今、ディズニーのアニメーション映画はとても重要な時期を迎えています。
ウォルト・ディズニー・アニメーションスタジオは100周年というおめでたい節目を迎えつつ、興行的な成績が実は著しく芳しくない状況にあります。そんなタイミングで発表された2023年最新作『ウィッシュ』。この作品がどんな狙いのある作品で、具体的にディズニーのどういった状況を打破しなければいけないのか、公開まで半年以上に先駆けて追っていきます。
ディズニー新作『ウィッシュ』のトレーラーが解禁!
ついに公開されたウォルト・ディズニー・アニメーションスタジオの2023年最新作『ウィッシュ(原題:Wish)』。ウォルト・ディズニー・カンパニーの創立100周年という節目にあたっての記念作として公開される作品です。
ウォルト・ディズニー・アニメーションスタジオといえば、ディズニーグループの中でもまさに“本家”とでも言うような制作スタジオ。今やピクサーやマーベルなど様々な企業を取り込んでいるディズニーは「もはやどこが本体なんだ?」とわかんなくなってきますが、ウォルト・ディズニー・アニメーションスタジオこそ『白雪姫』(1937)や『ピノキオ』(1940)から連なるディズニーといえば「この作品!」と言う数多くの古典作品を制作してきたスタジオで、まさに今回の100年という節目を担う立場にある存在です。
そんな記念作である『ウィッシュ』のテーマは“願いの力”。願いの力をまだ知らない17歳のアーシャが主人公です。王国の人々を大切に思っていた彼女ですが、ある出来事をきっかけに王国に隠された秘密を知り、恐ろしいヴィランに立ち向かっていくドラマティック・ミュージカルとなるそうです。
監督を務めるのは『アナと雪の女王』シリーズで監督を務めてきたクリス・バック氏と、同じく『アナと雪の女王』(2014)であったり『ズートピア』(2016)などでストーリーアーティストを務め、『ラーヤと龍の王国』(2021)ではヘッドオブストーリーを務めたタイ出身のファウン・ヴィーラスンソーン氏が連名で担当。ファウン氏にとっては今作が初めての監督作となります。
『スパイダーマン・スパイダーバース』以降の流行に沿った新作?
今回発表された映像の驚きはやはりそのルック!
3DCGアニメーションではありながらも、その見た目は古き良き2Dアニメーションを思わせます。直近で公開されたウォルト・ディズニー・アニメーションスタジオ制作の『ストレンジ・ワールド もうひとつの世界』(2022)や『ミラベルと魔法だらけの家』(2021)などに比べると明らかに違ったスタイルの作品となっています。
この2Dアニメーションに寄せたスタイルはちょうどアメリカの大手スタジオでは流行のスタイルとなっています。きっかけとなったのは『スパイダーマン・スパイダーバース』(2018)の大ヒット。この年のアカデミー賞の長編アニメーション部門を始め、アニメーション賞を総ナメと言っても過言ではないほどの多大な評価を獲得しました。それ以来、後続の作品も2Dテイストに寄せた作品がどんどん登場していきます。
日本のアニメーションのようなディフォルメ具合もポイントとなっている『わたし時々レッサーパンダ』やコマ落とし演出が際立つ『ウィロビー家の子どもたち』(2020)や『長ぐつをはいたネコと9つの命』(2022)、そして『スパイダーマン・スパイダーバース』のソニー・ピクチャーズ・アニメーションが送り出した完全新規作『ミッチェル家とマシンの反乱』(2021)。さらには今後公開の作品では『ミュータント・タートルズ ミュータント・パニック!』(2023年8月25日公開予定)も2Dスタイルの3DCG作品となるようで、現在進行形で『スパイダーマン・スパイダーバース』のヒットをきっかけに3DCGアニメーション作品では2Dアニメーションのテイストを兼ね備えたスタイルが多数登場してきています。
『ウィッシュ』の映像を見ると、ある意味“やっと本家ディズニーもこの流行に合わせてきたか!”という感想が漏れるかもしれません。しかし、実は3DCGアニメーションと2Dアニメーションを組み合わせた映像表現への挑戦は、『スパイダーマン・スパイダーバース』の登場以前からウォルト・ディズニー・アニメーションが挑戦していたことは忘れてはいけません。
ディズニーの短編アニメーションシリーズでの挑戦
ウォルト・ディズニー・アニメーションスタジオが2Dスタイルのいわゆる手描きアニメーションの制作を断念したのは『プリンセスと魔法のキス』(2009)や『くまのプーさん』(2011)の不振とされています。それ以来、長編作品については3DCGアニメーションの制作に完全にシフトしていくことになりました。
そんな矢先に発表された短編アニメーションが『シュガー・ラッシュ』(2012)の併映作品として劇場公開された短編アニメーション『紙ひこうき』(2012)です。
本作はある女性にアプローチするために紙飛行機を飛ばして気づいてもらおうとする男性の物語。基本的にはモノクロの作品となっており、色味の情報も少ないせいかパッと見では3DCG作品とはわからず、手描き作品ではないかと思ってしまうようなビジュアルの作品でした。
ここにさらに全体的に着色を試みたのが、『ベイマックス』(2014)の併映作品として上映された『愛犬とごちそう』(2014)。ジャンクフード好きの犬という、健康的な心配をしてしまうような内容なのですが、やはり驚くべきはスクリーンショットだけ見たら3DCG作品とは思えないようなマットな質感でしょう。これらの作品を生み出せたのはディズニーが独自開発したMeanderというソフトの恩恵が大きく、3Dのモデルを動かして自在に演技をさせつつ、2Dのラインがその動きに追従し馴染ませて見せることを容易にさせました。
それらの技術を結集させた最新作となったのが『ミラベルと魔法だらけの家』の併映作品として公開された短編『ツリーから離れて』(2021)です。好奇心旺盛な子アライグマとそれを制止しようとする厳格な親アライグマの物語で、もはや3DCGなのかどうかすら分からないレベルで手描きアニメーションと勘違いしてしまうほどの作品を生み出せるようになりました。
こうしてウォルト・ディズニー・アニメーションスタジオの3DCGと2Dアニメーションの融合は独自に短編アニメーション作品を舞台にその成長ぶりを私たちに見せてくれていたのですが、その技術がついに長編アニメーションで全面的に活かされていくのかもしれません。
不調が続くディズニーのアニメーション作品
一方で、せっかくのアニバーサリーイヤーだというのにディズニーの長編アニメーション作品は評価においても興行においても、あまり振るっていないという視点もあります。
2023年公開の長編アニメーション作品であるピクサーの『バズ・ライトイヤー』(2022)とウォルト・ディズニー・アニメーションスタジオの『ストレンジ・ワールド もうひとつの世界』はどちらも制作費や広告費などに対して、収益が上回ることができなかったことが報じられています。『ストレンジ・ワールド もうひとつの世界』のオープニング成績に関しては、公開がコロナ禍かつディズニープラスで劇場公開と同時に有料配信のあった『ラーヤと龍の王国』を除くとディズニーアニメ史上ワーストとなる成績でした。そういった不調ぶりもあってか2023年3月末にはディズニーCEOのボブ・アイガー氏が提唱するコスト削減の一環として、7,000人規模のレイオフ(一時解雇)が発表されたばかりです。
『ストレンジ・ワールド もうひとつの世界』がお家芸とも言える定番のプリンセス物でなくSFアクション作品であることや、物語の主軸とは別に主人公が同性愛者という設定が盛り込まれていたりと、他のディズニー長編作品に比べると相対的にかなり挑戦的な作品にはなっていました。とはいえ作品の出来が著しく悪いというわけでもなかっただけに、極端な興行成績の低さが心配になる結果でした。新型コロナウイルスの影響も弱まり『ミニオンズフィーバー』(2022)のような興行的な結果が上々な作品が登場して間もない状況での結果だっただけに、余計に不安になります。
今、あまり勢いがないディズニー映画。この『ウィッシュ』がそれを一転させてくれるきっかけとなってくれるといいのですが、果たしてその願いこそ叶うのか。日本での公開日は2023年12月15日(金)(アメリカでは11月22日公開)。その答えは今年の年末に明らかになります。
ウィッシュHP:https://www.disney.co.jp/movie/wish
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