映画『12人のイカれたワークショップ』レビュー|役者と映画はどこまでイカれることができるのか!?

映画や舞台はもちろん、テレビでも日ごろから目にする役者。作品に出演し、演技をすることで収入を得る職業ですが、彼らがどんな思いを持ち、どんな目標を掲げ、どんな葛藤を抱いているのか…。そこまでは作品から伝わることがほとんどありません。

そんな身近なようで知らないことが多い「役者」という職業に対して、かなりアウトローな切り口でとらえたドキュメンタリー兼劇映画『12人のイカれたワークショップ』が11 月 19 日(⾦) よりアップリンク吉祥寺ほか全国順次公開されます。

役者が作品に全神経を注ぐヒリヒリした稽古や、課題作品に向けて意見と演技をぶつけ合うワークショップの様子は、まさに俳優をイカれるまで追い詰める内容となってました…!

映画『12人のイカれたワークショップ』あらすじ

<あらすじ>
中学教師・河中が迎える、初めて担任を持った生徒たちの卒業式。不協和音のようなチャイムが鳴り響いた途端、学校中の生徒たちが姿を消した。教頭の青山は「みなさんの役目は終わりです」と銃を乱射し始め、体育教師の安保は鉄パイプを振り回し次々と教師を襲っていく。そんな中、用務員の栗橋が「上位存在」について、そして今からなすべきことを告げる。「音を聞く者、知識を得る者、そして法則を知る者に会え!」 河中と同僚の教師・上條、千々岩らは、この不条理極まりないゲームに身を投じ、上位存在とは何かを知るべく、外界から閉ざされた【静かな卒業式】を彷徨うのだったーー。
…というワークショップの課題映画へ向け奮闘する、12人の俳優たちのリアル群像劇。
(公式サイトより:https://atemo.co.jp/ikawaku.html

あらすじのとおり、本作の全体像はあくまでワークショップの様子を捉えたドキュメンタリーです。そこに課題作品となる劇映画が足されるとやや複雑な印象を受けるかもしれませんが、簡単に流れを説明すると…

①    ワークショップ参加者のオーディション
②    ワークショップを実施
③    課題作の台本を配布
④    課題映画『しずかな卒業式』本編

このような構成で進んでいきます。課題作品に向けて奮闘する役者たちの姿をとらえ、役者として生きる12人の心境を緊張感あるテンポでどんどん見せていく映画です。

監督を務めるのは「ウルトラマン」シリーズの多くに参加し、「ウルトラマンZ」や「ウルトラマントリガー NEW GENERATION TIGA」ではメイン監督を担当する田口清隆。ワークショップの課題作品「しずかな卒業式」の脚本を執筆するのは『日々ロック』『劇場版ファイナルファンタジーXIV光のお父さん』などで知られ、2020年5月に亡くなった吹原幸太です。田口監督が率いるワークショップ、吹原幸太が生み出したSFホラーの2部構成のような映画になっています。

役者たちが表に出さない葛藤を映し出すドキュメンタリー

©「12 人のイカれたワークショップ」製作委員会

一見、映画の舞台裏を捉えたドキュメンタリーのように見えますが、本作のメインはあくまで役者たちです。

カメラはオーディションを勝ち抜いた役者12人の経歴、生活、目標などに迫っていきます。24歳で経歴も浅いフレッシュな若手もいれば、独り身で中年になってもひたむきにオーディションを受け続ける人、結婚生活を捨てて役者の道に戻る人などなど…。12人それぞれの役者人生がぎゅっと詰まった人間ドラマとしても見応えがあります。

一方で12人全員が「役者を目指す人生はガムシャラで楽しいです!」というわけではありませんでした。

このままオーディションを受け続けることを迷う人、自分の演じたい役の方向性で迷走する人もいます。既婚の役者はパートナーに家計を支えてもらっていることに、ふがいなさを感じている様子が見られました。職業は異なりますが、筆者もライターとは言うものの、兼業ゆえ四捨五入すればバイトの身…。自分が目指す職業で生活を共に支えられない苦悩に共感すると同時に、自分も気合を入れねばと刺激を受けました。

しかしどれだけ苦しみ、迷っても、彼らは「職業:俳優」を目指し続けます。テレビや映画に映る役者の世界が華やかに見える一方で、「職業は役者」と胸を張って言えるように、何度も人生の取捨選択を迫られながらも“目指してしまう”…。それだけこの職業にはイカれた魅了があるのかもしれません。

役が出来上がっていく過程が見られる珍しい作品

©「12 人のイカれたワークショップ」製作委員会

本作は「しずかな卒業式」という課題作品に向けて、12人の役者が役を完成させていく様子も必見です。出演する作品の本編と、その準備に試行錯誤する様子が地続きで見られる映画はレアだと感じます。

特に筆者が印象的だったのは、台本を渡された12人がそこにはない設定やキャラクターの背景を相談して固めていくシーンです。「映画はみんなで作るもの」というのは素人の筆者でも想像できますが、同時に「役は個人で作るもの」という意識があり、その考えが大きく覆されたシーンでした。

自分と関係のあるキャラの性格までくみ取ったうえで役を固めたり、相手の凶器を奪う場面ひとつにしても、他のキャストが様々な意見を出しながらリアリティを突き詰めていたのです。映画だけでなく、役づくりもみんなで行なう様子が見られるのもユニークです。

役者と映画はどこまでイカれることができるのか?

©「12 人のイカれたワークショップ」製作委員会

この映画の最大の見どころは「役者はどこまでイカれることができるのか?」について突き詰めていく点です。

田口監督は12人に「イカれた演技をしろ」と指示を出し、12人がそれぞれ発狂演技を披露します。しかしそこでも監督のダメ出しはあるし、その内容も十人十色。演技の素人からすれば狂人の演技なんて簡単そう…なんて思いますが、実際には作品のカラーやキャラの背景に合わせた繊細さが求められていました。

ただしイカれているのは演技や、先に記述した“役者という職業”だけではありません。この『12人のイカれたワークショップ』の構成自体にも言えるのです。

後半は課題作品「しずかな卒業式」の本編を見ることができますが、そのラストについては観客ももちろん、演者でさえ腰を抜かすような展開が待ち受けていました…。(観客以上に当事者たちが一生忘れないラストシーンになっていることでしょう…!)「どんでん返し」とはまた違った、非常に異色かつユニークな展開を見せてきます。

昨今「このラストは予測できない!」なんて謳い文句をよく見るのであまり言いたくないのですが、こればかりは本当に誰も予測できないと思います…笑

とはいえ、構成の奇抜さだけでなく、知っているようで知らない役者の仕事について知ることのできる内容も個人的には推したいです。役者という職業がいかに難しく奥深いものなのかを教えてくれます。

これだけ厳しい世界で活動をして、胸を張って「職業:役者」と言える人は一握り。生き抜く事さえ厳しい役者の世界を見られる良作でもありました。

映画『12人のイカれたワークショップ』作品情報

©「12 人のイカれたワークショップ」製作委員会

出演:河中奎人/上條つかさ/千々岩北⽃/波多野美希/中野杏莉/安保匠/カンナ/相馬絵美/大村織/甲川創/⻘⼭真利⼦/栗橋勇
ナレーション:⻘柳尊哉
監督:田口清隆/島崎淳
課題映画脚本:吹原幸太
製作:島野伸一/國保尊弘/田口清隆/和田有啓
プロデューサー:島野伸一 
撮影:井野口功一/辻本貴則 
録⾳:間野翼
メイク:海⼭真由⼦
美術:畑⼭友幸 
操演特殊効果:辻川明宏/遊佐和寿
制作担当:三島祐 
⾳楽:百瀬巡
製作:「12 人のイカれたワークショップ」製作委員会 制作:ジェイロックアジア マジカル
配給:Atemo 2021 年|カラー|16:9|ステレオ|DCP|PG12|106 分 ©「12 人のイカれたワークショップ」製作委員会
11 月 19 日(⾦) アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

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