世界ゴア紀行 2泊目

世界は広い!

これを読まれている皆さんがもし何かお悩みを抱えられているのなら、世界のことを考えてみてください。
どうでしょうか。なんだか悩みが小さなことのように思えてきませんか?
広い世界、ちっぽけな悩み。
こんなことで悩んでいてもどうしようもない! 晴れやかな気分になりましたね。

でもそれは比較による相対的な問題の矮小化であり、あなたの抱える問題が決して解決されたわけではないのです残念でした

さあ! 景気よく始まりました「世界ゴア紀行」第2回。
生まれてこのかた、海外といえばタイにしか行ったことのない筆者が、世界各国で作られたゴア映画を紹介してゆきます。それではさっそく行ってまいりましょう!

レッツ! 世界ゴア紀行!

スペイン『Carnivoros』(2017)

ちょっと外出するのも億劫に思えるほど寒さが増している昨今、熱い国に思いを馳せて暖をとるのはいかがでしょうか。ご紹介したいのはこちら、本年熱波により47℃を超えた国、スペイン産のスプラッターです。

〈『Carnivoros』あらすじ〉

メタルバンド「メタル・ディックス」はファーストアルバムの宣伝のため全国ツアーへ。しかし道中、運悪く機材車が動かなくなってしまう。彼らが途方に暮れて迷い込んだ村、そこでは楽しいお祭りが行われていた……。

あらすじからお分かりの通り、村人たちが旅人を殺害するハーシェル・ゴードン・ルイスの『2000人の狂人』(64)の亜流です。よくある感じですね! そう、世の中の全てのホラー映画は『悪魔のいけにえ』(1974)か『2000人の狂人』を参照しているのです……というのは言い過ぎですね失礼しました。

田舎町の愉快な住人たち

とにかくこの映画、非倫理! 汚い! グロい! の三拍子。まるで痰壺の中身を覗いてしまったかのようなおぞましさ。

謎のドロドロ人間

冒頭から幼い少女が人間を殺害。妊婦は容赦なく腹を裂かれ、ズルッポンと胎児を引きずり出されてしまいます。ついには顔面がネトネトに糜爛した奇形人間までもが登場。お祭りムードの中で血みどろの殺戮が繰り広げられるネアカなトーンが全編を占めているのですが、その最中にこういった非倫理きわまりない描写が放り込まれるので胸が悪くなること請け合いです。

謎のドロドロ人間軍団

ベースとなったルイスの『2000人の狂人』は「見世物小屋」的な商魂をヒシヒシと感じさせる作りですが、本作においては「とにかくヒドいものを見せてやるぜ!」という制作者の無邪気さに近い悪意が充満しております。バカバカしい作品だと決めつけて観ていると予想外の場所からザックリと刺され不快な気分になるのもホラー映画の醍醐味のひとつ。「舐めてた相手が実は殺人マシンでした映画」なんて目じゃないね! 映画そのものが観るものを刺しにくるのですから……。

ちなみに、本作を撮ったマノリート・モトシエラ(直訳するとマノリート・電動ノコギリ=チェーンソー! なんと景気の良い名前!)は、テッド・V・マイクルズ『人間ミンチ』(71)シリーズの公式続編『The Corpse Grinders 3』(12)を監督しております。こちらはゴア度控えめながら、CGの猫ちゃんが大挙して登場し、挙句の果てに巨大ネコ人間が姿を現す愛すべき一本です。あわせてどうぞ。

一本目からこっぴどい映画でお疲れになられたことでしょう。
さあ、温かいお茶でも飲んで休憩してください。あっ茶柱。今日はいい日になりそうですね。

オーストラリア『スローター・ゲーム』(1982)

誰もが「オーストラリア」と「オーストリア」を言い間違えたこと、一度はあるのではないでしょうか。次に紹介するのはそんなお国、オーストラリアで80年代に作られた映画です。え? オーストラリアの知識が薄すぎるって? うるせえ!! こちとらタイにしか行ったことがねえんだよ!!!

〈『スローター・ゲーム』あらすじ〉

強力な全体主義体制の下に置かれた世界。体制への反抗者には再教育センターでの教育が待ち受けている。教育とは名ばかりの拷問、凌辱、虐殺の数々……。そして極めつけは「人間狩り」! 囚人たちから数人の男女を選び出し、彼らを原野に解き放ち、生きる標的とするのだ!

雄大な荒野、地平線が迫る平原。広大なる地、オーストラリアは多数の異色な映画を排出している国でもあります。

アルコールによる人間崩壊劇『荒野の千鳥足』(71)、超能力ブームに乗っかった『パトリック』(78)、『発情アニマル』(78)にカーチェイス要素を付加した『デス・ゲーム/ジェシカの逆襲』(86)……近年にいたっても、ゾンビが車の燃料となる『ゾンビマックス!/怒りのデス・ゾンビ』(14)や愛猫を復活させるため殺人鬼が奮闘する『キャット・シック・ブルース』(16)などなど、妙ちきりんで面白い映画がワンサカしてます。

これらは「オズプロイテーション映画」と総称されております。見回してみるとその多くの作品は既存のジャンルを掛け合わせた「ハイブリッド種」であることが特徴的です。思えば『マッドマックス』(79)もバイカー映画と『悪魔のいけにえ』に代表される田舎ホラーを掛け合わせた映画だったではありませんか! そう、世の中の全てのホラー映画は『悪魔のいけにえ』(1974)か『2000人の狂人』を参照しているのです……って、これさっきも言ったな。年をとるってイヤですね。

cat sick bluesもまたオズプロイテーションと言えるかも

前置きが老人の金玉くらい長くなってしまいました。
本作『スローター・ゲーム』もそんなオズプロイテーションを代表する一本。近未来を舞台にした下層階級vs体制側の人間狩りアクションです。

主演コンビはB級街道まっしぐら俳優スティーヴ・レイルズバックとキャリア低迷期ながらお美しいオリヴィア・ハッセー

この殺人ゲームは銃器、爆薬、未来カー、獣人、何でもありのバーリトゥード。主人公とヒロインは「殺られたら、殺りかえす!」とばかりに体制側へ反撃。庶民が権力者に牙を剥く展開は熱く、カタルシスに満ちております……が、そこではない! この映画の! 見どころは! そこでは! ない!

刃物で一閃、手首がチョーンと宙を舞うシーンで「おやや?」と誰もが思うことでしょう。アクション映画と言うには露骨すぎるスプラッター描写。しかしそれは留まるところを知りません。

重機での人体ザックリ真っ二つや、爆薬による頭部粉砕、一斉射撃を受け血と骨を撒き散らしながら一瞬で肉片と化す人体など、ホラー映画を上回る熱量の人体破壊描写のオンパレード! いったい誰に向けて放たれているのか分からない勢いで展開されるゴアフェストに呆然です。

容赦ない暴力

さて、こんな映画を作ってしまうくらいだから、本作の監督ブライアン・トレンチャード=スミスはゴリッゴリのスプラッター映画一直線の方なのかしら? と思うも、本作の翌年には『BMXアドベンチャー』(83)を撮っており盛大にずっこけさせられます。

いまやニコール・キッドマン主演作として広く知られる『BMXアドベンチャー』

ジャンルという枠組みに捉われない映画。それはこのオーストラリアの自然がもたらした雄大さの恵み……なのでしょうか。見てください。地平線に太陽が沈んでゆきます。ほら、あそこには旅行者を惨殺するハンターの姿も。オーストラリア、いいところですね。

フランス『Maleficia』(1998)

今回の旅の終わりはお洒落で優雅な国、フランスにいたしましょう。
聞くところによりますと、喫煙率が極めて高いお国で、歩きタバコも多いらしいですね。なんや、大阪と同じやないか。仲良うしようや。

〈『Maleficia』あらすじ〉

フランスの田舎。ある一家は旅の道中、深い森に迷い込んでしまう。彼らが森で目にしたものは、邪教による血の儀式、そして蘇った死者たちだった……!

ニューウェーブ・フレンチ・スプラッターの全盛期、たしかパスカル・ロジェが「フランスではホラー映画の立場は非常に低いんだ」と口にしたことで、その事実が広く伝わったと記憶しています。たしかに、『殺戮謝肉祭』(78)や『Night of Death!』(80)、『ベイビー・ブラッド』(90)など、いくつかの血みどろの傑作がフランスより登場していますが、それらはフランス映画界における「スプラッターの文脈」に則り登場した作品とは言い難く、やはりフランスにおいて残酷ホラー映画は忌避されているのかあ、と思った次第でした。

しかし! 自主制作の界隈においては80年代前半より、圧倒的なゴア・ムービーが存在していたのです。そんな「裏フレンチ・シネマ」代表と言えるのが本作『Maleficia』!

悪魔の邪教集団

まあ、これがホントにすごい。何に対する開き直りなのか、本編100分ひたすら残酷描写の連続。磔にされた女性の体を刃物でザクザク刺し、流れ出る血を杯に溜めてイッキ飲み。そして両目を焼きゴテでつぶし、さらにお腹を掻っ捌き内臓をポンコロ抉り出す。子供にも一切の容赦なし。ドラマ性も皆無に、ひたすら人間が臓物を引きずり出され残酷に殺されゆくのみ! ゾンビ! ゴア! ゾンビ! ゴア! わっしょいわっしょい

両目をジャストサイズで潰せる目つぶし器具

こんな100%ゴアな作品を作り上げた男の名は、アントイーヌ・ペリシエ。8ミリの時代よりスプラッター映画の制作を開始。半世紀近く、ひたすら残酷映画を作り続けているゴア人(ごあんちゅ)です

安いビデオ撮りだけどユーロホラーな雰囲気が漂う瞬間も

驚くべきことに、氏の本業は医師。命を救う立場でありながら人間が残酷にブッ殺され続ける映画を作っているペリシエを、人は敬意を込めてこう呼びます。「ドクター・ゴア」と! そんなペリシエの表と裏の顔に密着したドキュメンタリー『Dr. GORE』(09)もありまして、こちらも必見です。

ドクターゴアのドキュメンタリー

医師という社会的には高い立場を持ちながら、フランス映画界としては最底辺と見られるスプラッターを作る。この奇妙なバランス感覚こそ、人間の持つ面白さではないでしょうか。……そう、世界広しといえども、我々の中に潜む、社会的な規範や道徳に逆らいたいと思ってしまうドス黒い気持ちは共通しているのです

それゆえ、人間がいる限り、世界のあらゆる場所でゴア映画は作られています。もしかしたら、あなたのすぐそばでも……!!

Carnivoros IMDb:https://www.imdb.com/title/tt3624446/
スローターゲーム IMDb:https://www.imdb.com/title/tt0082338/
Maleficia IMDb:https://www.imdb.com/title/tt2733060/

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