『カルト』はネタバレなしで見た時の衝撃が相当に凄い作品なので「実はみようと思っていた!」みたいな人はこのままプライムビデオのリンクを踏んで見るんだ!
そんなわけでこんにちは。えのきです。
今回紹介する映画は『戦慄怪奇ファイルコワすぎ!』等を手掛けた白石監督の作品『カルト』です。
『カルト』はコワすぎに負けず劣らずの個性の塊のような作品でありながら、コワすぎシリーズと違い一本で完結(諸説あります)するためある意味白石監督作品のノリを掴むのに最適な一本かもしれません。
それではあらすじへ行ってみましょう。
カルト
そこで三人は母と娘で暮らす家が怪奇現象に襲われる様子を撮影したビデオを見ることになる。
「優ちゃん、真悠子、茉里にはこの件が解決するまでをリポートしていただきます」
そんな言葉と共に三人のリポートが始まるが、よくある心霊番組と思われたそのロケは意外な方向へと展開していく。
現場へ同行した霊能力者の雲水による除霊が試みられるが雲水の想定を上回る怪異の驚異により、失敗。
事態を重く見た雲水により呼び出された師匠である龍玄による除霊が行われる。
龍玄の除霊により、怪奇現象は解決したかのように見えたが、怪異は解決していなかった!
怪異により倒れる龍玄と雲水。
「あれは人間が触れちゃいけないもんだったんです」
その言葉と共に龍玄は事態を自分よりも遥かに強力な力を持つという霊能力者へと託す。そして現れる最強の霊能力者『ネオ』
今、最強の霊能力者『ネオ』と怪異との壮大な戦いが幕を上げた!
あらすじの時点で壮大なことになっていますが『カルト』の魅力はホラーというジャンルの文脈から物語が開始していながら、徐々にバトル物のような文脈にすり替わり、最強の霊能力者であるネオ様が登場したところを境にヒーロー物へ完全に文脈が塗り変わるところと言えるでしょう。
何気なく見ていると「軽い気持ちで怪奇現象に関わって大変なことになる」「霊能力者や霊感のある人間がなんとかしようとするがどうにもならない、むしろ大変なことになる」と言ったある種のお約束、様式美が展開されていきます。そこに「ギャー!!!こええよ!!!」と叫ぶも自由、「あるある」と思うのも自由、「はいはい知ってる」と感じるのもまた自由です。
しかし、それがあっという間にひっくり返る。
「あれ?自分今ホラー映画見てるんだよな?見ていたはずだよな?え、ええ……?」となる大転換が『カルト』の視聴感の面白さです。
「バトル物の文脈」として見返した時には初見時以上の情報量が「ホラー物の導入」の中に込められていることがわかるでしょう。
前半と後半の大転換が特に強烈なポイントではあるのですが、要所要所でフックとなる要素が散りばめられており、そこもまた面白さのポイントとなっています。
ビジュアルからのキャラ造形
霊能力者のコスチュームなんかもわかりやすいフックの一つでしょう。
初見時に「こ、コスプレみたいじゃん……!」となる霊能力者の雲水。
いや、これで住宅街に一人でいたらちょっと怖いよ……とツッコミたくなる気持ちもあるにはあるのですが、雲水の師匠にあたる龍玄が出たあたりで「なんか安っぽい格好している」の意味合いがこれまたちょっと変わります。
続きまして師匠の龍玄です。
龍玄の方がより「らしい」格好に私は感じるのですが、どうでしょう?
霊能力者の格としても師弟関係である故に龍玄>雲水という格が示されているため、コスチュームがそのまま視覚的なキャラクターの強弱に回収されます。
そこで雲水さん、龍玄の二人が倒れたあとに登場する最強の霊能力者であるネオ……その格好を見てみましょう。
霊能力者!?!?!?マジ!?!?!?
プリン頭、ホストのような格好、態度の悪い振る舞い「えっ、霊能力者って徳が高い人たちじゃなかったの……」と他でもない『カルト』本編にて積み上げられた霊能力者イメージがいともたやすく破壊されます。なんだよ霊能力者って。
丁寧にすり替わる文脈
『カルト』では序盤から「御払い」という体裁でホラー系のお話で行われる流れがあります。
個人的にはこの流れは洒落怖(洒落怖とは、2chオカルト板のスレッド「死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?」の略称)等である「除霊を行うが怪異が強力すぎてなすすべもなく殺されるor不幸な結末に終わる」という様式に沿っているようでありながら、徐々にスイッチしていきます。
「師匠の龍玄の力を借ります」
なすすべなくやられる人間……と見せかけて更にその上の序列の霊能力者が出てくるわけです。なおこの時の龍玄の除霊アシストはリモートで行われます。電話越しに除霊ってマジかよ!
残念ながらこのあとの龍玄も怪異の前になすすべもなく……といった展開はあるのですが、これが繰り返されることで「人間がなすすべもなく殺される怪異」ではなく「人間が勝てない怪異」という恐怖の存在である怪異に「勝ち負け」という概念が付与されていきます。
そして現れる霊能力者ネオ。
彼の強烈なビジュアルにより「え、なんかこのノリおかしくない?」と意識させつつ、怪異に対してネオが無双していく様が描かれます。
雲水の勝てない怪異。
雲水より強い龍玄すらも負ける怪異。
という文脈からの圧倒的に怪異に勝てるネオ。
という序盤では「怪異の恐怖」を強調するメソッドが途中から「バトル物の強敵」を立てるメソッドに転換されるのです。
霊能力者ネオの登場からそれまで見せられていた「不条理な怪異」は解体されていきます。
抗うことがほとんど出来なかった怪異に対して
・雲水が岩佐真悠子から除霊しきれなかった取り付いた怪異を見抜き一瞬で除霊。
・現れた怪異を蝋燭を用いて撃退
さらにはこの事件を取り巻く怪異の根本すらも霊能力者ネオは解き明かし、暴いています。
初めてみた時は怒涛の無双っぷりに「ね、ネオ様かっこいい……」と震えます。
ここからネタバレ多めの記事になります
丁寧に打たれた布石
さて、ここまで霊能力者にばかり注目してきましたが、実はリポーターであるあびる優、岩佐真悠子、入来茉里にも一捻りが存在しています。
三人は物語の導入時にこんな話をします。
「なんか今日朝起きた時から物凄い嫌な予感、悪い予感っていうか嫌な予感(がした)……」と語るあびる優。
「あ、そう前心霊スポットで失神とかしたんですよ」と語る岩佐真悠子。
「小学生の時にスプーン曲げとかできたことがあります」と語る入来茉里。
初見時には心霊番組の顔合わせ時ということもあり見落としがちですが、三人はそれぞれ違う霊能力の資質を持っているのです。
「これ、何やってるんですか?」
「お前が呪いの爆弾見つけんだよ」
あびる優は探知系の霊能力の素質を持っています。
いや、嘘じゃないんです、嘘じゃないんです。
「いいか、俺今力が出ない。だからお前のその憑依体質を利用して、この人間を助ける。俺を信じろ」
岩佐真悠子は憑依体質。
あびる優の探知能力、岩佐真悠子の憑依体質は作中で様々な形で利用されます。
一見唐突に描かれる二人の特性ですが、それが最初の顔合わせ時から描かれており、布石の打ち方が巧妙です。
そしてスプーン曲げが出来たと語った入来茉里……
職場の上司を昏睡させる。
突然霊能力者ネオの前へ生き霊として出現
そして……!
いやなにが起きてるんだよ。
と誰もが困惑する大活躍をします。
『カルト』は突拍子もない怒涛の展開が後半押し寄せますが他にも『何気ない会話が実は相手の能力を探っている』『安全を祈っているようで実は妨害をしている』などの描写が積み重ねられており「あれってそういう意味だったの!?」となる描写が多く存在しています。
一回目は怒涛の展開に驚きながら、複数視聴にも足る膨大な情報量も『カルト』の魅力です。
霊能力者ネオの『力』の根元に迫る。他作品(白石ユニバース)との関わりとは!?
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