『心霊玉手匣』シリーズとは
年始のようにまとまった時間があると普段手を出さないような作品や、シリーズ作品にも手が出しやすい。
そこで『心霊マスターテープ』や最近流行りのオカルト系Youtubeチャンネルから「心霊ビデオ」に興味を持った方にオススメのシリーズを紹介する。
『心霊玉手匣』シリーズ。
心霊マスターテープでも重要な役所を演じた、心霊ビデオ界隈ではおなじみの岩澤宏樹監督作品で、オリジナルビデオ作品が全5作(4+1)リリースされている。
1作目の冒頭部だけを見ると、よくある投稿系の心霊ビデオと大差無いように思うかもしれないが、本作の特徴は、一見それぞれ無関係に思える内容の投稿映像を検証すると一つの物語が浮かび上がる構造になっていることだ。
無関係の映像から、投稿者や撮影場所など、バラバラだったそれらの点が繋がり一つのエピソードになる展開は予測不能かつ壮大な物語を紡ぎ出す。
1作目では街で目撃される謎の女の情報と投稿映像から「八百比丘尼」を追う展開になるが、その過程で知り合う“霊感女子高生”モロちゃんが以降のシリーズでも重要な役割を担う、非常に強力なキャラクターである。
「何撮ってんだよ」「話しかけんな」「ころすぞ」と非常に口の悪い女子高生だが、霊感が強く、手製のお守りによってスタッフの危機を救う。
モロちゃんを始め、後に登場するフェニックス岡崎など投稿映像を検証する通称「チーム玉手匣」の面々の面白さも本作の魅力だ。
1作目は「八百比丘尼」や黄泉戸喫(よもつへぐい)のような伝承と投稿心霊動画が噛み合う面白さと怖さを感じられ、本作特有のフォーマットの独特な面白さも感じられるが、シリーズ全体を見ると「助走」のようなパートなので、1作目を観たらすぐに2作目以降も観て欲しい。すぐに。
2作目では、無関係と思われる映像に隠れた接点が一つのエピソードを紡ぐという「心霊玉手匣スタイル」が1作目よりも洗練され、時間軸が縦横無尽に入り乱れつつ一つの物語に収束する構成が見事で、真相が判明した時の恐ろしさや作品全体に漂う不気味な雰囲気はシリーズ随一だろう。
「超能力」を主題にし、人類が滅びないようにゴミ拾いをする自称超能力青年「土保」の不気味な存在感は必見だ。
続く3・4作目は続き物になっており、3作目では投稿映像の検証パートがなく、霊障に苦しむ岡崎とその親友金田が謎を追うという前作までとは毛色の違う展開となる。
他者が見ている様子が頭の中に流れ込んできて、それをカメラに写すことができる能力(念写)を手に入れた岡崎は、その能力で金儲けをしようと画策するが、昼夜問わず断続的に映像が流れ込んでくることで心身ともにボロボロになっていく。
そこで、頭に流れ込んでくる映像の場所に行き、原因となっている女を探すという展開になるが、岡崎は限界に近づいており「(心霊スポットに向かって)おーい夢の国だよー!!」「(見えない敵に対して)会いたくて会いたくてぶっころす!」などと叫んだり、何も無いところでカラーコーンを振り回すなどの奇行に及ぶ。
そんな岡崎を撮影する金田は岡崎の奇行を止めることなく「お前はフェニックスだ!飛べフェニックス!」と励ます(?)
ふたりの友情に感動できる熱い作品だが、念写・視界ジャックのような要素を取り入れたPOVというトリッキーで珍しい映像作品であると同時に、それを手がかりに追跡する展開や普通の青年だった岡崎が怪異によって狂乱する恐ろしさなどホラー作品としての怖さもしっかり抑えている作品だ。
続く4作目ではフェニ岡もチーム玉手匣に加わり、投稿映像の検証に参加する。
そこで、前作(フェニックス誕生)の背景が明らかになると同時にロードムービーの要素も加わり、ラストでは感動させられてしまうという非常に異色な心霊モキュメンタリー作品に仕上がっている。
学生の自主制作映画を軸に青春、命の輝き、ホラー、時空を超えた願い…と様々な要素がない交ぜになり今まで観たことのない心霊モキュメンタリー作品となったシリーズ4作目は必見だ。
最終作『心霊玉手匣constellation』
最終作となる5作目、本シリーズの特徴である「無関係と思われる点と点が繋がる」構造が一つの作品内だけではなくシリーズを通して形作られていることが顕著に現れ、集大成的な最終章となっている「constellation」。
失踪したあの人はどうなったのか、岡崎はなぜ覚醒したのか、なぜあの時助かったのか…残された謎が明らかになるシリーズで起きた出来事の総括であり、宇宙規模のスケールで展開される最終章には度肝を抜かれる。
モロちゃんこと両角奈緒を中心に展開するストーリーの中で、岡崎・金田の熱い友情もパワーアップしており、フェニックス・アイとして進化した岡崎の能力は重要な役割を持つ。
更に新たに覚醒した能力者も登場し、事件の謎を解明しながら黒幕と対峙する。
生き霊を飛ばしてくる敵を倒すために「本体を叩け」といったセリフも飛び交うこれまでとは異なる作風に驚くが、ラストに向かってフルスロットルで駆け抜け、謎が解明されていく疾走感は心地よく、前作同様感動的なラストに思わず涙するだろう。
世界を巻き込む黒幕の陰謀に立ち向かうチーム玉手匣の活躍をぜひ見届けて欲しい。
『心霊玉手匣』が描く「生きる」ということ
本シリーズの構造上の特徴は前述した通りのもので、その壮大さと予測不能な展開は独特でクセになるが、本作を通して伝わってきたメッセージは人が「生きる」ことの意味だ。
たまたまカメラを回していたため怪異に襲われることになった投稿者、たまたま能力を得たために一時はボロボロになった岡崎…不幸というしかないこれらの事象に対して、本作のキーパーソン「モロちゃん」は「寝て待て」という言葉を多用する。
人の力ではどうしようもない巨大な怪異や呪いの力の前では何をしても無力だということを悟るが故のセリフであり、更に最終章では人の不幸や死をネタにする「心霊ビデオ」自体に登場人物が疑問を投げかける場面がある。
しかし
宇宙規模、世界規模のとてつもなく大きな力や、避けようのない「死」の前で人ができることは限られるが、力及ばずとも自身にできることに命を燃やす人間の姿が本シリーズでは描かれる。
そうした人間の姿には美しさを感じ、またそれが生きることだと感じた。
自分という存在やその営みは、宇宙規模で考えたら取るに足らないものかもしれないが、日々命を燃やし強く生きようという感想を抱くことになるとは1作目の時点ではまったく考えていなかったが、そうしたメッセージもあるかもしれない異色の心霊モキュメンタリー作品『心霊玉手匣』非常にオススメです。
※1~4はニコニコチャンネル「アムモ98ホラー劇場」にて視聴可能です。
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