子どもは見ちゃダメ!アダルティなフィリピンアニメ映画『ニャンてこと!』が大人の私たちに教えてくれること

挑戦的な表現や未知の世界を描いた作品にも率先して立ち向かっていくNetflix。
アニメーション映画もその例に漏れず、あまり見たことないタイプの恋愛アニメーション映画が、現在配信されています。その名も『ニャンてこと!』(原題:Hayop Ka !)。フィリピン生まれの本作は可愛いビジュアルに反して、なんと“子どもは見ニャいで!”の一文が添えられている作品です。大人の恋愛を描いた本作からは、フィリピンならではの価値観を体験することができます。

“子供は見ニャイで!”フィリピン生まれのアニメ映画『ニャンてこと!』

『ニャンてこと!』(原題:Hayop Ka !)はロケットシープスタジオとスプリングフィルムズが制作した長編アニメーション映画です。2020年にNetflixにて発表、配信が実施されたアニメーション作品です。

登場キャラクターは全員犬や猫などの動物で、『ズートピア』を思わせるような世界観です。ただし物語の舞台は架空の世界ではなく、フィリピンの首都・マニラをイメージしたものとなっています。

『ニャンてこと!』の特徴はなんといってもそのアダルティックな内容です。キャラクターデザインは一見ポップで可愛いのですが、登場キャラクターが展開する恋愛や生活はなかなかに世知辛く、嫉妬に暴力、浮気に肉体関係まで描いていたりとなかなかに過激。そもそも原題の「Hayop Ka !」を直訳すると、「あなたは動物!」という訴えかけるようなタイトルになっています。邦題は『ニャンてこと!』というソフトなアレンジとなっていますが、原題は動物たちの世界を描きながら、相手を“ケダモノ”として罵倒しているようなニュアンスを含む、二つの意味を掛けた秀逸な題となっています。

そんな大人な恋愛を描くだけあって、Netflixは本作を18歳以上の視聴を推奨しており、日本版Netflixでは本作のサムネイル画像には“子供は見ニャイで!”の一言が添えられています。作中で直接性器が描写されたりはしないものの、終始肉体関係に関しての言及や描写が登場するので、確かに子どもに率先して見せられないのも納得の作品となっています。

『ニャンてこと!』はどんな物語か

『ニャンてこと!』の主人公はネコのニンファ。デパートの香水売り場で販売員として働く女の子です。ニンファには用務員として働くイヌの彼氏・ロジャーがおり、二人は同棲中の仲にあります。ただ、ロジャーはあまりお金にも余裕がないためか何度も家賃をニンファの給料に頼るような状態。そんなわけで、結婚の話になってもニンファは経済的な理由で受け入れられないでいるのでした。

そんなニンファの前に現れるのが、実業家のイヌのイニゴ。事業は成功しており経済的にも裕福なイニゴは、貧相な生活を送っているニンファたちとは全く正反対の日々を過ごしています。

そんなある日、母親の誕生日プレゼントを探しにきたイニゴはニンファと遭遇します。香水選びをきっかけに知り合った二人は、次第に親交が深まっていくことになるわけですが、二人の関係はただの知り合いで終わるはずもなく、一線を超えていくことになります。

単純な三角関係を描いているようでありながら、キーとなる三人だけでなくニンファから学費と偽ってお金を搾取するニンファの妹や、ニンファとロジャーの仲の方を応援するウサギのジャーメリン、イニゴの車寄せとして働く心優しいカエルのラリーなど、三人を取り巻く登場人物もドラマをより味わい深い方向へと導いてくれる役回りを担っており、群像劇としても楽しめます。果たしてこの物語の“ケダモノ”は一体誰なのか。物語がどういう着地を迎えるのかにも注目です。

フィリピンのことを知っていると見え方が変わるそのドラマ

『ニャンてこと!』の面白さはその恋愛劇だけでなく、そもそものフィリピンの感覚が反映されていることにあります。

フィリピンでは経済格差や貧困問題が実際に社会問題となっており、裕福な層と貧しい層の生活水準は大きく開いており、ボロボロな家屋に住むニンファと贅沢な生活を送るイニゴの経済状況の差は、実際のフィリピンの状況を思わせます。

映画の本筋とはあまり関係がないながら、作中では労働体制の改善を訴えかける市民の描写にも気づくはずです。フィリピンでは2018年1月に税制改革が実施され、2022年までに貧困率を下げ、2040年には貧困層を根絶する、というビジョンを掲げていました。しかし、この施策は物価上昇を招き、2019年にはマニラで賃上げなどの経済的な改善を求めるデモが数千人規模で行われています。映画のエンドロールではニンファがデモに参加しているといった描写もあったりと、市民運動が加熱している様子などもフィリピンの現実が反映されています。

また、フィリピンの結婚観についても知っておくと『ニャンてこと!』はより登場キャラクターの心情を想像しやすいです。ニンファがロジャーとの結婚を前向きに考えられないといった描写も「うまくいかなければ別れればいい」と考える人も居るかもしれないですが、実はフィリピンは一度結婚をしたら離婚が認められない国なのです。人生に一度きりしか使えない結婚というカードを本当にここで切っていいのか。ニンファがロジャーを受け入れられないという判断も納得するのではないでしょうか。

またカトリック教徒が多数を占めることから、フィリピンでは人工妊娠中絶が法律で禁止されていることも、日本人としては自国とのギャップを感じる部分でしょう。ニンファたちが安易に肉体関係を結ぶことがどれだけ迂闊なことで、この物語が迎える“ある結末”の見え方も変わってくるのではないでしょうか。

女性の社会進出が進むフィリピンであるが故のロジャーの扱い

日本との感覚の違いは男性の描かれ方にも反映されているかもしれません。

フィリピンは女性の社会進出が突出している国で、ジェンダーギャップ指数も日本の上をいくアジアトップのスコアとなっています。ニンファのように女性が経済を担い、ロジャーがそれをあてに生活をしているというような構図は珍しくないようでむしろ“フィリピンあるある”を踏まえたキャラクター造形なのかもしれません。

結局、ニンファと三角関係となったロジャーもイニゴもどこか頼りなくだらしのない人物として描かれています。ニンファが迎える結末は日本人の目からすると女性の立場の理不尽さが目立つラストに思えるかもしれません。しかし実際は、そもそも男性という存在をあてにはしていないという風土がこの映画の結末を生んでおり、その裏には「男なんて最初から役に立たない」という突き放した姿勢が隠れていてもおかしくありません。

フィリピンを知っていれば知っているほど、『ニャンてこと!』の描く恋愛物語は日本とは一味違ったニュアンスが感じられるでしょう。

監督の前作『サリーを救え!』にも注目!

そんな『ニャンてこと!』の監督を務めたのは、フィリピンのアヴィッド・リオンゴレン氏という男性の監督です。ロケットシープスタジオを運営する一人であり、アニメーションに限らず、実写作品やイラストレーターとしての顔も持ち合わせているすごい人物。本作の制作以前からフィリピンの広告業界ですでに活躍しておりました。

アヴィッド監督にとって初めての長編作品となったのが、2016年に発表した実写とアニメーションを組み合わせた青春映画『サリーを救え!(Saving Sally)』。日本でも2018年に映画祭や企画上映などで限定的に上映されています。

『サリーを救え!』は漫画を描くのが得意な男の子マーティと、発明家の女の子のサリーの恋愛を描いた作品でした。『ニャンてこと!』ほどアダルトな内容を描いたわけではないものの、実写の主人公たちに対して、男性器を思わせるような特徴的なビジュアルのライバルキャラクターがアニメーションで登場したり、そんなライバルにサリーを奪われてしまったりと、ほろ苦い展開や恋愛の甘くはない一面を描く様は、『ニャンてこと!』とも近いものを感じます。

一部地域ではこの『サリーを救え!』もNetflixで配信されているのですが、残念ながら日本は配信対象外となっています。『サリーを救え!』がこれまた傑作だっただけに、『ニャンてこと!』と同様に日本でも気軽に見られる環境になって欲しいところです。そんなきっかけを生み出すためにも、より『ニャンてこと!』が多くの人の目に触れてフィリピン映画やアヴィッド監督への興味が増して欲しい!そんなことを思う今日この頃です。

日本のみなさま。ぜひNetflixでフィリピン映画を体験してみてはいかがでしょうか。きっと楽しめるはずです。もちろん小さなお子さんが居ないところで観るのをお忘れなく。

Netflixページ:https://www.netflix.com/watch/81304880?source=35

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