映画『ばるぼら』はR-15どころかR-40くらいの「寸止め」作品でした【感想レビュー】

手塚治虫の問題作である成人向け漫画を実写化した映画『ばるぼら』

原作未読の筆者は、谷崎潤一郎原作を実写化したようなテイストかと思っていました。

しかし実際はその対極。

まるで真綿で首を絞めるような、禁断の欲求を徐々に垣間見せる「寸止め映画」でした。

映画『ばるぼら』概要

小説家である美倉洋介は、新宿駅の片隅でホームレスの少女ばるぼらと出会い、家に連れ帰る。大酒飲みで汚らしいばるぼらだが、彼女がそばにいると、不思議と美倉に新たな創作意欲がわき起こる。まるでばるぼらは芸術家を守るミューズそのものだった。その一方で、美倉は異常性欲に悩まされていた。そんな美倉をばるぼらはなんども救い出す。しかし美倉はばるぼらに依存するようになり、常軌を逸し始めた美倉に周囲は困惑する。はたしてばるぼらの存在は、現実か幻か…。

酒、タバコ、ジャズ、女…演出が激シブなR−40映画

(C)2019「ばるぼら」製作委員会

映画『ばるぼら』の大半を占める要素が「酒」「タバコ」「ジャズ」そして「女」です。

美倉はタバコやジャズ、酒を嗜み、ばるぼらは酒とタバコを咥えて、東京をフラフラと徘徊します。本編で流れる劇伴もすべてジャズ。

とにかく演出が渋いので「異常性欲ヒャッハー!」みたいなノリで見に行くと「ガキは帰りな…」と言わんばかりの強烈なカウンターパンチを喰らいます(喰らいました)。

多分作中でこの全てを嗜んでいないのは、主人公・美倉洋介の秘書を務める甲斐加奈子(石橋静河)くらいでしょう。

(C)2019「ばるぼら」製作委員会
(全然関係ないですが、石橋静河のエプロン姿は後世まで語り継ぐべきシーン)

ちなみに美倉がホームレスのばるぼらを自宅に連れ帰ると、ばるぼらはいの一番にベッドに飛び込みます。

あんなシーン、潔癖症の人が見たら発狂しそうですが…。
そういう意味では「異常性欲ヒャッハー!」同様、観客を選ぶ導入部なのかも知れません(…何の話?)

ヤバい性欲を何度も寸止めする『ばるぼら』

(C)2019「ばるぼら」製作委員会

常識もモラルも一切気にしないばるぼら。

官能小説を書いた美倉の前で原稿を音読するだけでなく、作品をゴミ扱いするなど屈辱的なことも平気で言ってきます。自分の書いたエロ小説を音読されるってどんな気持ちなんだろうか…。

しかしばるぼらを家に上げたその日から、不思議と原稿の手は進み、さらには新しいことへ挑戦する意欲も湧いてくる美倉。

同時に、その創作意欲を邪魔する要素もたくさんあります。
読者受けを狙ったライスワーク、政治家とのコネ、そして異常性欲です。

作中ではマネキンや犬(!?)が、異常性欲を秘めた美倉の幻覚として現れますが…。
禁断の一歩を踏み込みそうになるその瞬間、どこからともなくばるぼらがやってきて、美倉を現実に引き戻してくれるのです。

「異常性欲ヒャッハー!」のノリで見ていた筆者としては「ああ!後ちょっとだったのに…!」という謎の寸止め状態に何度か苛まれました。手塚治虫は焦らし上手。

(C)2019「ばるぼら」製作委員会

もちろん、これで終わりではありません。
ストーリーが進むにつれて、美倉の現実と幻覚の境目も曖昧になっていきます。
ついにラストの方では、やっちゃいけない異常性欲をむき出しにしてしまい…。

言葉で聞いてもピンとこないタブーを、なんの小細工もなしでスクリーンにたたきつけられると、やっぱり引いちゃいますね(嬉)

徐々にタガが外れていく稲垣吾郎の演技は必見です。
ファンがトラウマを抱えないか心配になるレベル。

エロだけじゃない!クリエイターの苦悩も生々しく描く

(C)2019「ばるぼら」製作委員会

『ばるぼら』本編では、美倉がランジェリーショップの店員に見惚れる件があります。

美倉は店内の試着室に連れ込まれ、いきなり妖艶な店員とソフトSMに興じる展開に。

自分の底にあった異常性欲があらわになりそうなその時、美倉のファンだという店員は「先生の小説、頭を使わなくても読めるから最高…」とささやくのです。

どんなクリエイターでも、事の最中にこんな事囁かれたら、色んな意味で100%萎えます。

美倉も例に漏れず、事に及ぶのをやめようとするのですが、今度は「それはバカな読者へのサービスでしょ?」と言われるのです。
まるで「本当はやりたくないけど、お金のために仕方なく…」という自分の自尊心を保つためのマインドを見透かしているような発言…。

(C)2019「ばるぼら」製作委員会

『ばるぼら』の主人公・美倉は手塚治虫自身がモデルではないかと言われています。
それは「ばるぼら』連載時に、手塚治虫が経営していたプロダクションなどが負債を抱え、こうした負の感情が作品で表現されたのでは?と言われていたから。

もしかすると、本当に自分がやりたい作品とお金の関係にも悩まされた感情が、このセリフに詰まっているのでは?と考えるとゾッとします。

渡辺えりが夢に出そうで怖い

ばるぼらが「おっかさん」と呼ぶ女性ムネーモシュネーを演じるのは渡辺えり。

映画では『カツベン』『ロマンスドール』に出演していますが、本作ではぶどうの房のようなものをパンチパーマよろしく頭に敷き詰め、ミラーボールのようにギラギラした衣装を身に着けています。

ばるぼらにズブズブな美倉は、ムネーモシュネーにばるぼらとの結婚を認めてもらうために会うのですが、いくら好きな女の子のお母さんでも、頭にぶどうの房敷き詰めたら尻込みしそう。

さらには謎の誓約書にサインするために、いきなり指をナイフで切られるなど、並の精神力でなければ逃げ出したくなるレベルの怪演でした。

(C)2019「ばるぼら」製作委員会

↑もともと美倉のことを好かないムネーモシュネーが、美倉のことを考えながらナイフをテーブルに「ドンっドンっ」とぶつけるシーン。怖い。

映画『ばるぼら』の感想をまとめると

「酒」「タバコ」「ジャズ」「女」
このどれかひとつでも好きな要素がある人は是非見てほしい映画『ばるぼら』でした。

「禁断の欲求」を売りにしている映画の中でも、かなり焦らす演出が多いので、焦らされるのがたまらない人は是非見てみて下さい。

ただあまりに焦らしすぎて100分の映画が130分くらいに感じられました。
それくらい焦らすので覚悟して見に行きましょう。

焦らしに焦らされた先には、美倉の転落と、タブーに踏み込むヤバい稲垣吾郎が拝めます…。

映画『ばるぼら』作品情報

(C)2019「ばるぼら」製作委員会

公開日:2020年11月20日
監督:手塚眞
原作:手塚治虫
出演:稲垣吾郎、二階堂ふみ、渋川清彦、石橋静河、美波、大谷亮介、ISSAY、片山萌美、渡辺えり
脚本:黒沢久子

2019年/カラー/100分
(C)2019「ばるぼら」製作委員会
公式サイト:https://barbara-themovie.com/

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