こんにちは。えのきです。
みなさんはホラー映画、好きですか?
私は好き……かもしれないけどビビりまくります。ホラー映画を見ると「ギャアアアア!」と声を出して大騒ぎをするし小学生時代にリングのCMを見ればテレビがある部屋にいるのが怖くなり、かといってテレビが付いていないと急について貞子が出てきたら嫌だからテレビ付いていないとテレビのある部屋に入れなくなり、よせばいいのに気になってリングの原作に手を出した挙句ガタガタガタガタ震えまくって鏡を見る1のが怖くなり、小学生の時期のほとんどが「民法のチャンネルはCMで怖い予告があるから嫌だ!」とほとんどNHKばかり垂れ流すという愚行に手を染めていました。社会人になってからも友人の家でVRのバイオハザードをやったら「うおおおああわあああああ!」とヘッドセットを取っ払い、涙の後を残しました。本当に怖かった……
それでもついついなんだかんだホラー映画を見てしまうんですよね……どうして……
そんな私ですが、私のホラー映画観が大きく変化したホラー映画シリーズがあります。
優れた作品はそれまでの作品観を一変させる。それを人生で得られることは何度かありますが、それまで苦手だったホラー映画ですらそれ以降、比較的ホラー映画を見ることが出来るようになったのは私の人生で大きな転機でした。
それが、白石晃士監督の「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」です。
あまりにハマってしまいそれまでは見たら数日寝つきが悪くなるホラー映画を以前よりはトラウマにならなくなり2、コワすぎ!の上映イベントに行ってしまうくらいにハマってしてしまいました。
そんなコワすぎ!がニコ生で近々一挙放送されるということで、「ぜひ今まで見たことない人に見て欲しい!」そう思って紹介をしようと思い今回の記事を書くことにしました。
そんなわけで、今回は「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」を紹介しようと思います。
「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」は2012年からビデオリリースを中心に展開されているフェイクドキュメンタリーのホラー映画シリーズです。
第1作、『戦慄怪奇ファイルコワすぎ!FILE-01口裂け女捕獲作戦』のあらすじはこんな感じ。
ディレクターの工藤仁、ADの市川実穂、カメラマンの田代正嗣は自分たちのドキュメンタリー「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」の撮影として口裂け女の調査に乗り出す。徐々に口裂け女の情報が集まるにつれ、口裂け女のルーツがある呪術の家系にあることを知り……
コワすぎ!は「投稿者から送られてきた心霊現象・怪奇現象を実際に取材し、調査・研究を行う」といった形式のホラー映画の様式に沿って進行するのですが、ホラー映画というパッケージの印象を覆す、暴力と生命感にあふれた手に汗握る世界と時空を股に掛けた大事件となっていきます。
コワすぎ!の魅力、それは破壊される様式にあると思います。
自分がホラー映画を初めて知った、見た時に感じた圧倒的な恐怖、それは理不尽さにあったと思います。わけのわからぬまま、呪いなどのルールを課せられ、そこから逃れようともがきながらも知らず知らずのうちに怪異によるルールに舗装された道を歩み、やがて破滅する。ある日、唐突に知らぬ不条理な世界に足を踏み入れてしまう、そこの世界の規則に絡め取られてしまう、それが恐怖の根源的な部分であったように思います。
コワすぎはそのホラー的な様式、従来の心霊現象・都市伝説のオマージュを踏まえながらもホラー映画に存在しているおどろおどろしい不条理————運命に逆らおうとする型破りな作品と言えるでしょう。
『FILE.01口裂け女捕獲作戦』ではまだホラードキュメンタリーとしての体を成しているのですが、すでに第1作からその型破りさは垣間みえています。
都市伝説として非常にメジャーな口裂け女を扱いながら、作中で取材を重ねるうちに口裂け女のルーツとして語られる呪術の家系、鬼という単語、最初のうちは「ああ、口裂け女ね、知ってる知ってる」というノリで見ていたものが徐々に形を帯びていき全く新しい口裂け女像を作り出していきます。
しかし、コワすぎの魅力はただそのようにこれまでのホラー的要素への造詣が深いだけではありません。
圧倒的な暴力により迸るホラー映画の様式への反逆がそこにあります。
登場人物が生命感にあふれ、物語を駆動させていく。ひたすら自らの欲望のままに突き進む果てしないエネルギーがそこにあります。
コワすぎのメインの登場人物は三人います。ディレクターの工藤仁、アシスタントの市川実穂、カメラマンの田代正嗣。
俗物かつ暴力で物語を牽引する工藤。
その工藤にかなりの無茶ぶり(妙に怪異に対して割とドン引きしたり、時には工藤にパシられたりして、心底面倒臭そうなテンションでありながら後半には工藤と別ベクトルの強い個性を発揮しだす市川。
カメラマンという立場のため通常言葉を発しませんがたとえ脅されようと、どのような酷い目に会おうとカメラだけは絶対に回し続ける田代3。
彼ら4が時に言い争い、時に仕事上の必要性から行動を共にしていきながら、やがて世界の謎を解き明かすために同じ目的意識を持って「コワすぎ!」という作品を完成させようと腐心する様は心を打つものがあります。
主人公の一人であるディレクター、工藤仁はその代表でしょう。
工藤は危険を伴う口裂け女という都市伝説の存在であろうと「捕獲するぞ」と言います。
どうするのか。口裂け女を車で轢き殺そうとします。実際に車で衝突します。
工藤は車で口裂け女にダイレクトアタックしかけ、バットを片手に追いかけ回します。霊能力者でも超能力者でもない、ディレクターの工藤ですが圧倒的な暴力を武器と作品作りへの欲望、そして秘められた過去を原動力に大暴れするのです。
そしてFILE-01で手に入れる口裂け女によって作られたと思われる呪具。これをメインウェポンにしていきます。コンビニの袋で保管します。呪具をコンビニ袋で保管するな!5
FIEL-02では前作で手にした呪具を使い、怪異によって正気を失った投稿者に呪具を装備させて「呪いの飾り物が勝つのか!幽霊が勝つのか!実験だよ実験!」と叫びながら廃墟に現れた幽霊による怪奇現象に真っ向勝負を挑みます。実体としては呪具を装備させた投稿者をひたすらビンタして殴りまくるという最悪な絵面ですが。
工藤の「絶対に面白い心霊ドキュメンタリーをとって金を稼いでやる!」という徹底した俗物精神、また物語が進むにつれて徐々に明かされる彼の過去に隠された因縁がコワすぎという作品における怪異を、人を理不尽に破滅させる存在でありながら、「徹底して抗わなければいけない宿敵」として肉付けしていきます。
その宿敵としての怪異の要素が色濃く出るのは第三作目にあたるFILE-03【人食い河童伝説】でしょう。
コワすぎではほぼ毎回のようにゲスト霊能力者が登場するのですが、工藤と通ずる悲しみを背負った霊能力者、鈴木と協力して共同戦線を張ることになります。
『五芒星の中心に工藤が立ち河童を迎え撃つ』
『五芒星の中心に工藤が立ち河童を迎え撃つ』
『五芒星の中心に工藤が立ち河童を迎え撃つ』
決戦術式——こんな光景がホラー映画で見られるなんて……人間はなんて強いんだ……
一見ネタのようで笑ってしまいますがこのシーン、めちゃくちゃに熱のあるシチュエーションとなっています。
かつて河童によって娘を奪われた過去を持ち、復讐に燃える霊能力者である鈴木。彼は娘と二人でいた時に河童に娘を奪われたが故に警察、家族、誰もその言葉を信じてくれません。信じてもらえないが故に妻にも離れられ、鈴木はただ一人、河童が生息する池の周囲に住み続け、その復讐の機会を探っています。
鈴木が修行して得た力は陰陽術。しかし河童との決戦のためには鈴木以外にもう一人、命がけで河童と戦うことを選ぶ人が必要でした。
しかし、もちろんそんな鈴木の言葉は誰にも信じられることはありません。家族ですら見放し、狂人の戯言と切って捨てられたであろう彼の心境はいかほどのものであったでしょう。
鈴木は語ります。警察からも娘を殺した犯人ではないかと疑われたと。キチ○イ、犯罪者のそしりを受けたと。それでもなお、娘を取り戻そうと、娘を奪った河童に復讐を果たそうと牙を磨き続けます。
これは私の想像ですが、そこにどれほどの葛藤があったことでしょう。誰も信じてくれない、誰も助けてくれない中で河童に娘を奪われたと信じて牙を研ぎ続ける日々。周囲の人々のいう「キ○ガイ」というそしりこそが実は真実なのではないか?と悩んだ日もあるのではないでしょうか。本当は自分の手で娘を殺していて、それを狂気で覆い隠しているのではないかと。
既に自分が正気を失い、ただ妄想に取り付かれているだけなのではないか……と、すら思ったのではないでしょうか。
そこに訪れるのが工藤をはじめとしたコワすぎのスタッフたちです。
「鈴木さん、俺それ信じるわ。一緒に河童捕まえようよ」
「何が一緒に捕まえようとか言ってんだよ。お前らと違うんだよ。俺は命かけてやってんだよ」
「いや、命かけてんのはこっちも一緒だから。本気でやってるから俺ら」
はじめは信じない鈴木ですが、工藤の熱心な説得、そして工藤に渡されたそれまでの工藤たちの活躍をコワすぎのDVDを見て心を動かします。
「娘さん生きてりゃいいな」
「うん」
そんな長い歳月を経た、願いの果ての決戦がそこにあります。
コワすぎでは一見すると笑えるようなトンチキなシーン、型破りなシーンが頻出します。それは低予算故のチープな映像であったり、登場人物の異様な情熱による奇行に限りなく近い行動であったりと様々ですが、作中でふざけている人間は一人もいません。
ただただ暴力と情熱に彩られながら怪奇現象と解き明かし、番組を作ろうという信念だけが存在します。はじめは怪奇現象に対して否定よりであったADの市川ですら、徐々にその現象の存在を信じ、怪奇現象を、そしてこの世界に迫る危機を解き明かそうと行動を始めます。
シリーズを重ねるにつれ、口裂け女、廃墟に現れた震える幽霊、河童などの怪異、トイレの花子さん等のピースが徐々に繋がっていきます。
やがて明かされる工藤の過去。それは自らが従うべき運命の提示でした。
遥か昔から設定されていた業、抗えぬ自分の運命、逃れられぬ不条理を突きつけられた時に人は果たしてどのような選択をするのか、そして世界は……そんな手に汗握るスケールの物語が展開されていきます。
今回触れたコワすぎのストーリーは前半のほんの断片にすぎません。
細かな工藤と市川のやり取りに滲み出る工藤の怪異を捕まえようとする割に心霊スポットでは執拗に市川に先に歩かせる小者っぷりや「おい撮ってるんじゃねえぞ」と言われて「はい」と言葉では言うのに平然とカメラを回し続ける田代のフェイクドキュメンタリーあるあるでありながらネタ、あるいは狂気ともいえる情熱にまで達した撮影への執念、見れば見るほどキャラクターや周辺の設定に味が出てくるシリーズとなっています。
記事では触れていない、私が特に好きな「ホラー映画、フェイクドキュメンタリーでこんなこと出来るのか!」と感動した作品はFILE-4なのですがそこから先はぜひ実際に見てその衝撃の視聴体験を味わって欲しい……そう、思います。
ホラー映画でありながら、従来のイメージを破壊した力強い異色のホラー映画。恐怖だけでない、手に汗握る壮大な物語である「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」
夏というにはまだまだ早い時期ですが、手を出してみるのはいかがでしょう?
「怪異相手にADをポケモンのように扱う工藤」「通りすがりの女性のパンツを奪って食う田代(監督本人)」あたりも一押しポイントですね!
by編集部
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- 原作だと死に方が違うんです
- 見ると未だに悲鳴はあげています
- 田代は実は監督である白石監督自身で演じていたりもします。
- 主に工藤と市川が。
- のちに専用の袋が手に入りますが結構な期間コンビニ袋で保管・携帯されます。
トレンチコート、長身、マスクの怪しい女を捉えた投稿映像がある制作会社に送られてくる。その映像にはその女は物凄いスピードで走り投稿者たちを追いかけ、パニックに陥る様が映されていた。