでん返しがあってすっきりするような作品でもない。
インタビューに合わせて淡々と進行していく。

ただ、迂闊にも『ボンヤリと眺める』という行為を取った場合、
『そうかもしれないな』とこのアニメで世界の真理を見たような気にさせられてしまう。
おそらく、このアニメのテーマの根幹にあって何度も繰り返される『死が救いである』、という考えを漠然と肌で感じ始める。怖い……。

このアニメは別に死を推奨しているわけではないの。
「死に対する恐怖は持つ必要がない」
「誰にでも訪れて、繰り返されること」
「ありのままにすべてを受け入れると苦しみから解放される」
という話を煮溶かして点滴でじわじわと体に染みこませてきているだけ。
こんな恐ろしいLet it Goは初めてだ。

このアニメのありのままを受け入れた」とき、真の意味でわかりを得るのかもしれない……。
私はしばらく繰り返して観ます。

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