第33回東京学生映画祭初日Aプログラムレポ『カンパニュラの少女』『ただいま』

8月20日(土)、第33回東京学生映画祭が渋谷ユーロライブにて開催されました。

8月20日開幕のプログラムは長編二作品が上映

初日、Aプログラムは『実写長編部門』二作品、『カンパニュラの少女』『ただいま』が上映。

ゲスト審査員には『ヘヴンズストーリー』『糸』『護られなかった者たちへ』などの作品を手がけた瀬々敬久監督が登壇、上映後のトークセッションを実施しました。

学生監督の作品についての映画に対しての思いや、瀬々監督からの作品についての質問や講評があり、それぞれの作品の魅力や類似点について熱いトークが繰り広げられました。

・カンパニュラの少女

中学2年生の矢野梓は、祖母・矢野蛍と2人で静かな暮らしをしている。ある日、梓は蛍のタンスからウエディングベールを見つける。毎日学校帰りに、花屋の前に座っている謎の少女を盗撮している梓だが、ベールの発見以降少女と放課後の時間を共に過ごす仲になっていく。
『この花ね、昔、子供が中に蛍閉じ込めて家に持って帰ったんだって』
梓は少女に「ほたる」と呼び名をつけ、ファインダーを覗きながらベールを頭に被る少女の後を追いかける。

・ただいま

長いこと大都会を彷徨っている直人は、いつも、苦しい少年時代に自分に温かく接してくれた友人のタクミのことを思い出していた。しかし、そのタクミもいつしか跡形もなく直人の生活から消え去ってしまった。それは直人が抱えている心の蟠りとなった。

直人はタクミを探すために故郷に戻った。記憶の舞台となった場所で、記憶と現実は交錯し、すべてが美しい昔に戻っていくようであった。

それぞれ別監督の作品でありながら、リアリズムと幻想入り混じる近しいものを持った二作品

安本未玖監督『カンパニュラの少女』と劉波監督『ただいま』は「宇宙でいちばん純粋。」という東京学生映画祭の開幕にふさわしい通底する純粋さを持った二作品。

安本未玖監督『カンパニュラの少女』より
劉波監督『ただいま』より

それぞれ、少女二人、少年二人、の同性間での交流とそこで言葉にしきれない世界に対しての『思い』を掬い取るように描き出された映像美のある作品となっていました。

どちらにも「父親の不在」「母親の不在」という『親の欠損』を描いている側面があり、そこに対しての強い思い入れを感じさせる映画でした。

両監督のテーマ、ルーツにも迫る上映後のトークセッション

上映後、両作品監督とゲスト審査員によるトークセッションが実施されました。

瀬々監督は「この二作品について家のモニターだと核心に触れることが出来なかった気がして、映画館に確かめに来た」とまずコメント。

それを受け、『カンパニュラの少女』の安本監督は「抽象的に描きすぎるところがあり、本作もそうなっている」「色々な人の見え方が分かれるところも映画の面白さですが、核心の部分の正解を見せるわけではないが、委ねすぎるのも違うものだと思った。そこが学びだと感じました」と作品について触れました。

『カンパニュラの少女』について瀬々監督はスクリーンで見てわかったこととして本作の『音の魅力』について言及。自宅での鑑賞ではフィックスに力がないと感じていたがスクリーンを通じてそこが伝わったということや、映画の撮影箇所では実際には存在しない飛行機や鳥の音が入っているという鋭い指摘を展開。そこがリアリズムではないと同時に作品の幻想色に一役買っていると話し、安本監督は監督と主演の時岡怜美さんと二人で画面の力に負けないよう音の作り込みを行ったなど、制作の過程や作品の拘りを語っていました。

瀬々監督は劉波監督の『ただいま』について印象的だった点について、登場人物の少年二人が自転車に二人乗りをしながら語るシーンについて言及。少年という若さでありながら登場人物が「俺たちには時間がない」と語るシーンについて触れ、作品自体のイメージとして『死』などからイメージが来ているのか質問を実施。

劉波監督は本作制作のきっかけに昔の友人の死があったことを語り、作中のセリフの意味合いとして登場人物の家族に対するこの世に留まって欲しいという思いを語ったセリフ、といったことにも触れました。

作中の舞台が鹿児島県であるきっかけについても問いかけが行われ、劉波監督の出身地である中国湖南省と湿度などで重なるところがあり、舞台として設定したという裏話も。

瀬々監督は「今の商業映画とは一線を画していて、日本に連なる自主映画の流れを感じた」とトークセッションで語りました。

監督、ゲスト審査員によるトークセッションから連続し、観客からのQ&Aのコーナーへ。
作品の人物造形の設定や、演技指導についての質問に始まり、話題は「作品を制作するうえで好きな映画、参考にした映画」へと展開。

劉波監督はビー・ガン監督、ロウ・イエ監督、侯 孝賢監督からの影響について言及。
安本未玖監督は相米 慎二監督からの影響について触れました。

最後に瀬々監督は「僕、歳なんで、時間がないんで(笑)」と冗談を言いながらも「本当に大変だと思いますが、映画は面白いのでやり続けてもらえればと思います。学生の時に得たものが、続いていくので是非、やりつづけてください!」と両監督へエールを送った。

作品、トーク共に充実の内容で東京学生映画祭の開幕を盛り上げました。

 左から『カンパニュラの少女』主演の時岡怜美さん、安本未玖監督、瀬々敬久監督。
劉波監督はzoomによるリモート参加。

『カンパニュラの少女』は既にU-NEXTで配信中。興味を持った方は見てみるのはいかがでしょうか。

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