笑って泣けて、グロくない! デップー最新作コンビが贈るタイムトラベル冒険活劇『アダム&アダム』

ツナ缶食べたい

 来たる7月24日、『デッドプール&ウルヴァリン』が世界に先駆け日本で劇場公開される。映画会社の諸事情もコンプライアンスもお構いなしの“俺ちゃん”がまさかのMCU合流、ヒュー・ジャックマンがウルヴァリンとしてカムバックするなど、見どころが多すぎて今夏イチの話題作になることは間違いない。

 そんなデッドプール三作目のメガホンを取るのは、ショーン・レヴィ監督。博物館の展示物が夜な夜な動き出す『ナイトミュージアム』シリーズ、ロボットによるボクシングを描いた『リアル・スティール』など、ファミリーで楽しめる作品が有名な映画監督だが、デッドプール役のライアン・レイノルズとの相性は2021年の『フリー・ガイ』で証明済み。ライアン演じるモブキャラがVRゲーム世界をカオスに巻き込みつつ、今やMCUからスターウォーズまでをも取り込み、事実上エンタメの帝王と化したディズニーの今の立ち位置を、有名なアイテムや豪華カメオ出演で笑いへと昇華させたセンスは、『デッドプール&ウルヴァリン』への抜擢も納得の人選と感じる映画ファンも多数おられるだろう。

 ところで、主演ライアン・レイノルズ×監督ショーン・レヴィのタッグは、『フリー・ガイ』が初で、『デッドプール&ウルヴァリン』が三作目。その間に挟まれた二度目のコラボレーションは、実はあまり知られていない。というのも、この作品は劇場公開されておらず、Netflix映画として独占配信されているタイトルだからだ。その映画の名は、『アダム&アダム』という。

 2022年。12歳の少年アダム・リードは、一年半前に父親を事故で亡くし、今は母親と飼い犬のホーキングの二人一匹で暮らしている。身体が小さくてひ弱な彼は、学校ではイジメのターゲットで、家の中では母親と心がすれ違い続けている。ある夜、母親が出かけ愛犬と二人きりのお留守番の日に、アダムは家のガレージに見知らぬ男性が隠れていることに気づく。その男性は、なんと2050年からタイムトラベルでやってきた40歳のアダム自身だった!!

 2050年。40歳の空軍パイロットのアダム・リードは、2018年にタイムトラベルしてから戻ってこない最愛の妻ローラを救出すべく動いていたが、タイムトラベルの技術を掌握する世界的企業の女社長ソリアンの妨害を受け、誤って2022年に不時着してしまう。次こそ正しい時代へジャンプしなければならないが、タイムトラベル機能を持つジェットはアダムのDNAと紐づいており、負傷した今の自分ではジェットを起動させることが出来ない。そのため、頼りになるのは12歳の自分であり、アダムは嫌々ながら子どもの自分と一緒に行動することに。かくして、二人の“アダム達”は最愛の妻、そして暗黒企業によって牛耳られた未来の世界を救うための冒険に駆け出すことになる。

 『アダム&アダム』はNetflixの大資本が注ぎ込まれた、劇場公開されないのが不思議なほどゴージャスなルックなのに、実際の中身は「テレビでたまたま観かけた面白い外国の映画」の手触りなのが、まずもって嬉しい。午後ローとか金曜ロードショーで流れていたら、さぞ実況が盛り上がっただろうし、子どもが映画好きに変わるきっかけにもなるような、賑やかで楽しい一作だ。

 冒頭、懐かしのロックサウンドをバックに始まるスペースバトルは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のテイストが盛り込まれているが、大人のアダムが過去に戻って少しずつ未来を良き方向に変えていくプロットは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の要素をひとつまみ。アクションではライトセーバーのようなガジェットを振り回すワクワクを、家族との関わりを巡るドラマはスピルバーグ映画を観ているような、数々の名作映画の要素がミックスされた本作。主人公が戻った先の時代が2022年なのに、映画全体から醸し出される「懐かしさ」の正体とは、これらの引用元が想起させる錯覚なのだろうか。

 タイムトラベルを扱う映画であれば、自分自身に会ったり、未来をみだりに変えたりといった行動は基本タブーとされる。ところが本作は、タイムトラベルによるパラドックスの考証にはさほど時間をかけないのが潔く、元いた時間軸以外で死亡した場合は粒子状になって消失するという本作独自のルールは、子どもに薦める上でも安心のポイントだ。画面がシリアスになり過ぎないよう防ぐためか、大企業に支配される悲惨な未来を「ターミネーターみたいな世界」の台詞一つで済ませるなど、こういった細かい部分でも笑いを誘う。

 ライアン・レイノルズは子どもアダムが憧れるムキムキマッチョな大人アダムを演じつつ、言葉の端々にユーモアを忍ばせるキャラ造形には、彼のパブリックイメージが今作でも遺憾なく発揮されている。格好いいアクションをキメても、シリアスな説明をしなければならない場面でも、完全には二枚目になり切れないライアンの表情や細かい演技が重苦しさを和らげ、映画全編に緩和をもたらしてくれる。ピンチに陥ってドタバタする場面も可笑しく、それでいて子どもアダムの前で精一杯取り繕う様は絶品だ。

 そんな大人アダムとバディを組むことになるのが、まだ幼い12歳の自分なのだけれど、この“アダム達”のやり取りは軽妙で飽きさせない。大人アダムは目の前の子どもが過去の自分であるため、全てを見透かし理解しているような態度を取るも、12歳のアダムはステレオタイプないじめられっ子像には当てはまらない、快活で賢くて弁の立つ少年だ。子どもアダムは持ち前の察しの良さで自分の置かれた状況を理解し、時空を跨ぐ冒険に心震わせ、時に大人がドキリとすることを言って、周囲を言いくるめる度胸を持っている。

 歳の離れた二人のアダムは、父親を亡くしたことによる心の空白を共有するキャラクターでもある。大人のアダムは自身に蓋をしていたその気持ちに、少年期の自分との関わりの中でもう一度触れることになり、幼いアダムは後悔を抱えた未来の自分の言動から、心の中に抱えているモヤモヤの正体を知る。目の前から去ってしまった愛しい人に、もう一度会えたなら。妻を探すべく始まった大人アダムの時間旅行は、もう一つの巨大な喪失と向き合うことを余儀なくされる。幼い自分を相棒にして。

 SF的なワンダーで楽しませつつ、クリティカルな描写と演技でこちらの涙腺に刺さる物語を提示する。ショーン・レヴィ監督ら制作陣の腕は確かだし、そのビジョンを映像に起こすキャストの熱演は最高だ。アダムの妻ローラ役にゾーイ・サルダナ、父ルイスにマーク・ラファロ、母エリーにはジェニファー・ガーナーと、マーベルヒーロー揃いの楽屋ネタもクスリとさせてくれる。

 そして何と言っても本作がたまらないのが、上映時間106分というコンパクトさ!設定やアイデアを盛り込みすぎて、あるいは描くべき主役級キャラクターが大渋滞した結果長尺化が進む近頃の大作映画とは異なるこの絶妙な「軽さ」も、作り手の意図した名作映画へのオマージュだとしたら、一介の映画ファンとしては思わずニッコリだ。『デッドプール&ウルヴァリン』の前に過去作や『LOGAN』を復習する方も多いと思われるが、こちらもぜひ忘れずにチェックしておいてほしい。



 『アダム&アダム』はNetflixにて独占配信中。
https://www.netflix.com/title/81309354

前回の記事

ツナ缶食べたい  仕事の関係で、自転車レースのボランティアに参加したことがある。その内容は、車道と歩道の間に立ち、観客がテープをまたいで車道に出て自転車と接触することがないよう見張る、というものだった。  その立ち位置の関係上、自[…]

最新情報をチェックしよう!