金城武がカンフー推理でドニー・イェンを追い詰める! 縁がすべてを変える『捜査官X』

マシーナリーとも子

救命阿~~。マシーナリーとも子よ。
今日も別に最新作じゃないけどただ好きなだけの映画の話をするぜ! 
今回のネタは2011年の香港・中国映画『捜査官X』!

絶賛AmazonPrimeVideoで配信……してねえじゃん!

仕方がないのでYouTubeに金払って見ました。大丈夫。300円分は絶対におもしろいからてめーらも300円払ってください。

カンフー推理で謎を解け! 捜査官X!

冒頭に表示されるとおり、本作の原題はかなり直球に『武侠』となっております。

タイトルっていうかジャンル名だろそれ。大きく出たな。
それを踏まえると邦題の『捜査官X』はちょっとバカっぽいタイトルにも思えてしまうけど、これは別に「スーパー捜査官だぜ!」というタイトルではなく主人公の捜査官・シュウ(xú)の頭文字「X」から取ってるとのこと。ちなみに英題は『Dragon』です。ザックリしてんねえ!

自然、きれいすぎる

物語の舞台は1917年の中国・雲南省に位置するのどかで自然豊かな村。村人たちも大変仲が良く、とてつもなく平和なこの村にあるときゴロツキが襲来!

バカそうで力がありそうなデカと素早そうで武器を持ったチビ! 黄金比率のゴロツキ!

ゴロツキに金を奪われそうになる村の両替屋! そこに偶然居合わせた心優しい紙職人のジンシーは、ゴロツキの無法な暴力に許せず、不器用にも立ち向かう! 

巨漢に振り回され、投げ飛ばされるジンシー! だが偶然に偶然が重なりゴロツキたちは戦闘中に事故死! ジンシーの行為も正当防衛みたいなもんだし、むしろ村の英雄だべと村人たちから感謝されるのであった。

湖で必死にバシャバシャやってたら
ゴロツキは死んだ。ラッキー!

……が、そこに知事とともに検視に現れたのが主人公──金城武演じる捜査官のシュウだ。

金城武のはずなのにオモコロのヤスミノに似ている主人公・シュウ

自身はとりたてて高い戦闘力は無いものの武芸に詳しく、また「気」の扱いに詳しく人体のツボや鍼治療に高い知見を持つシュウ。彼は死んだゴロツキが脱走した武芸の達人であることに気づくと、「いくら偶然とはいえただの紙職人が達人を倒せるものだろうか?」と疑問を抱く。

ゴロツキを倒したのはかつて脱走した凶悪殺人犯であり、自分を知っているゴロツキを口封じのために殺したのでは…? とアタリをつけたシュウは、今や村の英雄と化した容疑者・ジンシーを徹底的に捜査するのであった……。

いやいや捜査官……そりゃあいくらなんでもうがちすぎってもんじゃあないですかい? そんな、村中の人から慕われている心優しい紙職人が、武芸の達人を事故に見せかけて殺すなんてできるわけないじゃあないですか……。

演じてるのがドニー・イェンじゃあなけりゃあな!!!

いやすまん捜査官!!! 絶対こいつ達人だわ!!!! こいつわざと殺しましたって!!! 間違いなく人殺しでーす!!!!

と、いうわけで本作は「誰がどう見ても武術の達人である村人ジンシーVSその正体を見極めてしょっぴこうとする捜査官のシュウ」という「カンフー推理ミステリーバトル」が展開されるんだ。これが滅法おもしろい!

推理パートではジンシーの証言をもとに、シュウが犯行現場に居合わせていたかのような映像で推測を進めていくのだが、その演出のカッコよさ+武術にくわしいからこそ可能なカンフー推理という世にも珍しいミステリ要素にものすごくワクワクさせられる!

シュウはジンシーの技を、ツボと気力を用いた一撃必殺の人体破壊術と想像する。ほぼ北斗神拳じゃん

シュウの妄想半分とはいえ、まるで北斗神拳のような妙技で敵を撃破していくジンシーの技も見ていて最高にかっこいいぜ。

シュウはいろいろとジンシーに探りを入れるが、柔和な性格も相まって村人たちから多大な信頼を得ているジンシーはなかなかボロを出さない。仕方がないので試しに崖から突き落としてみるなどやりたい放題! 武術の達人ならあっさりと落ちたりしねえだろ! との思惑も外れ、川に落下していくジンシー……。

このシーン、原語版だと「救命阿~!」って叫んでて感動した。本当に言うんだ

それでも尚、シュウは「あんな細い枝に引っかかったのに一発で枝が折れなかったのはヤツが”気”の力で身体の密度を空気より軽くしたからに違いない!」と無茶苦茶を言い出し始める! そもそも最初っから「気」の力周辺のこの作品内でのリアリティレベルがよくわかってないのでそろそろ「大丈夫かこのオッサン!?」と心配になってくる。家に帰っているだろうか? 家族と話をしているだろうか?

なーんて楽しく見ているとだんだんと物語は不穏さを帯びてくる。
自分の力だけでは限界があると悟ったシュウは仲間の捜査官にジンシーの調査を依頼するも、逆に忠告される。
「武術の達人が相手なら、お前も殺されるんじゃないか……」
と。

ジンシー宅に食事に招かれるシュウ。子どもたちも交えた食卓は楽しい団らんに……ならない。ずっと気まずい

真実に近づけば近づくほど高まる緊張感……。この映画、カンフーミステリかと思っていたのにこのあたりから「サスペンス」とか「ホラー」に姿を変えちまうんだ。いつジンシーが口封じのためにシュウを殺すのかわからない、という緊迫した空気が画面いっぱいに張り詰め始める。

いっぽうでシュウも、過去に救った少年に毒を盛られたというトラウマがあり、心のなかの同情心を殺し「法は絶対」という揺るぎない価値観を窮屈すぎるほどに背負っている。そのため容疑者として怪しすぎるジンシーを放っておくことができない……。

やがてジンシーから真実の一端が語られはじめたとき、シュウは

あまりに急に殺意を出すので笑ってしまうシーン

「気力が満ちた肉体は刃をも跳ね返すはずだぜ!」という超理論にもとづいて鎌でジンシーを斬りつけるのだった。

なんで!?!?!?!?
当然そんなことはとくになく、ジンシーはふつうに大怪我を負うのだった。当たり前だろ!

村人たちから陰湿な歌を聞かされて追い詰められるシュウ! いやお前が悪いんだけど…

ただでさえジンシーに殺されるかもしれないうえに、ジンシーを慕う村人たちからも嫌われてしまったシュウ!(鎌で斬りつけたんだから残当)

このあたりからめちゃめちゃ画作りが怖くなってくる

雨が降り、川が荒れるなか、ついにジンシーに「村ではほとんど知られていない裏道」に誘い込まれてしまう!

果たしてシュウは、無事に村から脱出することができるのか!?

幾度も姿を変えていく映画

と、中盤でミステリ物からホラーに様変わりする本作。ここまででも充分「そういう話!?」となりまくってすごくおもしろいんだけどここからさらにカンフーものにチェンジし、最終的に「もはやこれはモンスターパニックものだろ…」みたいな圧倒的ラストバトルへと突入する。なんだこの映画。

ちょっと前までの暗い雰囲気はどこへやら、カラッとした村を縦横無尽に駆け回るドニー・イェン!
村に迫る最強の暗殺集団「七十二地刹」!! カッコよすぎる名前!!!!

いったいこの映画、「ナニ映画」なんだよ! と思ってしまうかもしれない!
だが皆さん……思い出していただきたい本作の原題を!

そう、本作の原題は『武侠』なのだ。武侠とは武を伴った任侠、つまり「義」を重んじ、自らの正義と信念を護るために力を振るうものたちの物語。

これまで散々カンフー推理だのドニー・イェンに殺されるホラーだのとうそぶいてきたが、つまるところ本作はそうした「真の漢」たちの心震わせる人間ドラマなんだよな。

過去のトラウマから法に縛られた人生を送るシュウの心が、武侠そのものであるジンシーと出会うことで……あたかも本作のジャンルが何度も姿を変えるように……変化を続けていく様にはグッと来るものがあるぜ。

なんだろうな、「ジンシーみたいな男になりたいぜ!」って話でもないんだよな。そもそもシュウ自身、自分なりの正義と信念が元々あるわけだ。それは自分の身を守るための、ともすれば「弱い」考えかもしれないけど、でも私は見ていて「シュウの考え方は間違ってるぜ!」と言い切ることもできねえ。そういう自分ルールって大事だと思う。劇中だと割と一貫して否定的に描かれてはいるけどさ!

ではそんなシュウの心が「変わっていく」のはなぜか? シュウの正義が間違っていたからなのか?
……そういうわけでなくて結局は「縁」なんじゃあないかと思うんだよな。

川から落とされたジンシーは、シュウにこう語る。

「万物は絡み合った縁でできている。独立した存在は無い」
「縁からは逃げられない、誰かの過ちは縁が生んだ過ちだ。誰もが共犯だ」

これはジンシーが、自らの人生を皮肉った言葉にも聞こえるけど結局本作を取り囲んでいるいちばんの精神ってこれなんじゃあないかと思う。

人や状況と絡み合ったことで、いいことにも悪いことにもあらゆることに影響というのは現れる。それを「運命」と呼ぶこともできるけど、「縁」と呼んだほうがなんとなく……身近だ。「運命」は神の意志のように感じられるけど、「縁」となるとそれは避けようがない自然現象のように感じられる。

結局、シュウに起きた「変化」はそうした、上位の意志によるものではない、人と人が出会ってしまったことによる避けられない自然な出来事……。そういうことなんじゃあねえかなって今になってみると思うよ。なにが言いたいんでしたっけ。自分で理屈を捏ねてるうちによくわからなくなってきました。なんだろう、良縁に恵まれたいよね! 何事も!

また、そうした精神に響きまくるテーマ性とはまったく別に、「あの要素はこの描写のためにあったのか!!!」という布石の撒き方、映像作品としての作りもものすごくうまく、素直に舌を巻いてしまうつくりになっている。下手するとウマすぎて爆笑してしまうことだろう。LESSON5はこのために!

ロケ地やアクション、画面づくりもひたすらキレイで満足感が強いしアクションや仕掛けは痛快! そしてメッセージ的なものはなんかしんみりする。そんな気持ちのいい映画となっております『捜査官X』!

人生のベスト1映画ではないけど、最近「なんかおもしろい映画ある?」って聞かれたときについ名前を挙げちゃうくらいのちょうどいいポジションとして君臨しております。おすすめです。見ろ!

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