映画『Netflix 世界征服の野望』レビュー!その成功の道に、大企業の屍あり…。

『Netflix 世界征服の野望』

今や映画好きだけでなく、ドラマやアニメ好きもその名を知る「Netflix」

使いやすさや配信作の豊富さはもちろん、「Netflixオリジナル作品」は映画界からも一目置かれるクオリティと面白さをもっています。

しかし一方で、「Netflixオリジナル作品」を「劇場公開作品」と同じ扱いをすることに反感を抱く業界人が多いのもまた事実。

アメリカの興行界隈から反発を受けるほか、カンヌ国際映画祭では「Netflixはフランスの規則と税規制を回避してきた」などの理由から「劇場公開しない作品はコンペティション部門に入れない」という新ルールを設けるなど、対立が生まれました。

成功を得た一方で、同業の敵を生みつつあるNetflixって、一体どんな会社なのか?

日本でもNetflixの存在は知れ渡っているにもかかわらず、その実態はよくわかっていません。

そんな中、日本に突如として上陸したのがドキュメンタリー映画『Netflix 世界征服の野望』です。

https://www.youtube.com/watch?v=kzxFgRzsRNM&feature=emb_title

本作ではNetflix誕生の歴史と、スタートアップ企業がなぜハリウッドやカンヌに目をつけられるまでに成長したのかを語ります。

そしてNetflixが猛進して来た成功の道には、ある企業の屍も転がっていたのです…。

起業家は血沸き肉踊り、雇われ社員は震えあがるドキュメンタリー

(C)NotApollo13, LLC. 2018

『Netflix 世界征服の野望』はスタートアップ企業としてはじまったNetflixの歴史や、成功の秘訣を見ることができる作品です。

そして、現在の地位を手にするまでに代償としたものまで、元従業員の口から赤裸々に語っていく構成になっています。

(C)NotApollo13, LLC. 2018
(↑楽観的な社員もいれば、自社の社名にさえネガティブな意見を言う悲観主義者もいるのがNetflix。ちなみに本編はみんな顔出ししているよ!)

Netflixはインターネット普及の波に乗り、DVDの郵送レンタルから事業をスタート。
事業を成り立たせるまでのエピソードは、起業に興味がある人にとって、ワクワクすること必須。

クソ狭い事務所に、クソ大量のディスクを在庫としておき、サーバーがダウンしたら電気屋まで走ってPCなどを購入するなど…トライ&エラーの繰り返し。

また、当時の関係者が嬉々として「起業すると誰も気づかない需要に気づくことがある。だからスタートアップはやめられない」と語るなど、経営者にもかなり刺激の多い内容になっています。

それは後に紹介する、ライバル企業とのガチンコ対決も含めて言えることでしょう。

ただ起業の潰し合いなんて、雇われ従業員としては指を咥えて見ることしかできないので、ある意味、このあとのパートはほとんどホラーみたいな内容でもあります…。

【ROUND1】Netflix VS ブロックバスター

(C)NotApollo13, LLC. 2018

実は『Netflix 世界征服の野望』の内容はライバル企業「ブロックバスター」との対決を半分以上に渡って捉えています。

「ブロックバスター」とはアメリカのビデオレンタル企業。日本でいう「ツタヤ」のような存在です。ビデオテープ全盛期は大手企業として、知らない人はいないほどでした。

しかしNetflixをはじめとする配信サービスの普及に遅れ、2013年に倒産しています。

日本では馴染みのない会社かもしれませんが、『キャプテン・マーベル』ではブリー・ラーソン演じる「キャプテン・マーベル」の墜落したお店が「ブロックバスター」だったりします。

(c)Marvel Studios 2019
↑(『Netflix 世界征服の野望』本編でも引用された『キャプテン・マーベル』のワンシーン。作中の舞台は1995年なので、まだNetflixは誕生していません。)

実は配信サービスが普及する以前から、ブロックバスターとバチバチにやりあっていた企業こそNetflixなのです。

Netflixは独自の配送ルートを確保して宅配レンタルで注目を集める一方で、ブロックバスターも独自のストリーミングサービス「Blockbuster Online」を立ち上げるなど、両社しのぎを削り合います。

しかし何より驚きなのは、当時の戦いに破れた「ブロックバスター」の元役員やサービスを
構築した社員がインタビューに答えていた件
です。

Netflixに会社を潰された立場の人たちが明かす、当時の「潰しあい」。
それは産業スパイを送り込んだり、オンラインサービスのアカウントに、ライバル相手のアドレスがいくつも登録されていたりなど…まさに仁義なき戦い状態。

まだ若いNetflixと違い、ブロックバスターは抱えいている社員などのことも考えると、従業員たちは気が気じゃないだろうなあ…。とも思ったり。

しかし企業のバトルは外部の要因にも大きく左右されてしまいます。

会社の代表が変わって寝言みたいな方針を打ち出したり、業界のバブルが弾けてお金がなくなったり…。

勝敗が分かっていても、『Netflix 世界征服の野望』ではこうした「予期せぬ事態」も盛り込んで解説してくれるので、聞いているだけでもスリル満点でした。

しかしNetflixの前には、まだまだ敵が立ちはだかります…。

【ROUND2】 Netflix VS 業界の常識

(C)NotApollo13, LLC. 2018

『Netflix 世界征服の野望』では、Netflix愛用者の多くが気になる「Netflixオリジナル作品」の原点にも触れています。

実はこの「Netflixオリジナル作品」の原点は、まだストリーミング事業を始める前、宅配DVDレンタル業の頃にアイデアが誕生していたのです。

このエピソードがかなりユニークなので、ぜひ本編を見て欲しい…。
いろいろ端折ったり要約したりすると、不可抗力で中国ポルノがNetflix初のオリジナル作品ということになってしまいました。

こうした不可抗力にも柔軟に対応できるところがNetflixのすごいところなんだなあ〜と思いました(雑な感想)

(C)NotApollo13, LLC. 2018
(↑どうしてそうなった…)

そんなトンデモなスタートだったNetflixオリジナル作品ですが、アカデミー賞を受賞した『ROMA ローマ』や『イカロス』をはじめ、ノミネートも含めるとアカデミー賞の常連となりました。

しかしアカデミーやカンヌでは、ストリーミング限定の作品に賞を与えるべきか否かの議論が続いています。

制作側に自由度を与えることでも有名なNetflixですが、映画監督の間でも配信賛成派と反対派は顕著に分かれているのです。
反対派だと、スティーブン・スピルバーグやクリストファー・ノーランがあたりが有名でしょう。

スピルバーグはアカデミー賞からNetflix作品を締め出そうとしていたし、ノーランはつい最近、ワーナーが作品を配信と劇場で同時公開する方針を打ち出したのを知り、ブチギレていました(この件に関しては、配信とかそれ以前の問題である気もしますが…)。

作中では賛成派として、アントワン・フークア監督やデンゼル・ワシントンも登場します。

とはいえ、Netflixがハリウッドをはじめ、映画界を大きく変えたことは間違いありません。

このドキュメンタリーの面白いところは、のめり込むほど善悪とか倫理観を度外視して、企業が成長していくことの興奮が病みつきになっていたことでした。

【ROUND3】Netflix VS ???

(C)NotApollo13, LLC. 2018

改めて、『Netflix 世界征服の野望』はそのタイトルに恥じない、Netflixの猪突猛進な成長率や革新的戦略に目を見張る作品です。

なぜNetflixはストリーミングに進出したのか?
なぜNetflixオリジナル作品は成功したのか?

そんなNetflix愛好家の疑問にしっかり答えてくれる良作でした。

果たしてNetflixは、これからも業界の常識を壊しながら成長していくのか?
それとも「ブロックバスター」のように、新たな企業とのつぶしあいに負けるのか?

『Netflix 世界征服の野望』を見ると、Netflixオリジナル作品以上に、この企業の将来が気になって仕方がないのでした。

『Netflix 世界征服の野望』作品情報

(C)NotApollo13, LLC. 2018

監督:ショーン・コーセン
製作:マイケル・フラハティ、バレリー・マッゴーワン
原作:ジーナ・キーティング
制作:2019年製作(アメリカ)
上映時間:104分
原題:Netflix vs. the World
配給:TOCANA

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