『Va-11 hall-A』今更遊んで物語の語り方に超関心しましたの巻

マシーナリーとも子

6年以上前のゲームだけど関係ねえ

本当に超今さらなんだけど『VA-11 Hall-A: Cyberpunk Bartender Action』というゲームを遊びました。日本語版が発売されたのが2017年なのでマジで今さらです。
かなり感心したので感想を書いてもいいですか? いい映画はいつ見てもいつ感想を言ってもいいように、いいゲームだっていつ遊んでもいいしいつ感想を言っても良いものなので……。

『Va-11 hall-A』はバーテンダーとなり、店にやってくる客にカクテルを供しながら会話をするゲーム。
タイトルでは「サイバーパンクバーテンダーアクション」となっているが、ようはアドベンチャーゲームというかノベルゲームというかそういう風合いです。
ノベルゲームの「選択肢を選ぶことでストーリーが分岐する」という要素が「どのカクテルを供するか」になっているって感じやね。

登場する酒の大半はすべて架空のもの、というか天然材料を使ってない化学的な合成酒。ビールも偽ビール

で、このゲーム……ビジュアルは見ての通りレトロなアドベンチャーゲームを彷彿とさせる感じで目を惹かれるし、キャラクターも魅力ある人物ばかりで単純にかなりおもしろい。が、なんかそれ以上にゲームとしての「仕組み」に感心してしまったぜ。

ところで私はちゃんとしたバーに行ったことがほとんど無い(無いことはない)のでバーテンダーについて思い込みで話しています

これはバーテンダーの領分のゲームだ

なんというかこのゲーム、「バーテンダーをゲームにするって……どういうこと!?」っていう命題にすごく真摯に取り組んでると思えたんだよね。

だってさ、「バーテンダーが主人公のアドベンチャーゲーム」って、別に「主人公の職業はバーテンダー」っていうフレーバーだけでもよくない? カクテル作らせる操作なんかしなくてもさ。主人公がバーテンダーっていう設定だけでもおもしろい話、全然楽しめそうだし……。

でも『Va-11 hall-A』はそれだけに留まらず、「バーテンダーをゲームという表現で描写するにはどうすればいいんだ?」ってことにすごく真面目に取り掛かってると思ったんですよ。

ゲームの性質上ぱっと見同じようなスクショばかりで申し訳ないけど仕方ない

言うたらさ、この、「客の注文通りにカクテルを作る」って完全に作業っちゃ作業なんですよ。なんならゲーム中でマニュアルも見られるし、俺ならではのテクを見せてやるぜみたいな要素は全然無いわけ。捻った注文にどう対応するかとか、アルコールを多めにぶちこんでやるみたいなことはできるけど、でも基本は書かれているとおりに酒の素を注ぐだけの操作なんです。

でもさ、本物のバーテンダーだってそうじゃん! そりゃ多少のアレンジはするだろうし、その人が作ったオリジナルのカクテルを出すみたいなこともあるだろうけど、基本的なカクテルの絶対守るべきレシピってのはあるわけじゃん? ギムレットをくれって言われたらジンにライムジュース入れるのは変わんないわけだ。

だからこの……わざと悪いように言っちゃえば「単調な作業」が「バーテンダーのロールプレイング」としてしっかり機能しているんだよな。なんか、「いまの私ちゃんと仕事できてるな」みたいな気分を適度に味わえる。

また、結構な量のテキストの合間に挟まるアクセントとしても機能していて、小気味よく客との会話を楽しむというか、いい感じの切れ目を作ってくれてる感じがする。

で、これってよく考えたら現実の注文もそうじゃない!? 会話の合間に新しい注文して会話の潮目が変わるみたいなことってよくあるじゃん。なんかうまい具合にシステムとバーテンダーの実際がシナジーしてると思うんだよな。

本作はタイトルで名乗ってる通りサイバーパンクな世界を舞台としている。舞台は西暦2070年代のグリッチシティと呼ばれる架空の都市(アメリカらしい)。なので客層もハッカーやアンドロイドや喋る脳など様々だ。

で、サイバーパンクらしくなにやら社会や企業を巻き込んだ陰謀めいた事件も起こってたりする。が、主人公には関係がない!

よーく読み込むと、直接関係していたキャラ以外にも「あれ、この人事件に関わってるんじゃない…?」みたいなのが見えてきたりはするのだが、それが明言されることはないし主人公も別に勘付いたりはしない。なぜなら客の事情に深入りするのはバーテンダーの領分を超えているからだ。

下ネタも多い。本作はベネズエラ産だが感性が近いのかはたまたローカライズが秀逸なのかかなり笑える

なので本作のストーリーはそうした事件についての詳細や裏側は追わず、あくまで主人公・ジルのパーソナルな問題に収束していく。この展開のさせ方もまた秀逸で、ゲーム序盤ではジル自身については「まあ喋るし、自分の意思も持ってるキャラクターに感じられるけど、あくまでプレイヤーの分身的なキャラなのかしら」と思わせるくらいの描写に留めている。

だけどチャプター終盤、バーテンダーから離れたプライベートな姿を見せながら、初めてパーソナルなところを曝け出すような構成になっているんですよ。

これがなんというか「バーテンダーはカウンターの内側にいる限りは自分をあまり出さない方が良い」って感じに思えてそこがすごく良かったな〜。

この演出手法はその後も徹底して…とまでは言わないけどすごく納得いく感じで続いていっていて、同時にジルのプロ意識も見られるようになっていてそこでまた一段階彼女のことが好きになれる作りになっている。なんていうか真摯なんだよな。ジルもこのゲームも。

そんなわけでストーリー以上に建て付けに感心してしまって、すごく楽しめたゲームでした。まだ遊んだことないという人はおすすめです。きっとジルのことが好きになれると思います。

このゲームを今更触ったきっかけは「そういえば自分って結構文字を読むゲーム好きかもしれねーな」と気づいたことなんだよね。例えば『ディスコ・エリジウム』とか『ファミレスを享受せよ』とかを遊んで「文章を読むということをゲームにするってどういうことなんだ?」って改めて考えちゃったりしたわけ。

『ディスコ・エリジウム』も死ぬほど文字が読めてめちゃくちゃ面白いゲームなんでみんな遊んでください。刑事ものです

もちろん、今更「文字を読むだけなんてゲームじゃない」なんてことを言うつもりはさらさらない。ビジュアルを使った演出を使ったり選択肢で内容が変化するみたいなのはゲームで読む文章ならではの体験だ。

でも最近このへんのゲームを遊ぶにあたって「ビデオゲームという手法を使えばもっと面白く文章を読ませることが可能なんじゃないか?」と考えてる人がたくさんいて(※)、そこにすごい頭を使って工夫しておもしろゲームを作ってくれてるなあ……ということにすごく感動してしまったんだよな。
いや……やっぱゲームっておもしれえっス。自分ゲーム好きっス。おわり。

※勝手に私がそう感じてるだけで当人たちはただ面白いゲームが作りてえ! と思ってるだけな可能性も全然あります。思い込みです

steam:https://store.steampowered.com/app/447530/VA11_HallA_Cyberpunk_Bartender_Action/?l=japanese
switch:https://store-jp.nintendo.com/list/software/70010000017446.html

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