『ザ・プロム(原題:The Prom)』
Netflixオリジナルで現在劇場公開も行われているミュージカル映画『ザ・プロム(原題:The Prom)』
本作は、タイトルの通り「プロム」を題材にした映画だが、そのプロムへの参加を巡って、同性愛者の主人公エマはPTAや同級生からの弾圧に苦しんだ。
物語の根底にある、同性愛者への強い差別意識の理由、また、題材となった「プロム」の持つ課題とそれに対する本作のアンサーについて考える。
舞台となったインディアナ州の性質について
本作の舞台「インディアナ州」は、アメリカの中西部に位置する州であり、この州の性質が本作の内容に大きく影響している。
インディアナ州は大統領選挙において、共和党を支持する傾向がある州(=赤い州)として強い地盤だと考えられており、アメリカの二大政党について端的に分けると民主党はリベラル、共和党は保守である。
劇中では、ブロードウェイミュージカル俳優達が、田舎↔︎都会という形で揶揄していたが、共和党支持の地盤はアメリカ南部や中西部の農業地帯が主なためそうした認識が存在する。
ここで重要なのは、共和党支持の地盤となる保守派の州では敬虔なキリスト教徒が多いことである。
キリスト教において、同性愛は性的逸脱であり、宗教上の罪だとする意識が以前は強く存在したが、現在では罪とする立場から積極的に受容する立場まで幅広く存在する。
しかし、そのような状況の中、プロテスタント系クリスチャンは同性愛を罪だとみなす傾向が強く、インディアナ州は圧倒的にプロテスタントが多い地域なのである。
保守的で敬虔なクリスチャンが多い共和党支持の地盤となる地域では、本作で描かれるような同性愛者への弾圧や差別意識が強く存在する。
実際に、本作のように同性愛者のプロム参加を否定するケースは数多く存在し、2010年にミシシッピ州で発生したケースでは、本作中盤の展開と全く同じ「ニセのプロム」を用意し、一部生徒のみ誘導するという陰湿な事件も実際に起きている(参照)。
実際起きたその事件は、学校側に賠償命令が下され、グリーンデイやランス・バスなどの著名人からの支援によって新たにプロムを開催するといった、映画の展開に近い結末を迎えた。












映画では、主人公の同級生に対して「マスターベーション」等を引き合いに出し、聖書の教えの中から「選り好みはできない」と諭し理解を得る展開があり、拍子抜けするほどあっさり考えを改める若者の姿が描かれるが、柔軟な若者は極端で不条理な考えに染まる前にまだ改める余地がある、そうあって欲しいというメッセージを強く感じると同時に、そのきっかけとして本作が多くの人に楽しまれて欲しいと願う。
「プロム」という題材について
アメリカの高校生が卒業前に男女のペアでダンスするイベント「プロム」。
多くの高校を舞台とした創作で青春の象徴のように描かれるイベントだが、その実非常に保守的なイベントのため、本作で描かれるような痛ましい事件も起こってしまう。
女性はドレス、男性はタキシードと決まっており、男性は車で女性を迎えに行く、プロムの前には男性が女性をレストランへ誘い予約・支払いを全て行う、生徒の投票でプロムキング・クイーンを選出しペアを組ませる…といった前時代的な慣習が未だに行われる「プロム」。
しかしながら、多くの創作で描かれるような煌びやかで青春の象徴のようなイベントのポジティブな側面は確実に存在し、楽しむ生徒がいるのも事実であり、ここで求められるのはプロム自体の否定ではなく、排除される者をなくすという新しい形のプロムである。






現代は、前述のミシシッピでの事件を受けての「誰でも参加できるプロム」、本作で描かれるマイノリティを排除しないプロムという今の時代にあった形への転換が求められる時代だと思う。
本作『ザ・プロム』は、すべての人が楽しめる「新しいプロム像」を提示し、視聴者が固定観念や差別意識に対して課題意識を持つきっかけにもなり得るが、そうしたメッセージが説教臭くなく非常に上質なミュージカルとしてキャッチーに仕上がっており、万人におすすめできるミュージカル作品となっている。






エンディング曲『Wear Your Crown』では本作でメインキャラを演じるメリル・ストリープがラップをするというそれだけでちょっと面白い曲なのだが、「Crown」とはプロムキング・クイーンが身につける王冠・ティアラを指しており、一人だけ選ぶような従来のスタイルではなく、すべての人が排除されずクラウンを身につけて良いという新しいスタイルを最後まで示した映画となっている。
『ザ・プロム』作品概要
『ザ・プロム』(原題The Prom)
監督:ライアン・マーフィー
キャスト:メリル・ストリープ、ジェームズ・コーデン、ニコール・キッドマン、キーガン=マイケル・キー、アンドリュー・ラネルズ、アリアナ・デボーズ、ジョー・エレン・ペルマン、ケリー・ワシントン
上映時間:131分
製作国:アメリカ(2020年)
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ニューヨークの人気舞台俳優ディーディー・アレンとバリー・グリックマンは、予算を注ぎ込んだ新作ブロードウェイミュージカルが大コケ。突如として役者生命の危機が訪れ大ピンチに。
一方、インディアナ州の田舎町では、高校生のエマ・ノーランが悲嘆に暮れていた。校長の尽力むなしく、PTA会長から、エマとガールフレンドのアリッサが一緒にプロムに参加することを禁止されたのだ。
エマの境遇を知ったディーディーとバリーは、この機に乗じて自分たちのイメージを挽回すべく、同じくキャリアアップを図る皮肉屋の俳優たち、アンジー、トレントと連れ立ち一路インディアナへ向かう。ところが、セレブたちの下心丸出しの社会運動が思いもよらない展開に…。
心を入れ替え、エマが自分らしく楽しめるプロムを実現すべく奮闘する4人の人生にも、やがて大きな変化が訪れる。