『Vtuber渚』レビュー/多くの賞を獲得した傑作短編映画と『バーチャル男』について

『Vtuber渚』

あらすじ

控えめで人見知りな性格なのに、みんなに愛されたい気持ちは人一倍ある女の子あきこ。アイドルを目指すが人気が出ず挫折。承認欲求のはけ口を探して勇気を出して応募したのは、バーチャルユーチューバーの中の人の仕事だった。

GAZEBO監督によって2019年に制作され、渋谷tanpen映画祭にて上映された『Vtuber渚』
先日行われた文化庁メディア芸術祭をはじめ、京都国際映画祭等様々な映画祭で上映・受賞しており、昨年から今年にかけて非常に勢いのある短編映画で、端的に言うとプロデューサーや演者を含めた「Vtuberの裏側」を描いた作品である。

https://youtu.be/gMIHBY9Gbdkより

元地下アイドルの女性がVtuberとしてデビューするまでを描いており、肥大化した承認欲求によるルサンチマン的な鬱屈や、アイドルとして大成できなかったことに対する憤りをVtuberとして昇華させようとする姿、何者かになろうともがく姿、そしてVtuber制作の裏側を30分程度の短編映画としてまとめており、ドラマ的な脚色はあるもののリアリティを感じさせる非常に面白い作品となっている。
現在YouTubeにて公開されているため、ぜひ鑑賞いただきたい1本。

https://youtu.be/gMIHBY9Gbdkより

本作は、何者かになろうとする際の、無理した姿ありのままの姿も肯定的に描くことで美しさや鑑賞後の心地良さを感じるが、それは裏方で仕組まれている企画や編集ありきな部分があり、主人公の「あの動画が面白いのかどうなのか私にはわからなかったけど」と言うセリフにもある通り、創作や表現で他者からマネジメントを受ける際の本人の苦悩や、消費者として受け取る側はフィルターを通して作品や人物を受け取っているという生々しい現実を描いている点にも面白さを感じると同時に、実際にそうした経験のある方などは「ウッ!!」となってしまうかもしれない。

同様のテーマを扱った『バーチャル男』について

物語の題材として「Vtuberの裏側」は『Vtuber渚』が見事に描いたが、本作と近い時期に同様のテーマを扱った映画が公開されている。
それが『バーチャル男』

当サイトにも寄稿いただいたことのある、ミュージシャンとしてはbool、バーチャルワールドクリエイターとしてはyoung YAA、Vtuberとしてはミソシタと多くの名義で多彩に活躍する彼が、ミソシタ名義で監督を務め、1週間限定でヒューマントラストシネマ渋谷で公開された幻の映画『バーチャル男』。

(C)2019 ミソシタ

「モテたい」という理由でVtuberになろうとする39歳無職の男性がVtuberになり活躍する姿をドキュメンタリー風に描いた本作。
『バーチャル男』が『Vtuber渚』と異なる点は、Vtuberとして大成した以降の姿も描き、自己の本質や現実での評価とネットでの評価のギャップに苦しむ姿や、それに対するこの作品としてのアンサーを描いている。

ペラ1のプロットしか存在せず、全編アドリブで制作された(監督談)本作は、その他の監督関連作品を通っていないとノリきれない部分も多く、荒唐無稽な設定や展開が存在するため、純粋に『Vtuber渚』と同様の作品という訳ではない。
しかし、『Vtuber渚』でも描かれている、職場(非ネット)での評価や立ち位置に対する鬱屈は、エンディングの先の物語にも存在する可能性が高く、状況によってはそれがより強く本人を傷つけるかもしれない。
そうした苦悩をギャグテイストでありながらも、Vtuberとして隆盛を誇った監督が描いた『バーチャル男』という作品が存在する必然性を『Vtuber渚』のヒットによって改めて認識した。
当時とはVtuberを取り巻く環境が変化した今の時期に、改めて『Vtuber渚』と併せて鑑賞しても面白い作品だろう。

※現在配信等は行っていないため、興味のある方はDVDが同梱されているCDを購入して鑑賞しよう。

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