『ザ・ボーイ 鹿になった少年』孤独な少年は、”死”に心を奪われた。/「のむコレ’21」上映作品

 みなさま初めまして、こんにちは!映画とホラー好きVtuberのミラナ・ラヴィーナと申します。大好きな映画の魅力を世界に発信するべく、Youtubeにて映画の同時視聴や新作映画の紹介などを行っております。
 この度『ザ・ボーイ 鹿になった少年』の紹介記事を書かせていただくことになりました!こちらはシネマート新宿&シネマート心斎橋が贈る劇場発信型映画祭「のむコレ’21」にて上映予定の作品です。
 死に魅了された孤独な少年が恐ろしい邪悪へと進化する……。淡々としながらも衝撃的なホラーサスペンスである本作の魅力をネタバレ無しで語っていきます!

『ザ・ボーイ 鹿になった少年』はどんな作品なのか?

 主人公はアルコール依存症の父親とふたりで暮らす9歳の少年テッド。父親の経営するモーテルの手伝いをして日々を過ごしているが、父親はテッドのことはほとんどほったらかしだし、学校に通っている様子もないので友達もいない。そんな孤独な少年テッドは、車に轢かれた鹿の死体を見たことから”死”というものの魅力に心を奪われる。
 鹿を轢いた男、幸せな家族、騒がしい学生の集団……モーテルにやってくる客たちと交流をする中で、テッドの抑えきれない”衝動”は少しずつ大きくなっていく。子どもらしからぬ邪悪が心に芽生えた少年は、一体何を望むのか……。

孤独な少年テッド。いつも1人で遊んでいます。

 序盤は閑静な…というと聞こえはいいが、周りにほとんど何もない寂れたモーテルでの退屈な少年の日々が描かれています。それが鹿の死体を見たその日から少しずつ歪み始めていく、その描き方が素晴らしかったです。
 テッドは元から少し変わっているところがあるし、彼の行動のすべてはただの子どもの戯れ、そう言い切ってしまうこともできるけれど、どこか危うげで不穏な雰囲気が常にただよっているのです。ふとした瞬間に何か取り返しのつかないことになるのではないかと目が離せなくなる、怖いけれど見てしまう、そんな魅力がありました。

轢かれた鹿をさばくシーン。この日からすべてが歪んでいきます。

 登場するモーテルの客たちも絶妙でした。彼らはみな、意図せずしてテッドの心にある”衝動”を少しずつ育んでいくのです。
 特に、テッドの”衝動”のきっかけとなる鹿を轢いた男性は、全編通してテッドに強い影響を与えます。彼は、部屋にこもり静かに世間を拒絶したかと思いきや、父親とお世辞にも良い関係とは言えないテッドに「息子が欲しかった」と語り、ある秘密を打ち明けます。このシーンを見たときは、ああこのまま彼がテッドをどこか遠くへ連れて行ってくれたらいいのに、なんて思ったりもしたのですが……彼とテッドの関係の結末は是非作品を観て確認してほしいですね。

プールサイドで語らうふたり。彼らはここで秘密を打ち明けあいます。

 ちなみに本作は製作に『ロード・オブ・ザ・リング』で有名なイライジャ・ウッドの名前があり、いったいどういう繋がりなんだ!?と思ったのですが、本作の製作会社であるSpectre Visionはイライジャ・ウッドの設立した会社とのこと。『ゾンビスクール!』を始め、『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』『カラー・アウト・オブ・スペース -遭遇-』『ダニエル』等の近年のホラー映画を手掛けていると聞いて、イライジャ・ウッドがこんなにホラー大好きだなんて全然知らなかった……と衝撃を受けました。

静かだが確かに恐ろしい作品

 本作の魅力は何といってもテッドを演じるジャレッド・ブリーズのお芝居とその撮り方だと思います。彼はあまり喋ることが無く、何を考えているのかあまり分からないキャラクターではあるのですが、撮り方と演技によってその表情はかなり雄弁です。少年が何かをじっと見つめているだけでこんなにも背筋が冷えることがあるのかと何度も思わされました。
 特に印象的だったのは家族旅行で泊まりに来た、テッドと同じくらいの年齢の少年と遊ぶシーン。ここは少し……いや、正直かなり怖かったです。死に惹かれていることを自覚したテッドが少年の命を握る、その瞬間の表情ときたら……。観客もこのシーンではすでに彼のその表情の意図に薄々気付かされているところではあるので、観た方にはきっとわたしと同じように恐ろしさを感じていただけると思います。
 また、父親と言い争いをしたあと、むしゃくしゃしたテッドがある恐ろしい行為に出るシーンも衝撃的でした。そのシーンでは決定的な表現は無いものの絶対に”そう”だと分かる撮り方をしていて、音の使い方も含め、ベタな表現だからこそ息をのむ凄みがありました。
 テッドはあまり喋らないとは書きましたが、いざ口を開くとややズレた発言が多く、それもそれで怖いのです。例えば、事故を起こした男性がモーテルの一室に担ぎ込まれ、ぐったりしながらベッドに横たわっているのを見るシーンではなぜか突然「ここはハネムーンスイートです、チェックアウトは10時です」と言うのです。この意図がわかりますか、わたしは全然分かりません。こわい……。(一応客引き?部屋の紹介?のためにこのセリフを練習しているシーンがこの前にあるのですが、それにしても……)
 この明らかに状況にそぐわない発言をする演出は終盤のあるシーンでもかなり印象的に使われていたのですが……。ここで使うか!と納得をしてしまったところもあるのですが、それはそれとして本当にゾッとする演出でした。

基本的にあまり喋らないテッド。

 景色や建物を映したセリフがない遠景のカットも多く、画面に見えるものは広々としている。それなのにどこにも行けない、なぜか閉塞感がある……というのが作品全体の印象です。BGMがほとんど流れず、聞こえてくるのは環境音だけというのも関係があったのでしょうか。全体的に静かで淡々とした作品ではあるのですが、その静けさこそが何とも言えない不穏さを保つために一役買っているのは確かです。
 『ザ・ボーイ 鹿になった少年』が気になった方は是非「のむコレ’21」にてご覧ください!思わず声が漏れてしまうような、ショッキングな結末があなたを待っています。おすすめです!

のむコレ’21 開催概要・『ザ・ボーイ 鹿になった少年』公開日程

「のむコレ」とは
ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田の「未体験ゾーンの映画たち」や、新宿シネマカリテの「カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション®」(通称:カリコレ®)に続けと、2017年に立ち上がった新たな劇場発信型映画祭「のむらコレクション」(通称:のむコレ)。
シネマート新宿/心斎橋の番組編成担当・野村武寛(のむらたけとも)氏が、アジア映画に強いシネマートらしく、韓国・中国・香港は勿論、世界中から話題作をいち早く集めた、要チェックなレア作品が目白押しの映画祭。
公式サイト:https://www.cinemart.co.jp/dc/o/nomucolle21.html

シネマート心斎橋
11/12(金)〜11/18(木)

シネマート新宿
1/6(木), 1/10(月), 1/12(水), 1/14(金), 1/16(日), 1/18(火), 1/20(木), 1/22(土), 1/26(水), 1/27(木)

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