『メガゾーン23』/ “一番いい時代”を描いたアメリカンニューシネマ的傑作SF作品

皆さんは『メガゾーン23』をご存知でしょうか?
1985年にリリースされたアートランド・アートミック制作によるOVAである『メガゾーン23』

1982年に放映され、今でもシリーズが続いている名作『超時空要塞マクロス』のスタッフ1が再結集して制作され、「メカ」「美少女」「恋愛要素」「巨大宇宙船内都市」「アイドル」といった『マクロス』の象徴的な要素を同様にモチーフとして組み込んでいるSF作品であり、3作のOVAがリリースされています。
1作目のリリースから今年で35年になりますが、今見ても色褪せることのないOVA創世記の金字塔について紹介させていただきます。

本稿は物語のネタバレを含みます。ご承知おきください。

『メガゾーン23』

あらすじ

退屈な日々を過ごしていた矢作省吾が、ある日偶然手に入れたバイク「ガーランド」は、軍の重要な秘密兵器だった。それを世間に公表しようとした省吾は、B.D.と呼ばれる男の部隊と戦闘に突入してしまう。知り合いの高中由唯の元に逃げ込んだ省吾だったが…。

『メガゾーン23』が描く「一番いい時代」

『メガゾーン23』の舞台は公開された時代と同様1980年代2の日本が舞台となっています。
1980年代の新宿や原宿等の都市部の様子や若者のファッション、言葉のセンスがこれでもかと伝わってくる冒頭部分。

©1985 AIC

シリーズを通して重要なキャラクターであるアイドル「時祭イヴ」や本作のヒロイン「高中由唯」はこの時代を平和で「一番いい時代」だと言います。
1985年のプラザ合意に端を発する好景気や、ヤマト~ガンダムブームでマンガやアニメが「子ども文化」の枠を超えた時代。また、マンガやアニメのみならず、お笑い第三世代ブーム、ファミコンの発売によるテレビゲームブームにより、それぞれが若者文化の一部として確立し認知されていき、現在のサブカルチャー全般の基礎が作られた時代。
1990年代以降の所謂「バブル崩壊」による景気後退をはじめ、その後の時代を知っている我々にとって、ある種幻想のように思えるこの時代を生きる若者が平和を享受しながらその平和の中でエネルギーを持て余している様子が描かれます。

本作では、この平和な「一番いい時代」が舞台設定として非常に重要な役割を持っています。
友人が盗んだバイク「ガーランド」を託され軍に追われることになった主人公「矢作省吾」は軍と交戦する中、若き将校「B.D(cv:塩沢兼人)」に衝撃の事実を告げられます。
それは、自分たちが生きる東京は宇宙船の内部に建造された街であり、人々にとって「一番いい時代」だった1980年代を再現して作られた虚構の街だということ。

©1985 AIC

劇中、流行りのアイドルとして描かれる「時祭イヴ」もCGで作られたバーチャルアイドルだということも明らかになります。
その背景には、他の巨大都市宇宙船との戦闘状態を住民から隠す意図があったのですが、そうした事実を隠蔽するため友人を殺害された怒りや、これまで自分が享受してきた虚構の平和への虚しさ等が綯い交ぜになり憤った若者によるたった1人の軍部への反発が本作のクライマックスとなります。

本作で描かれる、1980年代の描写には現代の感覚だと「古臭い」「ダサい」と思ってしまうような描写が見受けられ、主人公の矢作省吾のキャラクターもちょっとキツい部分があったりしますが、この「虚構の街」という設定により、そうした感覚すらも舞台装置として機能するため、当時の感覚をありのままに描いた本作における「一番いい時代」を現代の若い読者の皆さんもぜひ体験してみてください。

アメリカンニューシネマ的な物語

マクロスと同様のモチーフを使用しながらも、その描き方はかなり尖っており、マクロスは歌が戦争を解決に導く一方でメガゾーンでは歌がプロパガンダに利用されています。
さらに、ダンサーを志すヒロインは枕営業をしようとしますし、主人公とのベッドシーンもあります。

©1985 AIC

もちろん、バイクから人型ロボットに変形するガーランドの格好良さや、平野俊貴3氏による魅力的なキャラクターデザイン、塩沢兼人氏が演じた軍人B.D.の渋さなど、ストレートな魅力も豊富です。
1994年から1995年にかけて発売された傑作OVA『マクロスプラス』のシャロン・アップルより10年早くバーチャルアイドルの概念を生み出している点も時代を先取りしている凄さを感じますね。
ちなみに主人公矢作を演じたのはワクワクさんこと久保田雅人氏です。

©1985 AIC

前述したような舞台設定や、表現、キャラクター以外にも本作の最大の特徴とも言えるのが物語の結末です。

ここから、1作目のラストに触れます。

自分が生きてきた街、文化は紛い物で、思想や自分のアイデンティティすらも虚構に感じる状況に陥った主人公矢作はそうした虚構の世界を維持するために人を殺すことも厭わない軍部にたった1人で反発します。
しかし、矢作は敗北します。
若者1人の力では軍には叶わず、なんとか生き延びたものの満身創痍の矢作は、朝日が登る中ヨロヨロと渋谷の街を歩く…軍や政治家、マスコミの一部を除いて誰も世界の真実を知らない、自分1人の力では何も変えられない、完全な敗北。救いはありません。

そのままエンドロールが流れ物語は終わります。
とても印象的なラストシーンで、完全敗北した主人公と、無人の渋谷を照らす朝焼けのコントラストに美しさを覚えます。
こうしたラストも含め、『メガゾーン23』の物語の基本構造は「アメリカンニューシネマ」に非常に近い構造になっています。
イージー・ライダーやタクシードライバーなどに代表される、1960年代後半から1970年代半ばにかけてアメリカで制作された、若者層を中心とした反体制的な人間の心情を綴った映画作品群、およびその反戦ムーブメントである「アメリカンニューシネマ」
ニューシネマでは、反体制的な人物(主に若者)が体制と争い、最後には体制側に敗北、そうでなくとも悲劇的な結末を迎えるものが多く、非ハッピーエンドが一連の作品の特徴です。
70年代後半以降は、娯楽性の高いエンタメ作品が人気を博すようになり、ニューシネマは終焉を迎えました。

エンタメ作品が与えてくれる「希望」と同様に、ニューシネマ作品群におけるリアリズムと残酷さ、不条理がもたらす美しさや滑稽さも映画の表現の魅力だと思います。
そうした表現をニューシネマブーム終焉の後、アニメ作品として鮮やかに描き出した『メガゾーン23』の残酷ながらも美しさを感じるラストをぜひご覧ください。

リブート企画も進行中

1作目のリブート企画が進行中で、また2017年にはシリーズ作品のBD化も果たした『メガゾーン23』
鮮やかに描かれる「一番いい時代」の東京や、魅力的な設定の数々、悲劇的ながらも美しいラストシーンが見所の本作をぜひこの機会に観てみてはいかがでしょうか?

VODではU-NEXTにて2021年3月31日 23:59まで配信予定です。

  1. 石黒昇、美樹本晴彦、平野俊弘、板野一郎など
  2. 劇中で『ストリート・オブ・ファイヤー』が公開されていることから1984年頃だと思われる
  3. アートランド時代にキャラクター作画監督を務めたテレビアニメ『超時空要塞マクロス』で描いた女性キャラクターの色気が評判となり、アニメファンから注目を浴びる存在となる。
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