体操着のようなコスチュームを着た女の子が登場する古いロボットアニメ……。
パッと見のなかなか見慣れないビジュアルに、本作のことをよく知らないという人には観る前に拒絶されてしまうかもしれない、なんてことをOVA『トップをねらえ!』が名作の一つと思っている立場としては、勝手に心配をしてしまいます。
そんな『トップをねらえ!』の何がすごくてどう面白いのかという点を、35周年という節目に合わせてスポットライトが当たったこのタイミングに改めて振り返ります。
『トップをねらえ!』は2023年で35周年!
『トップをねらえ!』が発表されたのが1988年。この年にOVA作品としてリリースを果たしました。そこから数えて今年2023年が35周年ということで、そんなアニバーサリーイヤーに合わせて2023年5月26日(金)からは全国12館の映画館にて、OVA『トップをねらえ!』とその続編シリーズ『トップをねらえ!2』がそれぞれ前後編で上映されます。
そもそもOVAという言葉もあまり聞かなくなりましたが、OVAとはオリジナルビデオアニメーションの略称。テレビ放送をせずビデオソフトとして発表して、販売やレンタルしてもらうことで視聴してもらうことを想定した作品です。
何を隠そう本作の監督を務めるのは、あの『新世紀エヴァンゲリオン』をはじめ今や多くの人がその名を知る庵野秀明氏。庵野秀明監督にとっては商業作品としては初のシリーズ監督を務めることになる記念すべき作品となりました。
『トップをねらえ!』はどんな話なのか?
『トップをねらえ!』の舞台は西暦2015年。今となっては過去ですが、1988年当時にとっては近未来の物語として描かれました。
主人公の少女タカヤ・ノリコは宇宙パイロット養成学校に通い、宇宙怪獣の襲来に備えて日々訓練を重ねる生徒。いつか宇宙パイロットになり、いまだに宇宙から帰ってこない父の居る宇宙へと旅立つことを目標にしてるのですが、憧れのお姉様やコーチなどに支えられつつ、その物語は地球を守るための宇宙怪獣との戦いに突入していくことになります。
パイロットと言ってもノリコを始め、主要キャラクターが乗り込むのはロケットではなく、ロボット。マシーン兵器という人型のロボットに乗り込み、宇宙怪獣と戦います。本編の後半では巨大な黒いロボット・ガンバスターが登場。『トップをねらえ!』といえばガンバスター、というほど作品の中でも顔となる位置付けになっていきました。
パロディが詰め込まれたなんちゃって本格ロボットアニメ?
本作をよく知らないという人は、「なぜ主人公たちは体操服を着ているの?」とか「なんで往年のスポ根アニメみたいな特訓をしているの?」とかどこまでが本気で、どこまでがギャグなのかわからないかもしれません。
前提としてこの『トップをねらえ!』という作品は、真面目にパロディをやっていこうとして作られていった作品です。
そもそもこの『トップをねらえ!』というタイトルも、飛行機パイロットのエースを描いた当時のヒット映画『トップガン』(1986)とスポ根物テニス作品としてアニメシリーズやリメイクシリーズ、そして劇場版などが作られていたヒット作『エースをねらえ!』(当時の直近の新作は1979年の劇場版)を合体させたもの。そのタイトルにも現れているように、作中には数多くの映画やアニメ、小説などの引用やパロディ、小ネタにあふれています。昨今の庵野秀明監督の作品と同様のイズムを感じられるのではないでしょうか。
一方でそれを作中で直接的に笑いのシーンとして描くのではなく、あくまでも真面目に登場人物たちが取り組んでいくというのがギャグなのかどうか混乱させる所以です。ハードなSF的な知見や裏設定などを盛り込みつつ、最後には熱い展開が盛り込まれ、感動的なドラマを持った作品として受け取ることもできる二つの視点を持った作品になっています。
今となっては集結するのも不可能な豪華な製作布陣
今でこそ「さすが庵野監督!」とその名前にばかり目が行きがちですが、監督以外の製作陣もこれまた豪華な作品でした。
アニメーション制作を務めたのは、ガイナックス。後に『新世紀エヴァンゲリオン』をはじめ『まほろまてぃっく』や『天元突破グレンラガン』などを生み出していくことになる制作会社です。
当時はまだ映画『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(1987)を制作したばかりで、そのまま解散予定だったのですが、そこに企画を持ってきていたのが当時、ガイナックスの代表取締役を務めていた岡田斗司夫氏でした。今でこそYouTubeチャンネルなどで多くのフォロワーを抱えており、アニメや漫画を“解説”をする人の印象を持つ人も多いかもしれませんが、当時はがっつりアニメーション制作に携わっていました。
そんな岡田斗司夫氏は本作の企画・原作・脚本に名を連ねていますが、実は脚本部分にはクレジットされていないながらも、岡田氏と同じくガイナックスの創設に携わり『王立宇宙軍 オネアミスの翼』を監督した山賀博之さんが協力していることも公言されています。
その他、絵コンテと設定には『シン・ウルトラマン』や『シン・ゴジラ』の監督を務めていた樋口真嗣氏がこの頃早くも庵野氏と連名でクレジットされていたり、『ONE PIECE』や『かいけつゾロリ』シリーズなど数多のTVアニメ作品の音楽を担当し、当時すでに『キン肉マン』や『ドラゴンボール』といった有名作の主題歌を制作していた田中公平氏が音楽を担当しているなど、一度には紹介しきれない豪華な布陣での製作作品となりました。
最終話だけ白黒映像になる驚愕の第6話
今となってはこの豪華な布陣に映る一方で、当時はそれぞれ今よりも35年分は若かったワケで、決して製作状況が順風満帆という状況にはありませんでした。当時は最終話をまだ迎えていない第4話まで完成した段階で続きが作れるかどうかが不明でした。第4話までを収録したソフトの第2巻がリリースされ無事に黒字化したことで、最終巻にあたる第5話、第6話の製作が実現。壮大なスケールを想定していた物語をギュッとこの最後の2話に注ぐことになりました。
限られた予算とスケジュールの中で『トップをねらえ!』の物語を完成に導くために、第6話は当時としても異例の演出で製作されることになります。その解決策こそがズバリ最終話にあたる第6話だけは全編を白黒の映像で製作するというものでした。
それまで全編カラーで描かれてきた物語を最終話だけ白黒にするというのは前代未聞とも言えますが、地球から遠くから離れた世界での戦いにエスカレートした物語が、突如としてモノクロになるのは“演出”として意外にも腑に落ちるものとなっていました。
当時、この第6話のリリースにあたり庵野監督がメディアに向けたメッセージでは
“ 白黒だから、という逃げのつもりはありません。勝算もあります。が、社会的に、極めて抵抗感が強いだろうと意識はしています。”
とその演出の異質ぶりを理解はしていたことがわかります。しかしそれと同時に、以下のようにも記しています。
“ 六話は白黒フィルムの持つ、極めてウェットな質感や表現無しには不可能でしょう。”
一見して事故のように映りかねないこの最終話ですが、否定的な先入観なく『トップをねらえ!』を見てもらえるように、当時のメディアに直々にその狙いの意図を伝えようとしていました。
そんな努力も実ってか『トップをねらえ!』はヒット作になり、現在も多くの人が知る作品となったワケですが決してボロ儲けということもなく制作費も嵩んでしまったようで、ガイナックスの存続のためにも庵野監督はTVアニメ『ふしぎの海のナディア』を引き受けることになっていくことになるわけです。
今でこそなんの説明もなく、伝説的な一本として既知の扱いになりがちの『トップをねらえ!』ですが、OVAであったり全6話という特殊な性質上、存在こそ知っていても観たことがないという人やそもそも存在を知らないという人も多いでしょう。今回紹介した注釈などを踏まえると、本作を観たときの素朴な疑問などの答えにもなるのではないでしょうか。
2023年も『シン・仮面ライダー』の公開など注目されることの多い庵野氏ですが、そんなルーツの一本を実際に体験する機会として、今回の『トップをねらえ!』のリバイバル上映を活かしてみてはどうでしょうか。そんな鑑賞の一助となれたら幸いです。
劇場情報:https://v-storage.bnarts.jp/gunbuster/gunbuster-theater/
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