『シュレック』シリーズが沈黙を破る!『長ぐつをはいたネコと9つの命』はなぜ登場まで10年もかかってしまったのか?

企画の発表から公開まで時間がかかってしまう映画は数多ありますが、2023年3月17日に公開をスタートした『長ぐつをはいたネコと9つの命』も実はそんな完成まで時間のかかった一本です。
2012年にシリーズ第一弾が公開されてからなんと10年以上の時を経て今回の続編が登場となった『長ぐつをはいたネコ』。なぜこれほど時間がかかってしまったのでしょうか

10年越しの『シュレック』シリーズ最新作!?

『長ぐつをはいたネコ』はもともと映画『シュレック』のスピンオフ作品として登場しました。『シュレック』といえば有名なおとぎ話のキャラクターが数多く登場するシリーズ。その中で“長ぐつをはいたネコ”のプスとして『シュレック2』(2004)にてシュレックを狙う殺し屋として初登場しました。それ以来シリーズのレギュラーキャラクターとして、主人公シュレックの仲間として登場し続け、2011年についにプスが主人公となった映画『長ぐつをはいたネコ』が公開されます。

もともとの『シュレック』シリーズは『シュレック フォーエバー』(2010)を最後にシリーズが途絶えており、2010年以降の展開としてはもっぱら長ぐつをはいたネコに関連した展開ばかりが広がり、短編『長ぐつをはいたネコ「悪の三銃士」』(2012)やTVシリーズ『The Adventures of Puss in Boots』(2015・日本未公開)といった作品が制作されてきました。そんなTVシリーズも2018年にシーズン6が制作されたのを最後に終了しており、『シュレック』シリーズとしては10年以上。『長ぐつをはいたネコ』シリーズとしても約5年のブランクを経ての新作となっています

実は消えかけた作品だった『長ぐつをはいたネコ』の続編企画

それだけ久しぶりとなった『長ぐつをはいたネコと9つの命』ですが、実は企画自体はかなり前から発表されていました。

長編映画シリーズ第1弾の『長ぐつをはいたネコ』の成功からまもなく、続編の制作が進んでいることが報じられており、2014年ごろには『Puss in Boots 2:Nine Lives & 40 Thieves』というタイトルと共に2018年の公開が発表されていました。当時のタイトルから予想するに“アリババと40人の盗賊”をベースにした作品が登場予定だったと思われ、監督には『スパイダーマン スパイダーバース』のボブ・ペルシケッティ監督の名前が上がっていたのですが、残念ながらこの企画は実現せず、いつの間にか公開の話も出てこなくなりました。

こうしてこっそり凍結企画となっていたかと思われた『長ぐつをはいたネコ』の続編映画ですが2020年に突如として、リリース予定に復活。監督をかつて報道されていたボブ監督から『クルードさんちのあたらしい冒険』のジョエル・クロフォード監督にバトンタッチし、見事に企画が復活しました。

ドリームワークスアニメーションの苦難の2010年代

思えば2010年代は『シュレック』や『長ぐつをはいたネコ』などを制作するドリームワークスアニメーションにとって苦しい時期でした。

2015年には経営難から500人級の大規模なレイオフを実施し、2016年にはNBCユニバーサルに買収されユニバーサル傘下へと下ります。会社自体の状況の変化が、作品の制作体制に影響を与えたことは間違いないでしょう。

こと日本においてもドリームワークスアニメーション作品は不遇な事態に陥ります。『マダガスカル3』(2012)の上映を最後に、続く『ガーディアンズ伝説の勇者たち』(2012)以降の長編作品は日本で劇場公開がされなくなってしまいます。この傾向は2010年代中頃まで続き、『ボス・ベイビー』(2018)の登場まで待つことになります。

世界スケールも、日本においても苦労が続いていた中で、『長ぐつをはいたネコと9つの命』は奇跡的に復活し、なんとか完成・上映まで行き着いた映画だったのです。

アフター“スパイダーバース”企画の一つに

『長ぐつをはいたネコと9つの命』の公開までこれだけ時間がかかったことが一つ意外な形で映像に表われています。

それが『スパイダーマンスパイダーバース』以降の流行となっている2D風のアニメーションスタイルです。

2018年に公開された『スパイダーマン スパイダーバース』はその年のアカデミー賞をはじめとしたアニメーション系の賞レースを席巻。以来、新たな3Dアニメーション映画では、立体的な造形ではありながらも、ビジュアルや演出が2Dアニメーションのテイストを踏襲した作品が続々と登場しています。

『長ぐつをはいたネコと9つの命』もその一つで、作中のアクションシーンなどでは、それが顕著に表れています。懐かしいハズのプスとの再会が新鮮な体験として、映るのではないでしょうか。

『シュレック』の復活はあるのか!?

今回のように『長ぐつをはいたネコ』の復活が見られるとなると、期待したいのは大元である『シュレック』シリーズの新作タイトルです。
実は新作が登場しなかったこの間にも、『シュレック』のリブート企画の存在も報道されており、少なくとも『シュレック』シリーズを過去のもののままにしておくのはどうなのか?というドリームワークスのスタンスは感じられます。

その証拠がこの度新しくなったドリームワークスアニメーションのロゴアニメーションです。

近年の話題作やまもなく新作が控えてるドリームワークスのキャラクターたちが多数登場する中、最後に登場するのが『シュレック』のメインキャラクター、シュレック・ドンキー・フィオナ姫の3人です。

ディズニーにおける看板がミッキーマウスなら、ドリームワークスはシュレックがそこを担っているということをドリームワークスとしても意識しているのでしょう。もしかするとこれも今後の『シュレック』新たな展開の伏線かもしれないと、今回の『長ぐつをはいたネコ』の復活劇からも勘繰ってしまいます。

しかも、ディズニーにへの対抗意識から生まれた『シュレック』のイズムを感じられるドリームワークスの新作映画が今月発表されています。

2023年6月30日に海外では公開が予定されている『Ruby Gillman, Teenage Kraken』はクラーケンの少女が主人公。監督は『クルードさんちのはじめての冒険』や『ビーボ』のカーク・デミッコ監督です。

本作では対立する種族に“人魚”が登場していたりと、ディズニーが実写版の『リトル・マーメイド』の公開を予定しているタイミングで本作を持ってくるのはなかなかに挑戦的です。
かつてディズニーの『美女と野獣』へのアンサーとして作られた『シュレック』のように、今作もかつてのドリームワークスらしい反抗的なメッセージが秘められてるのかもしれません。

まだまだ進化や挑戦を続けるドリームワークスアニメーション。引き続き動向が追えるよう、日本でも興行的な成功に期待したいところです。

作品情報

(C)2022 DREAMWORKS ANIMATION LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

公開日:2023年3月17日
製作年:2022年
製作国:アメリカ
上映時間:104分
クレジット:(C)2022 DREAMWORKS ANIMATION LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式HP:https://gaga.ne.jp/nagagutsuneko/

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