8月21日、Dプログラムはアニメーション部門の上映でした。
Dプログラムでは『アニメーション部門』4作品が上映。
作品はそれぞれ『HA・NA・KU・SO』『蟹眼』『サカナ島胃袋三腸目』『川凪ぐ火葬場』
ゲスト審査員には『時をかける少女』の特別上映から続いて細田守監督、『音楽』の岩井澤健治監督が登壇、上映後の学生監督たちとのトークセッションを行いました。
学生監督の作品作りについての考えだけでなく、アニメーションという表現についても掘り下げられる充実したトークとなりました。
・HA・NA・KU・SO
ある夏の群像劇。ハナクソみたいな私たちの日々に、ひと笑いのhopeを。
・蟹眼
「蟹」の幻覚に溺れていく男と、それを見つめる女の情念を描いたアニメーション作品。 多様な質感が混ざり合う不条理な空間が廻っていくなかで、男女の存在が生々しく揺れ動く。
・サカナ島胃袋三腸目
魚の腹の奥底に暮らす、豚、魚、オタマジャクシの三人家族の物語。ある日突然、漂着した果実を皮切りに彼らの暮らしは一変する。
・川凪ぐ火葬場
家族を亡くし、死を受け入れられない少年と、火葬場でたった一人死と向き合い続けている老人が出会う。川凪ぐ火葬場で、少年と老人はお互いの境遇を重ね合わせていき、死という事実に向き合い始める。少年が初めて死と向き合うとき、凪いでいた川が流れ始める。
多種多様なアプローチ、テーマが描かれた作品群
それぞれの作品の上映時間は7分から17分と短い尺の中でそれぞれに独自の世界観とテーマ、作り方が存在するという非常に『濃い』プログラムとなっていました。
『HA・NA・KU・SO』はポップな絵柄で7分という一番短い上映時間でありながら、それぞれにキャラクターが立った群像劇。
『蟹眼』はロトスコープを用いた独特の絵作りを行いながらも不条理な幻想色渦巻く物語が魅力の一作。
『サカナ島胃袋三腸目』はモノクロのクラシカルなアニメーションでありながら、独自のキャラクター、ブラックなユーモアも感じさせながら一つのテーマに物語が収束していくという高い完成度の作品。
『川凪ぐ火葬場』は「愛する者の死」というテーマを短い尺ながら、間を丁寧に生かした作劇、油絵風の絵柄でテーマに対して寄り添うように物語が紡がれていました。
どの作品も個性豊か、見た後のそれぞれに印象が残るという充実した内容となっていました。
トークセッション『HA・NA・KU・SO』『蟹眼』
トークセッションは四作品ということもあり、岩井澤監督と『HA・NA・KU・SO』のオダアマネ監督、『蟹眼』の前田青空監督の前半、細田監督と『サカナ島胃袋三腸目』の若林監督、『川凪ぐ火葬場』のはるおさき監督の後半という構成で行われました。
トークセッションは岩井澤監督の二作品に対しての感想からスタート。
『HA・NA・KU・SO』について「タイトルから面白かったが作品も面白かった。キャラクターが短いのに個性が出ていて見事だなと思いました。絵のこだわりも感じられて細かいところも印象的でした」とコメント。
『蟹眼』については「今回アニメーションプログラムはどれも全然違うジャンルで世界観があったんですけど、『蟹眼』はホラーテイストの異様な雰囲気が上手く表現されていて、特にシネマスコープのサイズ感や音の演出、画面の構図にこだわりを感じた。音の演出も印象的。僕らが作品を作っていた頃って音の部分だと妥協せざるをえなかったんですけど、音の表現に世界の広がりを感じた」とかつての自分の制作環境を思い起こしながらのコメントでした。
トークはそれぞれの作品で制作に力を入れたポイントについて触れ、オダ監督は「それぞれ離れたところにいる人々がどういう風に一体感を持ったラストに至るか、ということにこだわって脚本制作を行った」
前田監督は「音の演出とロトスコープメインでアニメーションを行ったこともあり、元の実写の映像があってどういうニュアンスで落とし込むか、動きの面で考えたことも多かったです」とそれぞれ語りました。
監督二人の制作のこだわりや作品のアピールポイントがより鮮明となるトークが行われました。
その後、アニメーションにこだわる理由、志した理由についても話は展開。
岩井澤監督の映像制作のきっかけは実写映画の監督。石井輝男監督の現場からスタート。アニメーションの作り方がわからなくて実写をベースにアニメーションを描いたのがきっかけ、という裏話もありました。
審査員の方がライブアクションという言葉を使っていてそこでライブアクションという言葉を知ったなど、意外なエピソードも。
前田監督のロトスコープを使用した理由についてもそこから話は派生。
前田監督は「アニメーションの補助としての気持ちとしてあった。アニメーションは動きが自分の考えたものが出てくる。自分以外の人に演じていただいて外側の要素を取り入れるためにロトスコープを利用した」と語りました。
その後、話題は学生監督のお二人の制作のモチベーションの保ち方についてへ。
オダ監督は「締め切りを守るという制約があることで頑張れる」
前田監督も「締め切りがある方がスケジュールの中でどういうものを作るか戦略的に取り組める。過去に完成出来なかったことがあり、自主的にでも締め切りを設定するのが大事だと思った」と二人とも締め切りの重要性を語られていました。
観客からのQ&Aのコーナーでは前田監督の『蟹眼』について、「そもそもなぜこのような物語にしたのか、なぜ蟹に注目をされたんでしょうか?」という質問が。それに対して前田監督は「蟹に関しては体質的に合わないので、身近なネガティブさをモチーフにしたら面白いと思った」とコメント。
オダ監督への質問としては「群像劇のキャラクターについて周囲の人から発想を得た等はありますか?」との内容。それについて「当初、この企画になるまで暗い企画もあった」と企画段階を振り返り、「祖父の昔の話をゼミでした時にウケた。作中のコンビニのエピソードは自分のアルバイト時代のエピソードを使った」と語る。その話題の延長で岩井澤監督より「なんでHA・NA・KU・SOなんですか?」とタイトルについての質問が。
オダ監督は「作品を作り出したのがコロナ2年目で社会全体が上手くいかない。クソと思うことが多い。でも、そういうクソはクソでもユーモアを持って愛らしく受け止めて生きていきたいよねということでHA・NA・KU・SOとちょっとかわいらしいものにした」とコミカルな作品ながらも時流を受けて制作に当たっている背景について語られていたのが印象的でした。
岩井澤監督への「それぞれの作品の気に入ったところ、印象に残ったところはなんでしょうか?」という質問。
『HA・NA・KU・SO』については「自分の作風に近い部分も感じてテンポ感や声優のみなさんも学生さんだと思うんですけど、声でキャラの個性が描かれていて良かった」とコメント。
『蟹眼』は「音の演出が凄く印象に残りました。それと監督がイメージのビジュアル、カット割りのこだわりが強いのかなと。そこが印象的でした。ロトスコープはネガティブな印象がありますが僕はそうは思わないです。ロトスコープは部分的に商業でも使われる技術。本作でも不穏な感じにロトスコープが一役買っているなと。個人的には作り手の意図もあると思うんですが、もっとロトスコープならではの開放的な動きがもっと見れたらなと思いました」とコメント。
最後は学生監督への岩井澤監督からのエールのコメント。
「エールというか、この場に立っていることがもう凄いと思います。この映画祭に選ばれなかった作品もあると思うんですけど、作品を完成させて映画祭に応募するということ自体映画監督を目指すスタートとしてとても良いスタート。僕は最初作品が完成せず、学生の時にようやく25分の短編を作れたんです。みなさんの未来は明るいのでどんどん作ってください」と語った。
続くトークセッション『サカナ島胃袋三腸目』『川凪ぐ火葬場』
続いて細田監督が登壇。『サカナ島胃袋三腸目』の若林監督『川凪ぐ火葬場』はるお監督とのトークセッションが行われました。
細田監督は「実写映画とアニメでは作る切り口が全然違うなと、そこが面白いところ。実写映画の自由さ不自由さ、アニメの自由さ不自由さそれぞれある」と話し、アニメーションの自由さ不自由さについて学生監督二人へ質問を振っていました。
若林監督は「元は演劇をやろうと思って大学に入ったが作ろうとしている作品のイメージが演劇に合わなかった。どうすればイメージのものを作れるか模索した結果アニメーションに出会い、アニメの自由さに気づいた。道のりは長くて大変だと感じたこともあるが、自分に合っている表現だと思いました」とコメント。
はるお監督は「アニメは自分の頭の中の真実を出せるものだと思っていて、自分でしか作れないもの、描けないものがあるということ。画面に対しての支配欲、欲望を曝け出せるのがアニメーションの良いところだと思います」と回答。
二人の画風について触れそれぞれの作品の画風がどのように培われてきたのか、といった話題に。
若林監督もはるお監督もそれぞれ現在の環境になってから身につけた画風ということで質問した細田監督が驚く場面も。
話題は観客からのQ&Aのコーナーへ。
はるお監督へは「このような作品になったきっかけ」についての質問が。
「姉が好きで、もし自分の大切な人が亡くなったら(作中の描写であったように)私は姉の体を洗うなと思って。そう考えた時に体を洗う描写を入れようと思った。最初から現在の完成画面が出来たわけではなくて、物語や今まで見た景色を紐づけて描いていきました」とコメント。
若林監督へは「凄い奇妙な話だと思ったのですが、何故思いついたんですか?」という質問。
回答として三つのアイデアがあったと語る監督
1.井の中のカワズの井が胃袋だったらという発想
2.果物の種を飲み込んだ時、そのまま発芽したらどうしようという発想
3.発芽が魚の体内で起きたら魚はきれいなヒラキになるのでは?という発想
という独自のアイデアを回答。細田監督も「ヒラキになるのは若林監督のオリジナルな発想ですよね(笑)」という合いの手もありました。
「それら三つのアイデアを『別れを肯定的に描く』という観点でまとめました。『さよなら』の語源が『そうであるならば』が転じてそうなったという説を聞いて、別れを受け入れる機能を持った言葉なのだと思った。家族だからと言って同じ価値観であるとは限らなくて、それで分かり合えない苦しみもある。それで違う道に進むとなった時に、価値観をわからなくても行く先の幸せを願いたいということを考えてこの作品になりました」とコンセプトがしっかりしていることが聞いていて伝わる回答をされていました。
二人の監督の影響を受けた作品、好きな作品
はるお監督は『赤毛のアン』
若林監督は『未来世紀ブラジル』『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』と回答。
はるお監督はキャラクターの動作を描いて、間を取り持つ技術などの影響を『赤毛のアン』から。
若林監督は設定や世界観の奇妙さ、前半はコミカルなのに後半でジャンルが変わるようなギャップを『未来世紀ブラジル』『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』から影響を受けたと話しました。
最後には細田監督から「みなさんの作品が面白く、それぞれ人物が出ていて良い作品ばかりでした。実写も事前に全部拝見させていただいていて、全部素敵でした。いい作品ばかり上映される東京学生祭は素敵ですね」と絶賛のコメントで締めとなりました。
Aプログラム『カンパニュラの少女』『ただいま』のレポート記事はこちら
※上映作品『川凪ぐ火葬場』は現在U-NEXTにて配信中
『川凪ぐ火葬場』視聴リンク- 映画『邪悪な国のアリス』《邪悪すぎる》予告編解禁!
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