【ファック青春】映画『半狂乱』夢を追う人は無傷ではいられない?怒涛の青春・クライム・サスペンス!

「あんたいつまで正社員にもならず、よくわかんないライターとかやってんの?」

これはつい最近、筆者(30歳)が親から言われた内容です。ライター業務を「よくわかんない」で一括りにするのは自分にも世のライターさんにも謝ってほしい所ですが、兎にも角にも日本は夢や目標を追う人に冷ややかな態度を取る人が多いと感じます。

フィクションでは夢追い人のキラキラしたサクセスストーリーが存在しますが、11月12日(金)より公開の映画『半狂乱』はこの日本の風潮に強烈なパンチを喰らわす作品。そして同時に、夢や目標を目指す人、過去に目指していた人にも強烈な爪痕を残す作品となっていました。

映画『半狂乱』あらすじ・概要

ある舞台の公演初日。大勢の観客が集まり劇団員たちにも緊張が走るなか、座長の将は劇団員のカバンから謎の札束を見つける。出所が分からない大金に戸惑う劇団員たちとは別に、将はこの金について身に覚えがある様子を見せる。

時間は戻り公演6か月前。役者として芽がでない将と劇団員の樹志は焦っていた。親からも見放され、生きる気力をなくしつつある樹志だが、同じバイト先の女性・雪野と親しくなる。自分が夢を追うことに理解を示す雪野に好意を抱く樹志だが…。

再び公演当日。意気込む劇団員たちだが舞台袖で事故が発生し、演技は続行不可能となる。幕を下ろそうとする将だが、樹志は諦めきれない気持ちから次第に狂気に駆られていく。すると樹志は観客全員を舞台に監禁し、演技をやめようとする劇団員を凶器で脅して続行させる。果して観客と劇団員の運命は?大金の正体とは?樹志と雪野の関係はどうなってしまうのか?

2021(C)POP CO., LTD.

原作は20年前に舞台公演された「劇場占拠事件」を満を持して映画化。狂気と青春の狭間を行き来する映画『半狂乱』を手掛けたのは『狂覗』『超擬態人間』など、独特のテーマを強烈な展開や演出で魅せる藤井秀剛監督です。すでに社会派リベンジ・サスペンス『猿ノ王国』の公開が2022年春に決まっている藤井監督ですが、本作でも次から次に巻き起こる悲劇と不運の連鎖を堪能することができます。

現在はジョシー・ホー主演の香港映画『怨泊~OnPaku~』の仕上げ中。こちらも楽しみ!

キャストはオーディションを勝ち抜いた俳優たちが出演。「牙狼-GARO-」 などに出演する越智貴広が座長の将を熱演し、「いだてん」「あまちゃん」に出演するほかTikTokerとしても注目を集める工藤トシキが狂気にかられる劇団員・樹志を演じました。樹志が恋心を寄せる雪野役は、AKB48から選抜された音楽ユニット「DiVA」の元メンバーである山上綾加が演じており、それぞれが人生の岐路に立たされる“30歳”を目前に控えた等身大の演技をスクリーンに叩きつけていました!

まるで悪夢…現在と過去を行き来する構成

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映画『半狂乱』は観客を監禁し、日本刀で劇団員を脅して舞台を強行する“現在パート”と、なぜここまでカオスな状況になったのか、その理由が分かる“過去パート”を交互に描いています。冒頭で見つかる謎の大金や入手先不明の日本刀、そして舞台袖で起きた事故などあらゆる謎や原因が解き明かされていくため、常に先が気になる構成になっていました。

それだけでなく、強行される舞台では目を覆いたくなる悲劇が立て続けに起こり、監督曰く、参加したエキストラが怒って退場してしまう事態になったとか。しかしこうした演出こそ監督の最大の持ち味であり、誰もが心の底で期待する「ヤバい展開」を監督は期待に応えるように見せつけてくれます。大作映画では避けてしまう過激な演出を求める方はマストでチェックです。こうした「怖いもの見たさの好奇心」を刺激する演出は『半狂乱』に限らず、前作の映画『超擬態人間』にも通じます。

夢を追う人が観れば無傷で帰れない!

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狂気の演劇を描く一方で、過去パートでは主人公たちの青春模様を観ることができます。感情が動くホンモノの芝居をしたいと意気込む樹志たちの姿は眩しい青春映画そのものです。しかしその熱い想いに反して現実は厳しい…。オーディションではやる気が空回りして業界人から嘲笑われる将や、親からは役者活動をディスられる樹志の姿は見ていて胃がキュッとなること必須。将来の焦りから将は手を汚してでも活動資金を得ようとし、樹志は先の見えない将来から電車に飛び込もうするまで追い詰められているのです。

誰しもが抱えてしまう劣等感や焦り、それに共鳴して思ってもいない凶行に走ってしまう様子はスリリングであり、メンタルを削ってきます。それもそのはず、日本は特に夢を追う人に冷ややかな視線を送りがち。「30歳までには結婚」「初任給で親孝行」など、日本ならではの固定観念も随所に描き、主人公(と観客)をじわじわと苦しめてきます。

他人を傷つけず、自分が傷つくのを恐れないこと

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映画『半狂乱』では彼らの夢を応援する人がほとんどいません。樹志が好意を寄せる女性・雪野だけが彼らに対して肯定的なだけで、ほかの身近な人からの理解はもちろん、プロデューサーなどの業界人でさえまともに取り合ってくれないのです。そんな連中に対して、樹志がインプロ(即興劇)ではじめた「狂気の舞台」はどのような影響を与えるのかも注目ポイントです。

さらに監督は「夢のためなら他人を平気で蹴落とす人」など、手段を択ばない人間にも容赦なく作品で牙をむきます。決して夢追い人のすべてを肯定するのではなく、あくまで世間の目を顧みず夢に向かう人を応援しているのです。他人を傷つけず、自分が傷つくことを恐れないで邁進する人にとって、本作がどのような意味を持つのかも気になるところです。

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夢を追いかける人に対する冷めた態度、そして夢を実現させるための行動と代償を真っ向から描いた本作。樹志たちが起こした「劇場占拠事件」は、過激ながらも日本にはびこる排他的な空気を振り払ってくれる“希望”にも見えました。本作を観たことで、自分もふんどしを締め直す気持ちで頑張ろうと思います。

映画『半狂乱』作品情報

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製作:2021年(日本)
上映時間:111分(R15+)
配給:POP
キャスト
越智貴広/工藤トシキ/山上綾加/山下礼/望月智弥/美里朝希/田中大貴/宮下純/種村江津子
監督・脚本:藤井秀剛
製作総指揮:山口剛
プロデューサー:梅澤由香里/元川益暢/藤井秀剛
ラインプロデューサー:納本歩
撮影・編集:藤井秀剛
音楽:青山涼

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