『Away』
2019年に世に出てから多くの権威ある賞を獲得した『Away』がついに日本でも劇場公開が始まった。
本作の特徴として、当時25歳のラトビア人クリエイター「ギンツ・ジルバロディス」が音楽、映像共にすべて一人で制作した作品であることや、一切のセリフがなく進行するストーリーなどが挙げられるが、実際観てみると非常にゲームに近い演出・構成が目立つ作品であることが分かる。
飛行機事故でたった一人生きのびた少年が、バイクで小鳥と共に島を巡る、という内容が軸になり進行するが、海や山、湖、間欠泉、雪山とロケーション毎に章立てされており、それぞれのチャプターの環境で旅に必要なアイテムを手に入れたり、成長の要素があったりとフラグを回収して次のチャプターに移るようなゲーム的な展開で進行する。
また、終始とにかくかわいい小鳥と旅をする様子には和むものの、ほのぼのロードムービーにはならない要素として、常に少年を追いかける黒い影の存在があり、影に取り込まれた生き物は死んでしまうため、影に追いつかれたらゲームオーバーとなってしまう。
そうした死や恐怖を象徴するような存在が物語に緊迫感を生むと同時に自然や光の描き方が美しく、鏡面反射する湖の様子などが幻想的で、生と死の境界が曖昧になったような世界を描き出している。
言葉がなく、眼に映るものから状況を推察してひたすら旅を続ける様子は、2012年に発売された『JOURNEY(風ノ旅ビト)』に非常に似ている。実際にジルバロディス監督はインスピレーションを受けた作品として『風ノ旅ビト』の他、『ワンダと巨像』や『人喰いの大鷲トリコ』といった上田文人作品を挙げており、そうした作品が与えた影響を顕著に感じる。
上田文人が監督した『ICO』『ワンダの巨像』『人喰いの大鷲トリコ』の3作が他のゲーム作品に与えた影響は大きく、2012年『風ノ旅ビト』リリース当時(その時点ではトリコ未発売)も上田作品ライクなゲームだと評されることが多く、以降も『RiME』のような明確なフォロワーや、『rain』のような雰囲気の近いゲームが多数制作されている。
また『風ノ旅ビト』の大ヒットを受け、シンプルなゲームデザインと最小限の言葉で物語を描くインディーゲームが増え、現在でもそうしたゲームは多い。
それらのゲームは「映画的」だと評されることも多く、特に『風ノ旅ビト』に関しては謎解きも少なくシンプルなゲームデザインで2時間程度の物語を追う、まるで映画を観るような構造となっている。
『Away』はそうした「映画的」なゲームの表現を用いて制作された独特な映像作品として珍しい面白さを感じることができる作品となっている。
上田作品や『風ノ旅ビト』、また黒い影の不穏さや世界観は『LIMBO』や『INSIDE』をも想起させる。
それらのゲーム作品を映画として観ているような体験は、そうしたゲームカルチャーを体験したか否かでも感じ方が変化するだろう。
美しく幻想的な情景の描写など、普遍的にお勧めできるポイントももちろん存在するが、リファレンスとなった作品も踏まえ、上田作品や昨今のインディーゲーカルチャーを通っている方に、ゲームと映画の媒体の差などを感じながら観ていただきたい1作。
ジルバロディス監督の過去作品はYouTubeで視聴可能なため、こちらも併せてお勧め。
ジルバロディス監督のチャンネル
https://www.youtube.com/user/gzilbalodis/videos
『Away』公式サイト
https://away-movie.jp/
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アニメーション映画祭として世界最高の権威と最大級の規模を誇るアニメーションの国際映画祭であるアヌシー国際映画祭において、本作は2019年に新設された、実験性・革新性のある長編アニメーションを対象とする“コントルシャン”賞で、見事初代グランプリを受賞。これを皮切りに、世界中の映画祭で8冠を達成、2020年第92回アカデミー賞長編アニメーション部門の最終候補32作品に選ばれ、同年第47回アニー賞でも『アナと雪の女王2』や『トイ・ストーリー4』とともにベストミュージック部門にノミネートを果たした。
一躍時の人となったそのクリエイターの名は、“ギンツ・ジルバロディス”。ヨーロッパの小さな国、ラトビアで生まれ育ち、8歳からアニメをつくり始めたという弱冠25歳(当時)の青年が、3年半もの時間ををかけ、たった一人ですべてを作りあげた、渾身の長編デビュー作。
世界中で新風を巻き起こしたヨーロッパの新星、遂に日本へ!!